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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年1月号

1000字提言

ハードにハートをプラスして

糟谷佐紀

ハートビル法と交通バリアフリー法が、バリアフリー新法(高齢者、身体障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)として2006年6月公布、12月に施行となった(注)。これにより、点(建築物)と線(旅客施設、道路など)それぞれで行ってきた整備が、総合的に面として捉えられることとなった。

ハートビル法制定から12年、交通バリアフリー法制定から7年を経て、街の中はかなり整備されてきた。エレベーターや多機能トイレのある建築物や駅が増え、音声案内や電光掲示板など、聴覚や視覚による情報提供も増えてきた。

しかし、どれだけ整備が進んでも、すべての人が不安なく安全に移動できる、安心して活動できる街などありえないのも現実である。

昨年、視覚障害の友人が車両連結部分から転落、電車は気付かずに発進し、数十メートル引きずられた後に救出されるという事故に遭った。幸い命に別状はなく、背骨と足の骨折による入院、通院を経て、今は元気に通勤している。彼の事故は毎日通い慣れた駅で起こった。熟知している駅なのになぜと聞くと、乗降時は毎回不安なのだと彼は答えた。そう言われて考えると、電車は停車位置がずれることも多く、乗降客の動きはバラバラでそれに対応することは視覚障害者にとってはかなり大変なことである。

別の視覚障害の友人は、街で「何か手伝いましょうか?」と声をかけられると、1人で歩ける場所でも「ありがとう、お願いします」と知らない振りをして連れて行ってもらうのだと言う。理由を聞くと、「僕が断るとその人はもう二度と声をかけなくなってしまうから」と言う。

ハード(建築物や道路、電車やバスなど形のあるもの)の整備が進むと、障害者が1人で移動できる部分は増える。整備が進めば人のサポートは必要なくなるのか? そうではない。確かにすべての場面には必要なくなってきたが、危険な場所、人の多い場所、初めての場所など1人では不安な場面はまだ多く残っている。そういう場面だけ、少しだけのサポートがほしい。それをさりげなくできる人が増えれば、障害者だけではなく、子どもを連れた人、高齢者などだれもがもっと安心して自由に外出できる街になるだろう。

これからは、ハード整備にハートをプラスして、みんなで住みよい街を増やしていきたい。

(注)2006年12月執筆時点での国土交通省からの発表である。

(かすやさき 神戸学院大学総合リハビリテーション学部)