「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年12月号
特別支援学校として~現状とこれから~
伊勢元るり子
はじめに
『1+2=ミラクルパワー』、これは、9月の運動会で使われた、ある種目名です。今年度初め、共に県下唯一であった肢体不自由養護学校「愛媛県立第一養護学校」と病弱養護学校「愛媛県立第二養護学校」が統合し、新たに肢体不自由教育と病弱教育という複数の障害種に対応する「愛媛県立しげのぶ特別支援学校」としてスタートを切りました。スタートして7か月、統合によってどのようなミラクルパワーが発揮されているでしょうか。期待を込めて、現状とこれからに向けての課題をまとめてみたいと思います。
現状と課題
(1)教育支援体制………本校では、専門性を維持・向上するために肢体不自由教育部門と病弱教育部門の部門制を設けています(表1)。
表1 教育課程と学習グループ
部 | 学習グループ名 | ||
---|---|---|---|
教育課程 | 小学部 | 中学部 | 高等部 |
小・中・高等学校に準じた教育課程 | 月組 (4名)《病1》 |
A組 (8名)《病4》 |
A・Bコース (11名)《病4》 |
知的障害養護学校の教育課程に代替する教育課程 | 花1~3組 (9名)《病1》 |
B1組 (3名) |
Cコース (23名)《病1》 |
自立活動を主とした教育課程 | 花4~10組 (21名) |
B2~7組 (10名) |
Dコース (17名) |
《病》は、( )の内、病弱教育部門の児童生徒数
(2)教職員の連携………教師は部門に分かれていますが、部門を超えて授業を担当することが多くなっています。肢体不自由教育部門については、担当教師が全体の90%を占め、継続して研修してきた者も多く、その専門性は向上していると思われます。中でも、指導技法に関する研修や事例検討、個別の相談等には、自立活動課が中心に積極的に対応し成果を上げています。また、摂食指導、コミュニケーション、医療的ケアに関することなど、日常生活に欠かせない身近な支援に対して中心となる主任がおり、担当分野を中心に研修を行い、保護者との信頼の中で実績を上げています。
しかしながら、病弱教育部門の担当教師は肢体不自由部門と比べ少なく、その専門性の向上については課題となっています。現在、小児慢性疾患等に対する医療と直結した指導の在り方や心身症に対する心理的なケアなど、病弱教育に関する専門性を高める研修について、病弱教育担当者や特別支援教育コーディネーターを中心に関係者の協力を得ながら充実に努めているところです。また、児童生徒の病状においてはその対応に不安を感じつつ授業を行っている教師もおり、担当者のみが問題を抱えることのないよう、校内支援体制の充実にも努めています。
(3)子ども同士のかかわり………現在の病弱教育部門の児童生徒の様子について、表2にまとめました。
表2 病弱教育部門の児童生徒の様子
【Aさん】今まで1名の重複障害学級で5年間過ごしてきたが、現在は、3名の学級に在籍している。友だちへの注目、言葉の増加、集団活動への参加意欲等の変容が見られている。 【Bさん】中2の一般学級(1名)に在籍している。同学年の肢体不自由教育部門の学級の生徒の車いすを押したり、動作を支援したりするなどして、日常的に積極的にかかわっている。今までの病弱部門の友だちのみでなく、中学部や部活、通学電車が一緒の友だちとかかわりが増え、幅が広がったことで、学校生活にも楽しみが増え、登校意欲が高まり、大幅に遅刻、欠席が減っている。 【Cさん】同学年に肢体不自由教育部門の学級はなく、第二養護学校の同級生に、新たに一人転校生が加わり3名学級で始まった。学級内での友だち関係から一歩踏み出す姿勢が見られにくく、学級内で過ごすことが多い。ただ、同性の友だち同士で、今までに見せなかった言動を見せるようになった面はあり、授業や友だちに対しての思いを担任に表すようになっている。 【Dさん】地域の中学校へは、ほとんど通学できなかったが、進学前の体験活動などの教育相談を通して、コミュニケーション面の変容や活動への意欲が見られ本校へ進学した。高等部入学後は無遅刻、無欠席である。必要に応じて、担任と特別支援教育コーディネーターとの連携により、活動への支援を行いながら、次第に学級や学校行事等の教育活動への参加へとつながっている。 |
また、肢体不自由教育部門の児童生徒についても、教師のみではなく病弱教育部門の友だちに支援を頼んだり、車いすを押してもらって遊びに出掛けたりするなど、友だち同士の活動やかかわりが広がり、お互いに育ち合いが随所に見られています。
(4)地域の期待………本校が「特別支援学校」と名称を新たにしたことで、問い合わせや相談依頼が増えています。併せて、センター的役割を果たすべく実施している地域の小・中学校等への支援に関する依頼も増加をたどっており、本校へのニーズや「特別支援学校」への期待の大きさを感じています。昨年度年間相談支援数(来校及び訪問相談支援)は95件でしたが、統合後は、病弱教育に関する相談や体験活動が一層増え、10月段階ですでに100件を超えています。特に軽度発達障害から二次障害を起こし、不登校となっている子どもたちの相談も多く、彼らの学習の場や進路先をどのように保障していくのかも課題の一つだと思われます。
これからに向けて
来年度は、隣接地に『子ども療育センター(仮称)』が開設し、分校(現在「愛媛整肢療護園」に入所の児童生徒50名程度)も統合し、ますます大規模の学校となります。多機能を持つ療育機関が隣接することで、地域の特別支援教育のセンターとして充実した役割が果たせるよう期待しています。さらに、今以上に緊急時の対応や医療的ケア、自立活動の支援など、医療との連携をめざして特色ある学校づくりができることを期待しています。
そして、生き生きと登校している子どもたちが、部門を超えてさらにかかわりを深め、お互いの存在を認め合って成長し合える環境であることを願っています。そのために、特別支援学校として、より多くの障害種を超えた子どもたちが学び合える設備や人的配置等の環境が整備され、教員の専門性が向上できるよう願っています。
(いせもとるりこ 愛媛県立しげのぶ特別支援学校特別支援教育コーディネーター、教諭)