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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年12月号

障害のある子どもの教育を考える

太田公子

私は、原稿を書くにあたって、脳性マヒで生まれた24歳になる娘を川崎市で育てた経験を多くの方にお知らせしたいと考えました。

川崎市の教育は、他都市と違っているようで、少ない情報の中からこれまで手さぐりでやってきたことを書かせていただき、これから始まろうとする特別支援教育へ向けての参考になればと思います。

娘は、生後10か月の時医師の診断で発達遅滞と言われ、医師の助言から、集団での生活を選びました。1歳2か月の時、当時住んでいた横浜から転居して、川崎市の公立保育園に入園し、5年間を過ごしました。

小学校は、2歳上の姉の通う地域の小学校に障害児学級をつくってもらって入学しました。普通級との交流を多くしてほしいと要求したため、障害児学級の担任は普通級の副担任としてそのクラスの音楽の担当という形になりました。

幸いにも川崎市には「障害児を普通学校へ・全国連絡会」の運動をされていた先輩たちがいらしたおかげで、教育委員会や先生の組合の障害児教育部の理解があったのだと思います。

入学の1年前に校長先生に夫婦でお会いし、その後何回か話し合い、9月の時点で障害児学級新設のお願いをしました。川崎市は、生徒がたった一人でも障害児学級をつくってくれるという恵まれた条件があったからだと思います。

また、小学校内に通級指導教室の「ことばの教室」があり、障害児学級に通いながら、「ことば」の個別指導を受けることができました。これは、その当時の川崎市のみの対応だったのですが、障害をもつ子どもにとって、多くの方の関わりがあることの良さを実感しました(平成3年に、障害児学級に通う子どももことばの教室に通える保障がほしいと、川崎市教育委員会と神奈川県教育委員会に対して請願して認めてもらったのですが、その後、国の制度に見習って認められなくなったというのが現在の状況のようです)。

さて、中学校は、娘の成長と多くの情報の中から選択しました。小学校の高学年になると、普通級の同級生たちが親切に世話を焼いてくれるのが、娘にとってはあまりうれしくなく、障害児学級で過ごすことが多くなっていたのをみて、養護学校を選択しました。神奈川県立高津養護学校で、仲間と過ごし、むしろ、人の世話をしたかった娘にとってこの選択はよかったようです。12人の同級生と3年間を楽しみました。

その当時、学校週5日制へと変わることから、土曜日は調理の日とするなど、先生方が積極的に新しい取り組みをしてくれました。殊に、個別指導計画を一人ひとりに立てることによる指導があり、親としては、前向きな教育の姿勢がうれしかったのを覚えています。

今、特別支援教育に変わろうとしていることが、子どもたちにとってよいことなのかどうかわかりません。先日、勉強のため、高津養護学校を訪ねての帰り際、来年小学部に入学するという親子さんにお会いしたので、なぜ養護学校を選択されたのか尋ねてみました。

そのお母さんは、地域の小学校の実情が、お子さんの環境として、個別の指導が足りないと考えられているようでした。確かに、多くの手厚い指導がほしいのはわかりますが、見かけたところ(これは、みかけでは障害は判別できないのを承知のことで)身体の状況もよく、お話もよく分かりそうなダウン症のお嬢さんなので、つい、一言、「健常な仲間と過ごせるのは、小学校しかないと思います。仲間たちから学ぶこともあると思いますよ」と言ってしまいました。

最近、養護学校を選択する人が増えている原因が分かるような気がしました。

選ぶのは、親です。しかし、どう選んでいいのか、だれに聞けば答えてくれるのか…。近くに適当な人がいないため、その子の将来にとって何がよいのかを選べないでいるのではないでしょうか。

特別支援教育には、生涯を通じての指導ができるようなコーディネーターの支援が含まれていると、先生からお聞きしたばかりでしたが、果たして、お飾りだけの制度となってしまわないかと、心配になりました。

制度をよくするのも悪くするのも、使う人の努力が必要なことは、障害児を育ててきた身にとっては痛いほど感じていますので、これから、学校を選択するお母さんたちが、今の私のような、娘の成長を喜ぶ満足感に浸れるかどうかが課題だと思いました。

娘は、関わってくださった多くの皆さんのおかげで、「重度かもしれない、歩けないかもしれない、しゃべれないかもしれない」と言われながら、現在は他人に気を使い、おしゃべりで、傾きながらも、ふつうに近い状態で歩けるようになりました。そして、地域作業所で25人の仲間と機(はた)を織り、作品が出来上がるのを楽しみにしています。

今思えば、公立保育園でのみんな一緒の生活が社会性を養い、小学校での統合教育とことばの指導が本人に自信を持たせ、養護学校の中学部・高等部での職業指導が働く意欲を養ってくれました。

特別支援教育に必要なのは、障害のある子どもの「生きる力」をどう育てていくかに尽きると言えるのではないでしょうか。

そして、障害のある子どもに限らず、すべての子どもにとっても【生きる力】を引き出し、育てることが教育の基本となるのではないかと思います。

(おおたきみこ 神奈川県言語障害児をもつ親の会会長)