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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年3月号

予算の概要を見て

障害者自立支援法円滑施行特別対策および平成19年度予算の概要を見て

小澤温

1 はじめに

昨年末に、障害者自立支援法円滑施行特別対策が公表され、平成18年度補正予算として960億円の計上、平成19年度・平成20年度の当初予算に240億円が計上された。平成18年度の当初予算からみると実に13.4%の補正予算が上乗せになったことになる。予算が増加したこと自体は評価できなくはないが、当初の予算の13.4%も変更しなければならないほどの問題が生じたとすれば、政府が「障害者自立支援法」の施行の影響を過小評価していたという批判を受けても仕方がない。

さらに、今回の特別対策が政府の主体的な判断によって実施されたというよりは、さまざまな方面からの批判により止むを得ず実施したという側面が強く、その場しのぎの対策との印象が否定できない。

このような問題点を踏まえて、ここでは、平成18年度の補正予算と平成19年度の予算案の二つに分けて、予算の数値的な検討よりも予算に現れている政策のあり方を中心に検討していきたい。

2 平成18年度の補正予算について

最初に、予算についてふれる前に、「障害者自立支援法」がこれまでの障害者福祉の常識に与えたインパクト(衝撃)について考えてみたい。これまでの「応能負担に代わる応益(定率)負担の導入」と「規制緩和による事業者の柔軟な運営と新たな事業者の創出」の2点を、特に大きなものとして挙げることができる。

応益負担の導入には多くの批判があったが、その大半は所得保障政策が不十分なことと、その結果としてサービス利用の負担の増大をもたらす点であった。応益負担には、負担の公平性によるスティグマ化の軽減(「特別な人に対する特別なサービス」意識からの脱却)、サービスの消費者として権利意識の向上などの点でメリットもあり、これまでの障害者福祉の価値観の転換を迫るうえでの重要性があった。もちろん、このことは所得保障政策の充実という条件付きの議論である。

規制緩和による事業者の柔軟な運営と新たな事業者の創出に関しても、利用者や地域のニーズに対応した柔軟な運営、事業の多角的な運営により新たな福祉ビジネスの展開という点で、これまでの福祉事業者の価値観の転換を迫るうえでの重要性があった。

以上の観点から、平成18年度の補正予算をみると、大きな議論をもたらした「障害者自立支援法」の特徴はたいへん色あせたものにみえる。

「利用者負担の更なる軽減策」は、当座の対応としては重要である。これによって、利用者負担は実質的に限りなく応能負担に近いものになった。その結果、利用者の当座の費用負担軽減施策が最大の対策の中心になり、障害者の所得保障政策全般にわたる充実・検討という長期的には最も重要な課題に関する関心が薄くなっていくことへの危惧を感じる。

「事業者に対する激変緩和措置」は、日割り化により減収している通所施設事業者への損失補填施策としてみることができる。これに関しても当座の対応としては重要である。特に、通所施設事業者の「障害者自立支援法」に対する酷評は至る所で聞くことができ、激変を軽減する意味で重要な対策である。ただし、日割り化の導入の際に厚生労働省が主張した利用者や地域のニーズに沿った運用の柔軟性のメリットは重要であり、既存の事業者の損失補填対策に追われて、利用者本位の福祉事業はどうあるべきかの議論が後退することがないように留意する必要がある。

3 平成19年度の予算案について

平成18年度を国としての「障害者自立支援法」の推進の年と位置づけるならば、平成19年度は、地域生活支援事業を本格的に実施する都道府県・市町村による推進の年として位置づけることができる。その観点で、平成19年度予算案をみると、「地域生活支援事業の実施」、「工賃倍増計画の推進」、「障害者自立支援法の着実な施行の推進」、「発達障害者支援開発事業の創設」、「発達障害者支援センター運営事業の推進」などの項目を都道府県・市町村に関係深いものとしてあげることができる。

「地域生活支援事業の実施」では、市町村による地域のニーズに応じた多用な展開を認めている点でこの施策は重要であるが、他方、社会資源の偏在、事業の実施水準、利用者負担水準などで、市町村格差が深刻化しつつある状況がみられる。市町村格差の是正という観点からみると、この予算額(400億円)は非常に低い水準と思われる。

「工賃倍増計画の推進」、「障害者自立支援法の着実な施行の推進」(特に「障害者保健福祉推進事業」)、「発達障害者支援開発事業の創設」では、共通して都道府県・市町村の企画、アイデア、モデル事業への補助という特徴ももっており、先駆的な取り組みを推進する点で評価できる。ただし、一般的に先駆的な取り組みは単年度では効果が出ないものが多いので、複数年にわたって事業予算を確保し保障していくことが必要である。それに加えて、これらの事業で得られたノウハウ、アイデアを共有し、他の自治体にも波及させていく点で、都道府県・市町村関係者および事業者、サービス利用者に対しての成果の公表システムも整備する必要がある。

(おざわあつし 東洋大学)