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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年8月号

1000字提言

親ある今、親のための施策も重要

広田和子

精神障害者をもつ親にとっては、子どもがいくつになっても多くの人々が、「この子を残して死ねない」と思い悩んでいます。こうしたところから「親亡き後を安心して暮らすために」というようなタイトルの講演会の講師として招かれます。

講演会で私は、「親亡き後、と皆さんが悩んでおられる気持ちは、この国の精神障害者の一人として理解していますが、親が亡くなった後、後追い自殺した話は聞いたことがありません。どうぞご安心して死んでください」とお話します。

こうして死んでくださいと文章化されますと過激に感じられると思いますが、笑顔で家族の方たちに語りかけると、「広田さん!死んでいいんですか?」と問いかけられます。「ええ!どうぞご安心して寿命がきたら死んでください」と答えますと、「ああ良かった」と言われます。

そうした老齢化した家族と共に暮らしている本人にとって、親との同居が大変な負担となってきています。親を老人ホームに入れたくても老人ホームは横浜市の場合、1人の空き待ちに800人待ちの状況です。

親は「この子を残して死ねない」と思いつつ精神障害者と暮らしています。しかし多くの相談者の現状、そして私自身の体験から見えてくるものは、親が他の子どもと同居できず、精神障害者の子どもとしか暮らせないのが現実だと受け止めています。

少子高齢化と言われるこの社会の中で、親のための“安心して暮らせる”社会資源が早急に求められていると私は痛感しています。ところが親のための社会資源を求める声は表面化しません。

長年、精神障害者は家族から見て入院の対象者でした。家族間でトラブルが起こり、本人が怒りのため手をあげたとしても家族は本人を入院させようとしてきました。家族間の緊張を回避するため親がレスパイトケアでリフレッシュしてくれば、本人の入院を防ぐこともできると危機介入の相談活動をして、自宅の一室を“かけ込み寺”として解放している体験から痛感しています。

しかし、今回の障害者自立支援法で三障害一緒になったということで、家族会などで活動している人が他障害並みの重度障害者医療費制度を要望しています。また、患者の中でも、そのことに問題を感じていない人もいます。

私は精神医療サバイバーとして、医療費を無料にすることは、入院促進の側面があるので、あぶない施策だと捉えています。そうしたところにお金を使うより、親ある今、精神障害者が安心して暮らしていけるための施策とともに家族に、特に老齢化の親のためのサービスが重要なのだと思っています。

(ひろたかずこ 精神医療サバイバー)