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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年12月号

特別支援教育の推進のための学校教育法等の一部改正法の解説について

文部科学省初等中等教育局特別支援教育課

はじめに

障害のある子どもについてはその能力や可能性を最大限に伸ばし、自立し、社会参加するために必要な力を培うため、一人ひとりの障害の状態などに応じ、特別な配慮の下に適切な教育を行う必要があります。このため障害の状態に応じ、盲学校、聾学校及び養護学校や小・中学校の特殊学級、あるいは小・中学校の通常の学級に在籍し、比較的軽度の障害のある児童生徒を対象として、主に各教科などの指導を通常の学級で行いながら障害に基づく種々の困難の改善・克服に必要な特別の指導を特別の場で行う通級による指導(以下「通級による指導」)において特別の教育課程、少人数の学級編制、特別な配慮の下に作成された教科書、専門的な知識・経験のある教職員、障害に配慮した施設・設備などを活用して指導が行われています。

近年、障害のある児童生徒をめぐっては障害の重複化や多様化、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)等の児童生徒への対応や早期からの教育的対応に関する要望の高まり、高等部への進学率の上昇、卒業後の進路の多様化、社会のノーマライゼーションの進展などの状況が見られます。

制度改正の経緯

このような状況を踏まえ、平成15年度を初年度とする政府全体の障害者施策である「障害者基本計画」においては「障害のある子ども一人一人のニーズに応じてきめ細かな支援を行う」ことや「教育・療育に特別のニーズのある子どもについて適切に対応すること」が、基本方針として盛り込まれました。

こうした背景の下、平成15年3月に特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議が取りまとめた「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」では、障害のある児童生徒等の教育について障害の種類や程度に応じて特別な場で指導を行うことに重点を置く「特殊教育」から、一人ひとりの教育的ニーズを把握し、適切な指導及び必要な支援を行うことをめざした「特別支援教育」への転換を図ることが基本的な方向として示されました。この最終報告では、特殊教育の果たしてきた役割や障害の児童生徒等をめぐる諸情勢の変化を踏まえつつ「特別支援教育」の理念と基本的な考え方に基づき、学校や教育委員会における体制整備や特別支援教育に関する制度的な見直しを行うことが提言されています1)

この最終報告の提言を受け、特別支援教育を推進するための制度の在り方を具体的に検討するため、平成16年2月に中央教育審議会初等中等教育分科会の下に特別支援教育特別委員会が設置されました。この特別委員会においては、関係団体や教育委員会等からの意見を聴きながら1年半以上にわたり22回に及ぶ審議が行われ、平成17年12月に中央教育審議会において「特別支援教育を推進するための制度の在り方について(答申)」が取りまとめられました2)

この答申では、障害のある児童生徒等の教育について「特殊教育」から「特別支援教育」に転換することとして必要な制度の見直しについて提言されています。

文部科学省においては、この答申の提言等を踏まえ、必要な制度の見直しについての検討を進め、学校教育法等の一部改正及び学校教育法施行規則の一部改正等を行いました。

学校教育法等の一部を改正する法律

今回の「学校教育法等の一部を改正する法律」は、今後特別支援教育を一層推進するために関連する諸制度を改めるものであり、学校教育制度の基本を定めている「学校教育法」や教職員免許制度を定めている「教育職員免許法」等合計52の法律を改正することを内容としています。

(1)学校教育法の一部改正について

現行の学校教育法では障害のある児童生徒等の教育を「特殊教育」と規定してきていましたが、今回の改正ではこれを「特別支援教育」に改め、以下の内容を主とする改正を行い平成19年度から施行することとしております。

1.盲学校、聾学校及び養護学校から特別支援学校への転換

現行の学校教育法において障害のある児童生徒等のための学校制度は、障害種別ごとに盲学校(視覚障害)、聾学校(聴覚障害)及び養護学校(知的障害、肢体不自由、病弱)が設置されており、それぞれの障害種別に応じた教育が行われています。しかしながら、これらの学校の小学部及び中学部に在籍する児童生徒の約43%が重複障害学級に在籍しており、障害の重複化に一層適切に対応する観点から障害種別ごとの学校制度を複数の障害種別に対応することのできる「特別支援学校」制度に転換することとしました。

平成19年度から盲学校、聾学校及び養護学校は、制度上特別支援学校に転換されることになりますが、これらの学校すべてが5つの障害種別を対象とする特別支援学校に直ちに転換されるわけではありません。今回の改正は、障害のある児童生徒等のための学校を設置者が柔軟に設置できるようにするものであり、個々の特別支援学校がその対象とする5つの障害種別のうちどの障害種を教育の対象とするかについては、都道府県など学校の設置者が地域のニーズや地理的な状況等を十分に検討して判断することとしています。

2.特別支援学校のセンター的機能

障害のある児童生徒等の教育についての専門的な機関である特別支援学校がその専門性を地域に還元することにより、障害のある児童生徒等に対する教育を一層充実する観点から、小・中学校等の要請に基づき、これらの学校に在籍する障害のある児童生徒等の教育について助言または援助を行うよう努めることを規定しました(センター的機能)。

センター的機能の内容としては、小・中学校等の教員への指導方法や配慮事項についてのアドバイス、通級による指導を行うこと、小・中学校等で行われる研修の講師となることなどが想定されます。このセンター的機能は、小・中学校等の教育機関に対してのみならず、保育所等の福祉機関や地域の保護者等からの要請に対しても発揮されることが期待されています。(※1、2については図参照)

図 盲・聾・養護学校から特別支援学校へ(制度の弾力化)
図 盲・聾・養護学校から特別支援学校へ(制度の弾力化)拡大図・テキスト

3.小・中学校等における特別支援教育の推進

小・中学校等における特別支援教育の推進は重要な課題となっており、小・中学校においては、特殊学級の設置や通級による指導の実施により障害のある児童生徒に対する支援を行うとともに、通常の学級においてもLD・ADHD等を含む障害のある児童生徒等の児童生徒に対し、多様なニーズに対応すべくさまざまな工夫や配慮がなされています。

今回の改正ではこうした各学校における取り組みを踏まえ、幼稚園から小・中学校及び高等学校における特別支援教育を推進する旨を学校教育法に明確に規定することとしました。併せて今回の法改正に伴い、これまでの「特殊学級」という法律上の名称については「特別支援学級」に改めました。

(2)教育職員免許法の一部改正について

現在の盲学校、聾学校及び養護学校の教育職員免許状については、それぞれの学校の種類ごとに免許状が設けられております。これにより、その学校が対象とする障害についての専門性が担保されてきました。

今回の改正により学校制度が盲学校、聾学校及び養護学校から特別支援学校に転換されることを受け、教育職員免許状についても特別支援学校のための一種類の免許状とすることとし、重複障害やLD、ADHD等を含めたさまざまな障害についての総合的な知識・理解を担保することとしました。同時に、障害種別ごとの専門性も引き続き確保するため、大学等における特別支援教育に関する科目の修得状況等に応じ、教授可能な障害の種別(教育領域。たとえば「視覚障害者に関する教育」等)を特定して授与されることになります。

たとえば、大学において視覚障害と知的障害についての所定の単位を修得した場合には、視覚障害の児童生徒等と知的障害の児童生徒等に対して教育を行うことができる免許状が授与されることになります。

また、当初の免許状を取得した後に、都道府県教育委員会等が実施する認定講習などにおいて異なる障害の種別に関する所定の単位数を取得すれば、教授可能な障害の種別を追加することができます。

学校教育法施行規則の一部改正(平成18年文部科学省令第22号)等

小・中学校の通常の学級に在籍するLD及びADHDの児童生徒に対し、教育的支援を適切に行うため、学校教育法施行規則の一部改正を行い、平成18年4月から、新たにLD及びADHDの児童生徒を通級による指導の対象としました。

このほか通級による指導に係る指導時数については、これまで「障害の状態の改善又は克服を目的とする指導」を年間35~105単位時間(週1~3単位時間程度)、さらに「教科の補充指導」を実施する場合には「障害の状態の改善又は克服に係る指導」に係る指導時数と併せて年間280単位時間(週8単位時間程度)まで行うことが文部科学大臣の定める告示に示されていましたが、今般、次の2点について改正を行いました。

1.児童生徒の障害に応じたより適切な教育を実施する観点から、「障害の状態の改善又は克服を目的とする指導」及び「教科の補充指導」を併せた指導時間数の標準のみを規定する。

2.LD及びADHDの児童生徒については、月1単位時間程度でも指導上の効果が期待できる場合があることから月1単位時間の指導を下限とし、上限はすでに通級による指導の対象となっている障害種別と同様に年間280単位時間(週8単位時間程度)とする。

今後の展望

文部科学省としましては、今後、特別支援教育を推進するための新たな制度を円滑に進めるため必要な制度の整備を進めるとともに、都道府県の教育委員会といった学校関係者のみならず保護者を含めた一般の方々に対して、特別支援教育の趣旨・目的について、十分にご理解いただけるよう各種の施策の充実に努めてまいります。

なお、改正法の公布を受けて、7月18日付で文部科学事務次官通知を関係機関に送付したところです。この通知は、文部科学省HPにも掲載しておりますのでご参照ください3)

1) http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/018/toushin/030301.htm

2) http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/05120801.htm

3) http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/06072108.htm