音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年4月号

列島縦断ネットワーキング【静岡】

浜松市の農業分野における障害者の就労支援について
~浜松市ユニバーサル園芸研究会の取り組み~

飯田浩敬

はじめに~ユニバーサル園芸とは~

ユニバーサル園芸とは、農業・園芸活動を通じて得られるさまざまな効用(心身のリハビリテーションや心の癒し効果、コミュニケーション促進、共同作業による社会参加促進等)を利用して、障害者・高齢者の心身の健康や社会参加の促進による「生きがいづくり」を図ったり、どんな方でも「農」に親しんでもらうことで、心の豊かさや生活の質の向上を実現していこうという取り組みです。

ユニバーサル園芸という名称は、静岡県が園芸福祉を表す親しみやすい名称として採用していることから、浜松市でもこの名称を使っております(ユニバーサルとは、「普遍的な、すべての人々の、全世界の」という意味の言葉です)。

ユニバーサル園芸の活動分野と農業・園芸活動の持つ多面的機能は表1のとおりです。

表1 ユニバーサル園芸の活動分野と農業・園芸活動の持つ多面的機能

  活動分野 農業・園芸活動の持つ多面的機能
障害者の就業 農業・園芸での障害者雇用、授産施設等での自立支援(就農支援)など
園芸療法 医療や福祉の場における園芸療法、治療やリハビリ、心身の機能回復など
高齢者の生きがいづくり ガーデニングや市民農園における作業による高齢者の生きがいづくりなど
教育 教育・保育機関における児童・幼児等の農業・園芸活動など、情操から生涯教育まで
コミュニティづくり 地域の花壇づくりやコミュニティガーデン、市民農園や緑化運動など共同作業を通したコミュニティづくりなど
生活の質の向上 市民農園や貸し農園による農業・園芸活動を通じた心身の健康や豊かな環境づくり、グリーンツーリズムなど

浜松市ユニバーサル園芸研究会の設立

浜松市においてユニバーサル園芸に取り組む直接のきっかけになったのは、平成16年9月、浜松市にて開催された「第4回園芸福祉全国大会 in しずおか」です。本大会には、延べ1,650人が参加し、前述したような農業・園芸活動の持つ多面的機能を活かした園芸と福祉の取り組みが紹介されました。

また、昨今は市民農園のニーズも多く、区画が空き待ち状態になっていることからも市民の農業への関心の高さが感じられます。

このような状況を踏まえ、浜松市としても幅広い分野の関係者と情報交換・人的交流を図り、ユニバーサル園芸を推進するために最新の知識を習得していく必要から、平成17年4月に「浜松市ユニバーサル園芸研究会」(事務局:浜松市農林水産部農業水産課)を発足しました。

浜松市ユニバーサル園芸研究会では、ユニバーサル園芸の普及・啓発のため情報交換や人的交流を図る中で、関係部署・機関とのネットワークを構築し、課題の抽出から今後の具体的な施策の展開を視野に入れ活動しています。

研究会のメンバー

浜松市ユニバーサル園芸研究会は、農業者、ユニバーサル園芸関係NPO、障害者就業・生活支援センター、浜松市就労支援センター、社会保険労務士、農業参入企業、静岡県西部農林事務所、浜松市関係部署から毎月10~15人程度が集まり、定例会や視察研修などの活動を行っています。

活動分野と活動内容

浜松市がユニバーサル園芸を推進していくため、当初より取り組んできた活動分野は「農業分野における障害者雇用」(障害者の就業)です。農業者の高齢化や農業の担い手不足が叫ばれる中、ユニバーサル園芸の推進により障害者が農作業の助力となり、新しい農業の形態やあり方を考えるきっかけになるとともに、障害者自身も農作業を通じて心身の機能回復につながるなど、障害者の農業分野での社会参加、自立への道が開かれればと考え、活動を続けています。

活動内容

研究会は、平成18年度の活動テーマを「農業者が身近に感じられるユニバーサル園芸のために~ユニバーサル園芸の裾野を広げる~」として、以下の活動を行ってきました。

第一に「研究活動」として毎月1回の定例会の開催、第二に「事業活動」として浜松市ユニバーサル園芸講演会(年1回)の開催と視察研修会(年4回)の実施、第三に「実践活動」として浜松市フルーツパークにおける障害者の就農訓練の実施などが主な活動の内容です。

特に本稿では、平成18年度、初めて研究会として取り組んだ浜松市フルーツパークにおける実践活動の内容についてご紹介します。

浜松市フルーツパークにおける実践活動

平成18年度、研究会の新たな取り組みとして農業分野における障害者雇用のモデルケースを実践することにより、研究会として障害者の就農訓練をモニタリングしつつ、障害者就農の具体的なモデルケースとしていくことを試みました。

就農訓練の施設としては、年間を通じて果樹栽培等を行っている公的施設である浜松市フルーツパークの協力により、施設確保と技術指導が受けられることとなりました。

また、訓練者をフォローするジョブ・コーチを確保し、訓練をスムーズに実施するため、研究会のメンバーである「障害者就業・生活支援センターだんだん」を通じて静岡県浜松技術専門校(愛称:テクノカレッジ)の障害者委託訓練(施設農業科)として実践活動を行うこととしました。訓練期間は平成18年12月~19年2月で、訓練者は3人の障害者(精神)としました。今後、訓練者は作業適性等を見極めたうえ、農業分野へ就労する予定になっています。

なお、浜松市フルーツパークにおける実践活動の訓練内容は表2のとおりです。

表2 浜松市フルーツパークでの訓練内容

訓練内容
ミカン収穫、ナシ塗腐剤塗り
ナシ塗腐剤塗り、カキ誘引ヒモ除去
博物園除草、フジ剪定(せんてい)枝片付け
博物園除草、フジ剪定枝片付け
害虫交信攪乱(かくらん)剤除去
ブドウハウス内堆肥散布
剪定枝片付け、塗腐剤塗り
圃場(ほじょう)イチジク客土、敷きワラ
くだもの博物園除草、かんきつ類収穫

おわりに~今後の活動~

最後に、今後ユニバーサル園芸を推進していくための活動として研究会が取り組むべき課題・活動について挙げてみます。

第一にユニバーサル園芸(農業・園芸活動の持つ多面的効用)に対する理解を深めてもらうための啓発活動の強化、第二に農業者の経営基盤の強化と障害者の雇用促進の環境整備、第三に障害者と農業者をつなぐ中間的組織や人材の育成と初級園芸福祉士によるユニバーサル園芸活動の活性化、第四に障害特性と作業内容とのマッチング形態のあり方と新しい農業経営体のあり方に関するデータの蓄積、第五に障害者雇用に取り組んでいる農業経営体(農家・農業参入法人)の現況把握と今後の農業分野に参入予定の一般企業における障害者雇用の促進のための環境整備等が挙げられます。

平成19年度以降も、多くの関係部署・機関との連携による研究会の活動により、「ユニバーサル園芸」という農業と福祉の良い関係を通じて、新たな農業経営における障害者の社会参加・就労支援のあり方について探っていきたいと考えていますので、今後とも関係者および関係機関の御理解・御協力を賜りますようお願いいたします。

(いいだひろたか 浜松市農林水産部農業水産課主任)