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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年8月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

JD緊急にフォーラムを開催する

太田修平

想定外の影響

全国各地の障害者が不安と動揺を強く抱き、混乱の度合いが高まりつつある。

私たちJD(日本障害者協議会)をはじめ、多くの障害者団体が反対し、または慎重審議を強く求めて国会に働きかけた、応益負担を核とする「障害者自立支援法」は、いよいよ4月から負担部分などの一部が施行された。

4月の施行まもなく、この応益負担は障害者の生活を直撃し、さまざまなところでいろいろな面で影響を及ぼしている。

例年より親子心中が多く発生している。また、名古屋の授産施設「AJUわだちの家」では、利用者一同が負担金の不払いを決議し、運動をしている。授産施設での利用料が工賃より高くなってしまい、障害のある人たちの真摯な労働意欲を削いでしまう状況が生まれたのである。

抜本的な見直しに向け行動

そこで、JDは6月3日「6.3JD緊急フォーラム 検証 障害者自立支援法施行直後の実態、そして今なすべきことは」を、全国から650人を上回る参加者のもと開催し、改めて障害者自立支援法の抜本的な見直しに向けた運動を強く展開していくことを確認した。

理事会を代表し、企画委員長である筆者が基調報告を提起した。その中で、障害者自立支援法について「応益負担の導入は、これまでの障害者政策を根本から崩す一大事」としたうえで、「昨年来の行動は障害者運動の大きな力となった」とした。さらに応益負担の矛盾と問題点を指摘し、その見直しと所得保障の確立を強く訴えた。

また自立支援医療については、治療停止という事態も予想される「障害者の生命と健康を否定するような暴挙」と糾弾したうえで、「安心して医療を受けられる制度が今改めて問われています」としている。

そして現在、国がとっている競争原理ではなく、「“連帯”や“友愛”の考え方に立って、JDは運動する」という基本姿勢を明らかにした。

矛盾・問題点が続出

さて、この日のメインはシンポジウムであった。宮代隆司さん(日本グループホーム学会)は、「運営費が日割り計算となってしまい、家族の元に戻る人もでてきており、グループホーム本来の役割という観点から大きな問題が生じ始めている」と発言した。

氏田照子さん(日本自閉症協会・JD理事)は、「障害程度区分は自閉症などの発達障害の特性を十分に反映するものになっていない」と述べ、さらに「横浜市では市独自の軽減措置を打ち出してくれ、とてもありがたいが、それによって新たな地域格差が出始めてしまっているのではないか」と危惧の念を明らかにした。

井上忠幸さん(東京コロニー・ケースワーカー)は、「日払いとなり、通所施設では利用者の体調が悪くても、無理して来てもらわなければならないという雰囲気もできつつある」と述べ、「利用者の人に、4月からは給料をもらうのではなく、私たちが払うようになったんですか?、と言われ、とてもつらい思いをした」と、苦しい事情を明かにした。

二見精一さん(足立区障害福祉課)は、「この法律やこれに基づく法令などは日々新しいものが出てきている状況で、厚労省も含めてだれも完全にわかっていない」とし、さらに「各自治体が行っている減免措置を3年後も続けさせるという視点も大事ではないだろうか」という指摘を行った。

会場からは、「更生医療が自立支援医療という形になり、1割負担はいのちの問題と直結するようになった」という切実な声、「こんな法律は、絶対に許してはならない」などの強い問題提起がなされた。

またコーディネーター役を務めた加藤房子さん(JD理事)からは、「きちんと本質的な部分を見つめていく姿勢が大切なのではないか」という感想も示された。

シンポジウムは加藤さんのほか、藤井克徳さん(JD常務理事)もコーディネーターを務め、歯切れの良い議論を進めてくれた。

秋に向けて

フォーラムの総合司会は大塚淳子さん(日本精神保健福祉士協会)が行い、明るさの中にも強さを感じさせる進行をした。

政策委員会の佐藤久夫委員長からは、JD加盟団体の障害者に対して、応益負担によって生じた経済生活に対する影響の定点調査の第一次報告がなされた。今後第二次、第三次の中で、影響の度合いについて、本格的な結果が出てくるものと思われる。JDはこのフォーラムの後の理事会で、この秋にかけて昨年のものを上回る大きな行動を幅広い形で行っていくことを確認し、関係者と調整に入ろうとしている。

なお、この日のフォーラムで確認されたアピール文は次の通りである。

6・3日本障害者協議会緊急フォーラムアピール

2006年6月3日、私たちは「6・3JD緊急フォーラム、検証 障害者自立支援法施行直後の実態、そして今なすべきことは」を開催し、東京のニッショーホールに全国から集まった。

応益負担制度を核とする「障害者自立支援法」がこの4月から一部が施行され、1割の応益負担は私たちの生活にずっしりと重くのしかかろうとしている。

私たちは障害があっても地域社会の中で、人間としての誇りをもって、働き、活動し、暮らしていきたいと願っている。

国連では、「障害者権利条約」の議論が佳境に入り、あともう少しで採択されようとしているのである。そのような中、日本の障害者施策は後戻りしている。

この状況に対し、私たちはひるむことなく、また諦めることなく、日本の社会のありようというものを変えていくために、仲間や多くの市民と連帯して闘っていく決意である。

新たなる決意のもとに、「障害者自立支援法」の改善、ならびに障害者施策のさらなる前進を求め、下記の重点要求の実現に向け、行動する。

  1. 私たちは、サービスの原則1割の応益負担を撤廃させる
  2. 私たちは、障害の重い人たちの所得保障制度を確立させる
  3. 私たちは、総合的な障害者福祉法を制定させる
  4. 私たちは、社会資源の整備に向けた特別立法を緊急に制定させる
  5. 私たちは、障害のある当事者主体の障害者政策を実現させる

以上

2006年6月3日 日本障害者協議会緊急フォーラム参加者一同

(おおたしゅうへい 日本障害者協議会企画委員長)