「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年4月号
ブックガイド
障害者自立支援法に関するおすすめの本
平野方紹
平成18年4月から障害者自立支援法(以下「支援法」)が本格実施されました。とはいえ制度がスタートした今でも、制度の具体的内容がよくわからない、今後の障害福祉の展望がなかなか見えてこない、という声は少なくないようです。審査会での障害程度区分の二次判定の全面実施、施設サービス利用方法の変更、障害福祉計画の策定などは本年10月施行であり、その先にも施設の新体系への移行や障害児福祉施設の利用契約制度化など、支援法による制度改革はまだまだ続くのですから、わからないままでは困ります。
三障害の統合、就労支援型福祉への転換、利用者負担の見直し、脱施設・地域支援の徹底など障害福祉にとって大転換となった支援法ですが、これを理解しようとするとなかなか難儀です。その理由として次の点が考えられます。
(1)支援法成立の背景が障害福祉の理念やあり方、財政問題、制度問題など複雑であり、それぞれの課題や問題を分析したうえで総合的に理解しないと全体像が見えない。
(2)支援法の内容が、福祉サービスだけでなく、医療、計画など多分野にわたり、しかもサービス内容、実施体制、利用者負担と構造的改革であり、全体の関連が見えない。
(3)介護保険法改正や三位一体財政改革など障害福祉をとりまく状況とも深く関連しており、なぜ支援法が登場したのか、今後の動向はどうなるのかが見えない。
(4)平成16年の「障害保健福祉のグランドデザイン」の提示から支援法成立まで1年、さらに成立から本格施行まで半年という「超高速」であったため、制度内容が後追いになり、具体像が見えない。
こうしたこともあってか、これだけの大改革にしては支援法についての本は意外に少ないのですが、その中から、比較的わかりやすい本をいくつか紹介しましょう。
1.支援法とその制度内容を学ぶ
とりあえず支援法の概要を理解するなら次の3冊です。
1.全国社会福祉協議会編『障害者自立支援法のポイント』全国社会福祉協議会、2005年
2.京極高宣著『障害者自立支援法の解説』全国社会福祉協議会、2005年
3.『障害者自立支援法―新法と主要関連新旧対照表―』中央法規、2005年
このうち、3は法律の説明ですので行政関係者向きです。とにかく支援法を理解したというのであれば1・2がお薦めです。特に2は社会保障審議会障害者部会長として支援法成立に関わった京極氏がまとめたこともあり、背景や全体像が理解しやすいものとなっています。なお、支援法をめぐってはその賛否をめぐって大きな議論があることも事実です。このため、支援法に批判的な立場からも次の解説書が出されています。
4.障害者生活支援システム研究会編『障害者自立支援法活用の手引き―制度の理解と改善のために―』かもがわ出版、2006年
2が制度立案側から、4は利用者側からと立場を異にしており、同じ支援法でも随分と理解に違いがありますが、こうした多面性が支援法の特徴ともいえます。
2.支援法成立の背景と支援法の理念
グランドデザインから支援法に至る経緯とその背景については、やはり支援法のプロデューサーである京極氏の次の2冊を読むことが理解への早道です。
5.京極高宣『介護保険改革と障害者グランドデザイン―新しい社会保障の考え方―』中央法規、2005年
6.京極高宣『新版国民皆介護―障害者自立支援法の成立―』北隆館、2005年
京極氏は、障害者施策と介護保険の統合により必要な財源を確保するとともに、障害福祉を国民全体で支えるものにすることを提言し、障害福祉が従前のニーズ対応型「後追い」行政から、計画型行政へと転換する重要性を論じており、その実現が支援法の理念であるとしています。
これに対する反論も少なからずあります。支援法の意義の一つは、立ち後れている精神障害者福祉を推進するため三障害を統合することですが、その精神障害者福祉関係者がどのように受け止めているか、その評価を紹介しましょう。
7.岡崎伸郎・岩尾俊一郎編『「障害者自立支援法」時代を生き抜くために』批評社、2006年
支援法の理念と現実の乖離から生じる精神障害者や現場の複雑な思いが、ここでは精神保健福祉の各方面から報告されています。
3.支援法を考えるヒントを探る
支援法により障害福祉が大きく変わることは事実ですが、支援法だけを見ていては今後の課題は見えてきません。次の本は、支援法の背景となる今日の福祉状況を、経済学という視点から論じた、経済学者による「障害者論」ですが、支援法の目的とされる就労促進や地域生活支援について、新たな切り口からその課題も見えてきます。
8.中島隆信『障害者の経済学』東洋経済新報社、2006年
ようやく支援法が施行されたというのに、もう国会では介護保険の見直しと支援法との「統合」が議論の俎上にあがるなど、支援法をめぐる動向は急スピードで加速しています。支援法をしっかりと理解するとともに、障害福祉はこれからどうあるべきかをしっかりと見通せる議論が求められています。
(ひらのまさあき 日本社会事業大学)