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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年11月号

「出雲成年後見センター」の取り組み

青木朋子

1 ある日の定例会

毎月1回、出雲成年後見センター(以下、センター)の定例会が開催されます。この日も、夜の7時が近くなるといつもの会議室に人が集まりはじめ、やってきたそれぞれが顔を合わせては、「お久しぶり」「この前のあのこと、どうなった?」などと立ち話。自分のネームプレートを持って好きな席に着き、情報交換やおしゃべりが続きます。

「さてそろそろ始めますか」と温和な事務局長(司法書士)のつぶやきを合図に会が始まる頃には、30~40人ほどが顔をそろえています。会長の挨拶の後、相談事例の概要や問題点をまとめたスライドが映写されます。

「ケース1.Aさん(40歳代)保佐申立」では、ケースを持ち込んだ人からの説明を受けて、早速あちこちから質問や意見が上がります。Aさんに保佐が必要かどうかにはじまり、保佐人にはどんな人が適切か、どのような方針をもって支援すべきか。医師の医学的判断、弁護士の法律的見解をみんな「そうなんだ」と感心して聞き、「でも、実際の生活場面を考えると」という福祉職の意見にもうなずきます。地域福祉権利擁護事業が関係すると社協の専門員、市長申立や行政に関わることは市職員、税金のことは税理士、不動産の問題にはその分野に詳しい行政書士。必要に応じた的確な情報を入れてくれる幅広い専門家がいるので、今後の支援の役割分担を含めて、具体的に検討が進みます。

この日話し合われた事例は3つ。いずれもセンターの会員が相談を受けた、第三者後見等が必要と考えられる事例です。支援を進めるとなれば会員のだれかが後見人等を引き受けることになるので、理想論ばかりでなく、現実的な方向性を見出そうとみんな真剣です。支援の方針を話し合う中では、制度のあり方や問題点についても活発に議論が交わされます。

2 人と人のつながり

出雲地域は、島根県東部に位置し、高齢化と周辺部の過疎化の進んでいる地域です。成年後見制度への予想されるニーズの大きさに対し、担い手と目される専門職の人材は限られています。この制度を支えていくには専門職の連携が不可欠だという問題意識から、出雲地域で活動している弁護士・司法書士・社会福祉士が声を掛け合って共同の勉強会を始めました。さらに医師・行政書士・行政職員・福祉施設職員など、制度に関わるさまざまな立場の人に呼びかけ、2000年7月、関係者が相互に交流・研鑽等を行い、成年後見制度の発展を図る団体として発足しました。

表1 出雲成年後見センターの活動内容

  • 成年後見等に関する相談(市民、行政、福祉施設等から)
  • 困難事例の検討(定例会、運営委員会)
  • 市町村長申立の支援
  • 第三者後見人候補者の推薦
  • 後見人候補者の養成
  • 家庭裁判所との連携
  • 成年後見制度に関する啓発・普及事業(シンポジウム開催、会員による講演活動)

センターの活動の中心は、毎月欠かさず行う事例検討の会合です。センターに直接、あるいは会員を通じて持ち込まれた相談について検討を行います。第三者後見等が必要な場合には、会員の中から候補者を推薦します(これまでに24人の会員が、第三者後見等66件を受任)。また、そのための人材養成としての会員研修会を行っています。市民からの相談を無償で受け付けるほか、シンポジウムの開催や活動報告書の発行などを通じて制度の普及啓発にも取り組んできました。

センター発足当初40人ほどだった会員は、現在は85人にまで増えています。任意の集まりですから、法律家も医師も市や福祉施設の職員も、みんな個人で会費を払い、時間や手間を割いて参加しています。センターの活動をご紹介すると、「どうしてこんなに人が集まるのか」と聞かれることが少なくありません。

放っておけないと感じる問題について、知識や経験を持ち寄って解決を探っていくやりとりは面白く、私自身、大変勉強になるものです。自分の知識が他人の役に立つという経験をしてエンパワメントされることもあります。さらに大切なのは、このような活動を通してできる人と人とのつながりです。何かあればすぐに電話で聞きあえる、心強い仲間ができるというのが、センターの大きな魅力の一つです。

3 ネットワークを活用した問題解決

多職種による協働というセンターの持ち味は、実際の後見業務の場面に生きています。たとえば、親族から経済的虐待を受けていた障がい者の事例では、司法書士と社会福祉士による複数後見とすることで、財産保護と自己実現の支援に効果を上げています。また複数後見でなくても、センターを通じて他分野の専門家の力を借りながら支援することが可能です。ちょっとした相談は日常的に行われていますし、特別に支援を行った場合にはセンターから報酬が支払われる仕組みもあります。

センターでは、関係する各機関との連携も重視しています(種々の関係機関の中に会員がいることによって、自然にスムーズかつ実質的な連携がとれているという面もあります)。たとえば市役所。新しい成年後見制度では市町村長に申立権が認められ、市町村には大きな期待が寄せられています。市長申立の必要な事例に関しては、センターから市に働きかけを行うとともに、申立支援を行っています。

出雲市としても後見制度推進に積極的な姿勢を持っておられ、センターの行う相談事業や広報普及活動、市長申立の支援などについて、2004年度からは市の業務委託を受けて実施することができるようになりました。

高齢者・障がい者の施設に勤務するセンター会員は、各施設における成年後見ニーズへの対応の核となっています。出雲地域では早い時期から障がい者施設利用者の集団申立をはじめ、各施設で成年後見制度の利用促進に積極的に取り組んでこられました。センターを通じて裁判所や法律関係者と連携があったこと、医師との連携により鑑定医の確保が可能になったことなどが、これらの取り組みの促進要因となっています。後見人等がつくことによって、施設の中での、あるいは地域へ出て、より豊かな生活を実現する支援につながっている事例が多々あります。

裁判所との連携も欠かせません。後見制度施行当初から、センターと裁判所の協議の場を持ち、後見実務に関する疑問点や要望等についての意見交換を行ってきました。医療同意や死後の事務の取り扱いなど制度上未整理な問題について、裁判所の見解を確認しながら支援できるのは、後見人にとって心強いことです。また、報酬付与申立手続きの簡素化など、業務改善にもつながっています。裁判所からもセンターに随時相談が入ります。特に第三者後見が必要な事例については、裁判所からの推薦依頼と情報提供を受け、センターから適任者を推薦するという連携システムができています。

4 現状と課題

センターの活動はどんどん広がっています。しかしまだ、社会的需要の大きさに十分応えているとは言えません。特に後見人の受皿不足の問題は切実なものです。大半の会員が本業を持っており、所属先との関係で後見人等を引き受けられなかったり、引き受けても数件が限度というのが実情です。未経験者でも受任しやすいようにサポート体制を工夫して会員の後見人を増やしていきながら、引き続き検討していかなければなりません。

また、社会的需要にきちんと応えていくという意味において、組織体制の強化が求められます。法人化についても話し合われてきましたが、任意団体であるからこそ現在のような自由で緩やかなネットワークが維持できているという面も見逃せません。さらに議論を深め、今後のあり方を見出していくことも課題です。

活動が進めば進むほど、次々と課題が見えてきます。全国各地の活動と相互に交流し、経験に学びあうことが、これからもぜひ必要なことです。

(あおきともこ 出雲成年後見センター)

○出雲成年後見センター事務局(成瀬司法書士事務所内)
TEL 0853―22―8097
FAX 0853―23―0076