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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年12月号

盲教育は変わりうるのか!
―盲学校卒業生の立場から―

大橋由昌

皆さんは、「盲界」という言葉をご存知でしょうか。私たち視覚障害者の間では、「盲人世界」の略称として広く用いられています。わが国唯一の点字週間新聞、『点字毎日』の一面が、「内外盲界ニュース」であるような使い方をするのです。特別支援教育の実施後、この表現が徐々に死語となっていくのか、興味深く思っている人は、少なくないと思います。それは、盲学校などの人脈が薄らいでいく、と予想されるからにほかなりません。現実は、どう変わるのでしょうか。

減少している生徒と教員

文部科学省の「平成18年度学校基本調査速報」(5月1日現在)によりますと、今年度の盲学校の在学者数、全国71校(国立1校、公立68校、私立2校)において、3688人が学んでいると発表しています。昨年より121人も減少しているようです。教員数も3323人で、昨年より60人の減。ピーク時の1959年には、1万200人を超えていましたから、実に4割を大きく割り込んでいるのです。4つの盲学校では、在籍児童・生徒数が、30人を下回っているような現状です。幼稚部から高等部普通科、そしてあはき師(あん摩・マッサージ・指圧師、はり師、きゅう師)を養成する専攻科・理療科までの人数ですから、むろん学年0人も珍しくはありません。

少人数による「個別教育」と言えば耳触りが良いのですが、そこにはもはや、集団による学校教育とはほど遠い実態しか存在しないのです。しかも、単一の視覚障害児童・生徒は普通校へ、重複視覚障害児童・生徒は盲学校へ、という流れも顕著になってきました。在籍者数の減少に加え、障害の重度化と多様化が、現在の盲学校における継続した課題だ、とまとめることができましょう。

こうした現状を踏まえて考えるならば、盲教育の大改革は必然であって、支援教育の理念を高く評価するとともに、より実効性のある改革を、私は期待しています。教育改革の気運に呼応して、近年の盲学校では、地域の普通校に通う児童・生徒に対する、相談や指導などを行う「センター的機能」を充実させてきました。けれども、文部科学省や盲教育界の建て前ばかりが先行する動きを見る限り、果たして大改革がなしうるのか、とても疑問に感じざるをえません。

センター的機能としての盲学校の実践

全国盲学校普通教育連絡協議会では、特別支援教育におけるセンター的機能は、全国の盲学校においてすでに多くの実践が進んでいるとして、全国調査の結果を発表しました。同調査によりますと、昨年度、普通学校に在籍する児童・生徒が盲学校に通って指導を受けた事例は、全盲の場合で110人分、弱視の場合で485人分。また、盲学校教員が普通学校などに出向いて指導した事例は、全盲で91人分、弱視で457人分あったとのことです。確かに、支援事例は増えているでしょうが、助言や援助が増えれば増えるほど、あらためて盲教育の「専門性」を問わざるをえないのです。

問われる盲教育の専門性

たとえば、進学校と言われる数校の盲学校では、大学入試点訳などのノウハウの蓄積があるものの、他校においては多くを期待できないでしょう。また、点字の指導が十分できるかどうか、はなはだ疑わしい。盲学校の教員でさへ、点字を十分習得している人は、意外と少ないのが現実です。一般校に学ぶ児童・生徒には、より正確な点字指導が必要なはずにもかかわらず、何ともお寒い実態だと言わざるをえません。

教科書・教材の保障と充実

『点字毎日』の04年6月24日号に、「普通学級で学ぶ視覚障害児・生徒に点字教科書を無償給付へ」という見出しで、衆議院文部科学委員会において、文部科学省初等中等教育局長が、04年度後期配本分から無償給付する、と答弁したことを報じています。つい2年前まで、地域の普通校で学ぶ点字使用の児童・生徒に対しては、国からの支援がなかったのです。さらに、同紙05年1月27日号には、点字出版界や点訳ボランティアグループなどを中心に、「全国視覚障害児・生徒用教科書点訳連絡会」が結成されたと伝えていることからも、現状を理解できましょう。

普通学級で学ぶ弱視の児童・生徒に対する「拡大教科書」もまた、きわめて劣悪な環境にあったと言えます。拡大教科書問題をめぐっては、発行されている拡大教材の科目数と、種類が少ないことに加え、ボランティアらがその分を補おうと独自に制作する場合、著作権上の制約が多いという問題点が焦点となっていたのです。ようやく03年に著作権法が改正されたのを受け、普通学級(小・中学校)の弱視児童・生徒に対する拡大教科書の無償給付が実現したのは、翌年の4月になってからのことでした。

いずれにせよ、センター的機能の充実を図っただけでは、ほとんど現状と変わりがないと言えるのです。文部科学省が予算・施設・人員を確保し、全国的な教科書・教材を保障する中央機関を設けるなどしない限り、盲学校教員の職域確保のセンター、と揶揄(やゆ)されても仕方ないところでしょう。

もしも、理想通りの特別支援教育が実践され、障害者が地域にとけ込めるようになれば、前述した「盲界」という表現も、「社会」という文言に置き換わっていくことでしょう。また、それを心から願ってもいます。

(おおはしよしまさ 朝日新聞東京本社・ヘルスキーパー)