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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年7月号

列島縦断ネットワーキング【愛知】

地域に根付いた笑い太鼓をめざして

工房笑い太鼓

高次脳機能障害支援モデル事業と笑い太鼓の設立

平成13年度から始まった厚生労働省による高次脳機能障害支援モデル事業も、18年の3月で終了しました。

このモデル事業により、見えなかった障害、見ようとしなかった障害が、見えるようになるのかという不安はありますが、全国の脳外傷友の会のわが子を思う親心が、大河となって国の流れを変えるエネルギーになったことは、大いに意義のあるものと思います。

偶然にもこの5年間は、私たち笑い太鼓が歩んだ道でもあります。今回は、笑い太鼓の5年間の歩みと取り組みについてご紹介したいと思います。

当事者やその家族の悩みは、高次脳機能障害という外からは見えない障害と、今までの生活状態を一変させてしまう暗闇の世界と向き合うことでした。それは同時に、障害を見ようとしない医療関係者や行政関係者との闘いでもありました。そんな仲間の集う場所としてなくてはならない大きな存在の笑い太鼓が走り出したのです。

地域との交流と太鼓の演奏会

作業所を開所するとき、何のこだわりもなく、家屋を貸してくれた大家さん。「若いお兄さんたちがここに来てくれて、明るく賑やかになった」と喜んでくれた地域の皆さん。そんな善意あふれる温かい心の人たちに恵まれて、あっという間に5年が過ぎてしまいました。

作業所の前には、四季折々に彩りを変える東田仲の町公園があります。朝は、作業前のラジオ体操、昼休みはボール遊び、タバコ組はベンチでの食後の一服、帰りの一服、そして時にはピクニック気分のアウトドアランチなど、仲間たちの憩いの場となっています。

そんな公園利用の恩返しは、公園の掃除です。草取りや、トイレの掃除などを定期的に行っています。

また毎年4月には、公園の満開の桜の下で「笑い太鼓桜まつりバザー」を開催します。おしるこを無料で配ったり、カレーライス、だんご、焼きそばなどの人気メニューのほか、花や野菜、100円からの激安衣料や家族会手作りの「笑い太鼓グッズ」をそろえて、日ごろお世話になっている地域の皆さんとの交流の場となっています。

作業所には、20代から50代までの幅広い年齢の当事者が毎日通ってきます。初めて来所した時は、「何でここに来ないといけないんだ」とふてくされていた当事者が、1か月、2か月と日が経つにつれ、穏やかな笑顔ですっかり溶け込んでいきました。そんな様子を見ると、このために笑い太鼓を運営しているのだという充実感が沸いてきます。

いま、全員で、太鼓の演奏にも取り組んでいます。近くにある桜丘高校の太鼓部やOBの皆さん、それに諸先生方の熱心なご指導をいただき、市内各地のイベントで、演奏をさせていただいています。おかげで、人前での太鼓の演奏もようやく様になってきて、少しずつ「演奏者」らしくなってきました。太鼓はその都度、桜丘高校から貸してもらっています。同高校から寄贈されたおそろいのピンクの法被を着て、無心になって打つ太鼓の響きは聞く人の心に感動を与えます。でも本人たちは、あまり感動している様子がありません。それがまた高次脳機能障害の辛くて悲しいところでもあるのですが…。

また、家族会としては、家族の苦しみや悩みが少しでも軽くなるような取り組みをしています。月1回の定例会を午後6時半から9時まで行いますが、ほとんどの家族が出席します。定例会では情報交換や役割分担を話し合います。就労グループ、就労待機グループ、就労訓練グループ、自立訓練グループ、精神訓練グループとそれぞれの立場での悩みを共有し助け合っています。

そんな笑い太鼓は町の人たちの関心も高く、病院、行政、個人からの相談が絶えません。話を聞くと、私たちが笑い太鼓を作る前に悩んでいた苦しみや悲しみが感じられ、「じゃあ、一緒にやろう」と声をかけています。

定員10人の作業所に通ってくる登録者数はいつの間にか28人になりました。この豊橋には、残念なことに高次脳機能障害を深く理解して受け入れてくれる医療機関がありません。これも私たちの活動がまだ未熟なせいかと反省しつつ、1日でも早くそうした医療機関ができることを望んでいます。

後援会とNPOの立ち上げ

グループホームは、一戸建ての古家を借りて、現在、4人が利用しています。その運営費や指導員の給料を確保する必要があります。そこで私たちは、笑い太鼓の活動を理解し、協力してくださる人や福祉に理解のある方々に役員になっていただき、昨年の6月19日の「工房笑い太鼓5周年記念」の会場で、後援会の立ち上げを発表しました。

千余人集まった会場で、第一次の会員確保目標を500人と決めました。会合ではどうやって会員になっていただくか家族会でいろいろ話し合い、まずは親戚、知人、友人に直接お願いすることにしました。当初は多くの会員を集めることは難しいように思えましたが、以前の勤務先の集会に出向き熱心にお願いしたAさん、所属する趣味の会の方々に呼びかけたBさん、同窓会でパンフレットを配ったCさん、教え子に窮状を訴えたDさんなど、家族会全員の地道な行動が多くの方の心を動かし、会員数が増えていきました。現在、個人会員数が688人、法人会員が25社(平成18年5月末現在)となり、今も増え続けています。

家族会は、後援会の会員確保と同時にNPO法人設立にも取り組み、今年の5月11日に認証され、「NPO法人高次脳機能障害者支援 笑い太鼓」が誕生しました。

事業は次のとおりです。

1 当事者の社会復帰のための就労訓練
2 家族の相談や、グループホームを含む生活支援
3 この障害の正しい理解を広める啓発支援
4 当事者の社会参加を促進する支援
5 当事者の職能訓練や就労訓練

NPO法人として新たなスタートをした笑い太鼓ですが、作業所も新築しました。5月27日は、笑い太鼓の一大イベントで、作業所の新築披露とNPO設立記念式典、記念バザーを開催しました。多くの皆さんに祝福された、とても中身の濃い1日でした。

今後は、笑い太鼓の活動をもっと広く理解していただくために、多くの支援者と手を繋ぎ、増え続けると思われる高次脳機能障害者の支援者として、笑い太鼓自身が力をつけていきたいと思います。また、これからの5年間の目標としては、広くて明るいグループホームを建設し、親亡き後の当事者が安心して暮らせる充実した環境づくりを考えていきたいと思っています。