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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年6月号

障害者福祉の推進をめざして、市町村キャラバンの実施
埼玉県障害者協議会の取り組み

新井真一

はじめに

平成15年4月に実施された「支援費制度」は、居宅サービスなど一部が充実したこともあり、障害者の社会参加、自立の促進に大きな役割を果たしましたが、市町村財政の厳しさから市町村格差が生じるとともに、独自施策の縮小なども出てきています。

一方で、「障害者自立支援法」(以下、自立支援法)の審議が国会で進んでいたこともあり、各市町村では新たな「障害福祉計画」の策定を検討するなど、市町村の取り組みも進んでいました。

こうした障害者福祉の転機を前にして、各障害者団体でも研修会の開催、国や県への要請活動が取り組まれる中で、市町村へも要請活動を強めようという声が大きくなりました。この声を受けて埼玉県障害者協議会(以下、埼玉障協)と埼玉県障害者社会参加推進センター(以下、センター)で構成する地方障害者施策推進委員会では論議を重ね、市町村キャラバン(以下、キャラバン)を実施することになりました。

今まで障害者福祉の節目を迎えた時に過去に2回実施してきましたが、昨年行った3回目のキャラバンは、ちょうど自立支援法の成立時期にも重なり、参加者の関心も高く、熱気あふれるものとなりました。今回は、昨年実施したキャラバンの報告と障害者団体の役割について考えてみたいと思います。

共通認識を大切に

キャラバンの実施にあたり、以下の内容を共通認識として確認し合いました。

(1)支援費制度の充実、拡充を図ること(この時点では、自立支援法の行方が定かでなかった)

(2)地域における障害者団体間の交流を図るとともに、可能な限り各市町村ごとの要請書を提出し、その後の懇談に引き継ぐこと

(3)支援費制度、自立支援法など障害者福祉に関して共通認識を大切にしながら進めること

また、キャラバンに係る予算については、各団体からの負担金(一口5千円)を中心に、一部埼玉障協などが負担することなどを申し合わせました。

この申し合わせのもと、キャラバンを成功させるために、市町村障害者団体間の交流、共通した認識づくりを目的に、地域集会(県内4か所)の開催、統一要請書の作成、市町村アンケートの実施、キャラバンの実施(表)を決めるとともに、次のような統一要請書も作成しました。

要請項目の概要は、次のとおりです。

(1)障害者福祉の推進のために、

  1. 早急に市町村障害者計画の見直しを進めてください
  2. 地方(市町村)障害者施策推進協議会を設置してください
  3. 市町村地域福祉計画を策定してください

(2)支援費制度の充実を

  1. 支援費の支給量については、障害者が必要とする量を支給してください
  2. 入所・通所施設、ショートステイ(短期入所)など基盤整備を図ってください
  3. 個々の障害者に情報が届くよう、特別な配慮をしてください
  4. ケースワーカーの増員を図ってください

表 市町村キャラバン日程表

日程 1.コース 1.集合  9:40 1.集合 12:40 1.集合 15:10
2.要請 10:00 2.要請 13:10 2.要請 15:20
11月14日(月) A-1 小鹿野町 秩父市 横瀬町
A-2 寄居町 長瀞町 皆野町
A-3 上里町 神川町 美里町
A-4 本庄市 深谷市 江南町
11月15日(火) B-1 熊谷市 行田市 羽生市
B-2 加須市 北川辺町 大利根町
B-3 吉見町 鴻巣市 騎西町
B-4 上尾市 桶川市 北本市
11月16日(水) C-1 都幾川村 小川町 東秩父村
C-2 東松山市 滑川町 嵐山町
C-3 鶴ヶ島市 坂戸市 川島町
C-4 日高市 毛呂山町 越生町
11月17日(木) D-1 狭山市 入間市 飯能市
D-2 新座市 朝霞市 和光市
D-3 志木市 富士見市 ふじみ野市
D-4 三芳町 所沢市 川越市
11月18日(金) E-1 伊奈町 菖蒲町 蓮田市
E-2 白岡町 久喜市 宮代町
E-3 鷲宮町 栗橋町 幸手市
E-4 杉戸町 春日部市 松伏町
11月21日(月) F-1 越谷市 吉川市 三郷市
F-2 八潮市 草加市 鳩ヶ谷市
F-3 川口市 蕨市 戸田市
F-4 鳩山町    

地域集会で活発な意見交換

県内の東部・西部・南部・北部(春日部市、川越市、川口市、熊谷市)の4か所で開催した地域集会では、どの地域でも予定した参加人数を上回りました。集会では、施設が足りない、ショートステイが利用できない、支援費の支給量が足りない、利用できる居宅介護事業所がないなど、市町村の基盤整備の遅れが指摘されました。自立支援法関係でも利用料が払えない、認定区分は障害者の実態が反映されるのか、市町村では説明してくれないなど、不安の声が多く出されました。

また、事前に行った市町村アンケートでは、障害者計画の見直しをするとした市町村が74%ありましたが、計画に盛り込んだ数値目標が達成できないとした市町村も68%に上り、特に、入所・通所施設、ショートステイ、グループホームなどで目立ちました。ホームヘルパーの不足は9%にとどまっている状況も明らかになりました。

キャラバン参加者1200人を超える―行政関係者と懇談―

今回のキャラバン成功の背景には、市町村合併による障害者福祉の見直し、市町村障害者計画の見直し時期に入っていたこと、市町村の基盤整備の遅れ、自立支援法の動きなどもあり、障害者や家族、施設関係者の関心が高かったことがあげられます。

実施したキャラバンは7日間で、のべ1200人余りが参加し、市町村の行政関係者も首長を含め300人近い方々が出席してくれました。要請書に対する回答をはじめ地元の障害者福祉制度、自立支援法の問題などについて懇談しました。

各コース責任者から報告された懇談内容を以下に紹介します。

市町村格差があること(コース責任者は1日3市町村を巡るため、各市町村の状況がよく分かります)。全体的に基盤整備が遅れていること。自立支援法の動きに市町村が対応できていないこと。障害者や家族の実態と行政側の認識の相違(ヘルパーは充足していても早朝や夜間、休日など利用できなければ、いないのと同じなど)がかなりあること、市町村障害者計画の策定委員会は設置するが、施策推進協議会の設置を嫌がる、自立支援法を理解していない、財政が厳しいことを理由に福祉予算を削減、もっと知恵を働かせる必要がある、などの多くの意見が出されました。

以上の意見の他に、参加者も多く、和やかな中にも活発な意見交換がなされ、有意義なキャラバンだった、という感想も寄せられました。

また、埼玉障協や実行委員会へは、次の要望が寄せられました。資料(パンフレット)が不足した、懇談する時間が短かすぎる、キャラバンが終了した後も市町村の障害者団体に対して情報の提供を含め支援してほしい。このようなキャラバンを年1回くらい行う必要がある、連絡体制をきめ細かくしてほしい、などです。

今年2月11日に開催したキャラバンの報告集会(コース責任者、地区責任者など50数人が参加)でも同じような問題が出されるとともに、自立支援法の施行を前にして、地域での学習会を組織して、県や市町村に再度働きかける必要があるなど、多くの意見が出されました。

今年度も取り組みを継続

本年4月1日より自立支援法の一部(利用料負担)が施行され、通所施設を退所する、ホームヘルパーの利用を控えるなど、障害者や家族に深刻な影響が出始めています。こうした利用の制限は日常生活の質の低下や社会参加の制限をするものです。

また、市町村では認定審査会の設置、障害福祉計画の策定準備などが進んでいます。こうした状況の中で、今年度は、自立支援法の充実を求めて、利用料負担の軽減などを中心に県民集会(仮称)や地域集会、地域でのキャラバンなどを実施することになっています。

障害者福祉が市町村事業となる中で、各障害者団体の連絡協議会としての埼玉障協や障害種別を越えた障害者の社会参加、自立の推進をめざすセンターの役割はますます重要になります。

その役割を果たすため、1.国や県の障害者福祉に関する情報を提供すること、2.市町村における障害者団体間の交流、取り組みを支援すること、3.県や市町村に対し基盤整備などを含め要請活動を強めるとともに、行政と連携した施策づくりを進めること、4.市町村や県の取り組みを通じて障害者や家族の願いを国に届けること、5.障害者や家族の実態を把握しながら自立支援法の課題を明らかにすること、などが求められていると思います。

市町村合併を新たなスタートに

今回のキャラバンでは、市町村合併が一つの影を落としたことは間違いありません。合併したばかりの市町村、合併を前にした市町村も含めて、「合併」を理由に”今後の検討課題になっています“と回答する場面が多くありました。

合併で地域がなくなることでもなく、そこに住む障害者や家族がいなくなるわけでもありません。障害者や家族は、合併が行われても福祉サービスが低下することなく、地域の中で安心して暮らせる状況を求めています。

自治体の障害者福祉を推進させていくためには、私たち障害者団体が市町村障害福祉計画の策定に関与していくことが必要です。

市町村合併が行財政の効率化を求めている中で、障害者福祉の縮小、削減が進みますが、私たちにとって新たな地域活動のスタートとして捉え、障害種別を越えた組織づくりをして今後も行政に働きかけていきたいと考えています。

(あらいしんいち 埼玉県障害者協議会)