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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年10月号

川崎市の相談支援システム
―障害者生活支援センターの実践から―

川崎市障害保健福祉部障害者自立支援準備担当

1 川崎市の概要

川崎市は、人口約134万人の政令指定都市です。7つの行政区に分かれ、南部は工業地帯、中北部は新興住宅地で人口が増加し続けています。障害者人口は、身体障害者が2万6千人、知的障害児者が5千人、精神障害者がおおむね2万6千人、総計で5万7千人(人口比4.3%)と推計しています。

2 川崎市における相談支援システムの整備

(1)支援費制度下の障害者生活支援センター

川崎市では、平成8年に市町村生活支援事業所を1か所、地域療育等支援事業所を4か所、平成13年に知的障害者生活支援事業所9か所を設置し、障害者の相談支援を推進してきました。平成15年の支援費制度導入を機に、前記の相談支援事業を、「障害者生活支援センター」(以下「支援センター」)として名称を統一し、制度化を図りました。併せて、市内のすべての障害者施設、デイサービス事業所に、支援センター併設を求め、「障害のある方が身近な場所で身近な人に相談を」という仕組みを整えました(表1)。

表1 障害者生活支援センター事業別内訳

障害者生活支援センター事業別名称 設置数 対象 職員数 16年度実績
(1センター年平均相談件数)
障害児(者)地域療育等支援事業 在宅の障害者
(原則として施設利用者含まず)
常勤1名
(専任)
1,319件
市町村生活支援事業 1
知的障害者生活支援事業
施設・デイサービス併設型支援センター 34 当該施設利用者 常勤1~2名
(施設職員と兼務可)
373件
小規模通所授産施設併設型支援センター
精神障害者地域生活支援センター 在宅の精神障害者 常勤6名
(専任)
3,244件

名称を統一したのは、利用者にとっても関係機関にとっても同じ名称であるほうがわかりやすいこと、また、施設併設にしたのは、障害のある方やそのご家族にとってまずは自分の通っている施設で、顔見知りの相談員に気軽に相談できるようにと考えたからです。

もともと障害者施設は、本来業務として情報提供や相談支援を行っていましたので、支援センターとして公に実施することで、連携や質の向上を図ることができるようになります。すべての支援センター・施設で同様な相談支援サービス(ケアマネジメント)の導入を図りました。なお、精神障害者対策としては、平成14年に精神障害者地域生活支援センターを1か所設置しました。地域作業所やグループホーム、精神科病院においてケアマネジメント技術を活用した相談支援が試みられていましたが、この時は制度化するまでには至りませんでした。

また、支援センターの制度化を機に、平成15年9月、全支援センターと行政を含む関係機関を集めた「障害者生活支援センター連絡会」を立ち上げました。三障害の支援機関のネットワーク化と事例検討、研修、行政情報等を主たる内容として毎月開催し、三障害合同の地区別の分科会も実施しました。

(2)障害者自立支援法による支援センター強化へ

川崎市では、障害者自立支援法を利用者主体の制度改革の新たな段階と位置づけました。これほど複雑な制度を活用し、障害のある方自身が自らの判断と力で自立した生活を進めようとすれば、専門的な相談支援(ケアマネジメント支援)は不可欠です。相談支援システムは、川崎市の障害福祉計画においても重要な課題として挙げられていたことから、自立支援法施行を機にさらに大幅な整備を進めることとしました。

具体的には、現行の支援センターを委託相談支援事業者として再編するものですが、一つは、機能強化のために常勤専任化する予算配置を行ったこと、二つめは、支援センターが支給決定プロセスへ関与するシステムを整備したことです(表2)。

表2 障害者自立支援法におけるサービス支給決定プロセス
図 障害者自立支援法におけるサービス支給決定プロセス拡大図・テキスト

まず、前者ですが、平成18年4月、41か所の支援センターすべてに常勤専任の相談支援専門員を、また、各区の基幹となる支援センターに常勤専任、複数配置が可能な予算配置を行いました。これにより、かねてより弊害もあった施設職員との兼務の解消や男女複数配置が可能となりました。また、相談支援専門員の資格も指定基準より高く設定し、力量のある相談員の確保と立ち遅れていた精神障害者の支援センターについても各区整備し、三障害揃ってスタートすることとしました。

次に後者ですが、自立支援法における委託相談支援事業者は、支給決定に係る行政権限以外のすべての業務を実行できることになっていますが、川崎市では、公平性、透明性、第三者性を担保しながら、できるだけ利用者の身近で支援に当たる相談支援専門員をあらゆる支給決定プロセス内に位置づけることとしました。

障害者の自立支援を進める観点からすれば、ニーズの把握や自立への動機付けなどより困難な支援がありますが、自立支援法における支給決定・サービス利用プロセスだけでは、法の範囲内だけでのサービス利用となり、自立支援が有形無実となる恐れがあると考えました。そのため申請の際、利用者に申請書だけでなく、「申出書」を提出してもらうことにしました。これは、申請者自身のニーズと必要なサービスを記入していただき、併せて、そのための支援計画も提出してもらうものです。「申出書」の作成は、利用者自身の作業とし、支援センターが主たる役割を果たすことを期待しました。支援センターが申請時から関わることで、ケアマネジメント支援が必要な方には、最も重要なニーズを把握する段階から、関わることができることになります。

次に、サービスの支給決定においては、保健福祉センター主催によるサービス調整会議を必須としていますが、そのメンバーに支援センターの出席を必須としました、そこで、サービス利用計画書を、保健福祉センターと支援センター双方の視点で審査し、必要量に応じた支給量を決定するという方法です。

また、サービス利用計画作成費においても、川崎市では、独自に市の基準を設け、支援センターには委託費に合わせて支給することにしました。なお、前述の障害者生活支援センター連絡会は、そのまま平成18年6月より、各区主催の「自立支援協議会」へと移行しました。

3 今後の課題

自立支援法10月施行を目前に控え、認定調査、審査会、サービス調整会議、支給決定等、4月から走り続けてきた業務にゴールが見えてきました。ただし、新制度の移行はこれからですので、このシステムで、障害のある方がこの難しい制度を利用する支援が本当にできるのか、本来のケアマネジメント支援が広がるのか、相談支援専門員の力量の向上をどうするのか等、検討、検証していかなくてはなりません。川崎市では、市の自立支援協議会で有識者や利用者らとともにこれらを担っていくことにしています。