音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年3月号

列島縦断ネットワーキング【岡山】

個人情報を福祉事業に活用するための取り組み

仁木潤

1 これは、困ったぞ

平成17年4月に施行となった「個人情報の保護に関する法律」(以下、個人情報保護法)により、社会福祉法人や保健福祉関係者においては、今まで以上に個人情報の取り扱いについて厳重な対応が求められるようになりました。私たちは日頃、地域福祉を推進するにあたって、多数の利用者やその家族等の個人情報を取り扱っています。また、日常の見守りや生活課題への早急な対応を進めるため、あらかじめ地域住民の情報を収集し台帳化するなどの取り組みを当たり前に行っていました。

しかし、個人情報保護法の施行により社会福祉協議会では、これまで行政から得られていた高齢者等の情報が、一切得られなくなったり、地域内の保健福祉関係団体においても台帳整備を取りやめたりと、地域福祉活動においてさまざまな課題が生じてきました。そして中でも、一番の課題となったのが、社会福祉協議会の使命である「住民参加の地域福祉活動」を進めるうえで、地域内の保健福祉団体やボランティア・住民等と、支援を必要とする個人に関する情報を共有していくことが、個人情報保護法第23条に規定されている第3者提供の制限により、困難になったことでした。

2 民間性を発揮した取り組みを

そこで、私たちは、個人情報保護法に違反せずに個人情報を福祉事業に活用するためのシステムを、自分たちで生み出していこうと考えました。

まず、成年後見制度や地域福祉権利擁護事業で日頃から関わりのある弁護士に、現在の課題とこれから取り組んでいこうとする内容について説明し、アドバイスを受けました。

その際、弁護士は「第3者に情報を提供する際には本人の同意があれば可能」ということを教えてくれると同時に、同意を得るための条件や管理の問題等のポイントを説明してくれました。

「これだ!」と思いました。かなり厳しい条件もありましたが、本人の同意を得れば、活用が可能だということを知りました。

3 津山市社会福祉協議会の地域見守り活動

津山市社会福祉協議会では、見守り友愛協助員活動というシステムを民生委員と協力して展開しています。これは、一人暮らしの高齢者や高齢者世帯の隣り近所の方に、その方の生活や体調等に変化があった場合の通報役になっていただくものです。そのため、あらかじめ対象となる方々の情報や親族等や緊急時の連絡先等を台帳化しておき、それを民生委員等と共有することで、より効果を上げる活動となっていました。そのほかにも、愛育委員との連携によるおめでとう訪問事業や障害者とボランティアの交流事業など、個人情報の第3者との共有が不可欠な事業がいくつもありました。

4 個人情報を福祉事業に活用する検討委員会設置

平成18年5月、この取り組みを始めるにあたって、地域内の各保健福祉団体の個人情報取り扱い状況、本取り組み案を本会の企画調整会議で説明し合意を得ました。そして、今まで取り組んでいなかった子育て世帯等も含めた保健福祉台帳の整備に向けた取り組みを、委員会を設置して進めていくことになりました。

委員会は、大学教授や弁護士、身体障害者福祉連合会会長等12人で構成し、平成18年7月から12月にかけて4回の委員会を開催しました。

(1)個人情報保護法に定める個人情報取扱事業者である津山市社会福祉協議会と個人情報取扱事業者に該当しない地域内の保健福祉団体が互いの特性を発揮しながら、高齢者・障害者・子育て世帯の台帳の整備を進めていく。

(2)台帳化した個人情報は、津山市社会福祉協議会が管理し、調査にあたる地域内の保健福祉関係団体に必要に応じて情報提供を行う。

以上2点が、この取り組みの大きな特徴です。

5 個人情報を活用するにあたってのポイント

(1)利用目的の特定とその制限(個人情報保護法第15条・16条)

個人情報を取得する際には、活用する内容を特定し、それ以外には一切活用しないことを対象者に明示しなければならないため、本取り組みでは、活用内容を以下の3つに特定しました。

  1. 機関団体が主催する事業の案内
  2. 日常の見守り・訪問活動及びニーズをキャッチした際の関係機関への連絡
  3. 災害時の緊急連絡及び支援活動

※なお、個人情報をアンケート調査に活用することは適当でないという指摘があり、アンケート調査への活用はできないこととしました。

(2)台帳化する個人情報の内容

取り扱う個人情報の内容は次のものとしました(氏名・世帯構成・家族数・住所・所属町内会名・電話番号・生年月日・性別・要介護度・就寝時の部屋・緊急連絡先〈氏名・続柄・住所・電話番号〉・見守り友愛協助員〈氏名・住所・電話番号〉・障害種別及び等級・症状・養育する子の氏名・生年月日・性別・特記事項)。

(3)個人情報の取得方法と台帳化

個人情報の取得は、市内の保健福祉を目的とする団体を通じて行い、取得の際には、文書をもって利用目的の明示を行う(個人情報保護法第18条)。また、個人情報の台帳記載・活用内容は、本人の同意が得られるものに限るとしました(個人情報保護法第23条。イメージ図参照)。

イメージ図
イメージ図拡大図・テキスト

(4)個人情報の管理方法と責任者の明確化

収集した個人情報は、津山市社会福祉協議会が規程に基づき一括管理し、管理責任者は津山市社会福祉協議会事務局長とすることとしました。

(5)苦情の対応

窓口は津山市社会福祉協議会とし、津山市社会福祉協議会苦情解決処理規程に基づき処理し、速やかな対応に努めることとしました(個人情報保護法第31条)また、対応が困難な場合には「個人情報管理運営委員会」(本会設置)より指示を受け、適切な対応に努めることとしています(仕組み図参照)。

苦情解決の仕組み図
苦情解決の仕組み図拡大図・テキスト

6 今後の取り組み

ここまでの取り組みは、まだ実際の調査活動を行うための準備段階であり、今後の活動が重要となります。年度内に調査団体への説明や研修を行い、実際の調査は19年度から行っていきます。「本当に住民から同意が得られるのか」「もし、情報が漏れたら」など不安材料も山積みです。しかし、民間性を発揮したきめ細やかな福祉活動を展開し、活力ある地域づくりを進めるため、地域内の保健福祉団体と手を取り合い、勇気を持って一歩を踏み出していきたいと考えています。

(にきじゅん 津山市社会福祉協議会地域福祉課長)