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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年7月号

1000字提言

「県庁の星」に思うこと

北野義明

今春公開されていた映画「県庁の星」。私自身が県公務員ということもあって興味深く観ました。織田裕二扮するエリート公務員が民間研修先での出来事や人々とのふれあいの中で意識改革していくストーリーでしたが、その中で描写されている公務員の姿がいかにもありがちで、愉快に楽しみました。しかし、同時に「ありがち」では済まされないという念に駆られました。たとえば、住民から県への直接の問い合わせに対して「そんなの市の○○課担当だろ」と全く取り合わないシーンがありました。一般的に、住民の直接サービスは市町村が担い、その後方支援を県が担うといった行政の仕切りがあり、役割分担として間違ってはないと思います。そういう意味では、映画の対応通り、市の窓口に聞いたほうがより的確な回答が得られるでしょう。しかし、それで済まされて良いのでしょうか?問い合わせの内容によっては、県が答えるべきこともあるはずで、少なくとも内容を伺ってから対応すべきです。もしかすると、その内容に今後の施策のヒントが隠されていたかもしれませんし、そもそも、その住民が県に問い合わせた事自体が県に対するニーズなのです。

県の機関で働いていて、行政施策や事業、予算や業務分担、そして行政のしきたりに拘束されすぎているのではと感じることがあります。これらは、より良い住民サービスを行い、より豊かな社会を作るためのものでなくてはならず、これらを遵守したり処理したりする事が第一となって、住民をないがしろにしてしまうのは本末転倒です。この映画の例もそうではないでしょうか?

県行政の話だけではありません。私たちそれぞれが、自分の中のモノサシだけで決めつけたり判断したりしていないでしょうか?自分が何をしたいかというだけではなく、相手が何を求めているのかを相手の立場になって考えて行動する。それが問題解決の糸口になるはずです。そして、相手を思いやる意識を持っていくことが、相手がいて、周囲の方々がいて成り立っているこの社会を豊かなものにしていくと思います。さまざまな方々の生活そして人生に関わる機会の多い私たち(そして読者の皆様)は尚更のこと、主人公である利用者を中心に考えていく姿勢を改めて考え直すべきだと思います。

映画では、エリート公務員が住民の立場になって考えるように意識改革していきますが、すぐにすべてがうまくいくわけではありませんでした。しかし、その意識は少しずつでも着実に実を結ぶと示唆されていたと思います。私たちも、常に相手の立場になって考える意識を強くしっかり持っていきましょう。それこそがすべてのスタートになるはずです。

(きたのよしあき 石川県リハビリテーションセンターバリアフリー推進工房)