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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年6月号

ワールド・ナウ

世界盲人連合アジア太平洋地域協議会中期総会

田畑美智子

世界盲人連合アジア太平洋地域協議会(=WBUAP)の中期総会が、3月21日から23日にわたり、中華人民共和国広東省深セン市の麒麟山荘で開催されました。日本を含む13か国からの国家代表・オブザーバーの他、同時期開催された中国盲人代表研修大会の参加者80人ほどがオブザーバーで参加しました。日本では年度末に当たるため大勢での参加は困難でしたが、代表3人と介助者1人の4人で参加しました。全日程のうち、初日は全日、2日目と3日目は午後が総会に充てられ、2日目と3日目の午前中は女性フォーラムが開催されました。

総会の概要

21日、開会式終了後、具体的な審議に入りました。会計報告の後、各国からのカントリーレポートが発表されました。先進国ではIT関連の発展や著作権問題の進展が見られ、途上国では単独・二国間協力を含めた組織作りへの取り組みが多く聞かれました。日本からは、障害者自立支援法・IT関連と著作権問題・特別支援教育・欠格条項撤廃などを披露しましたが、職業選択の機会の拡大と確保という観点から、欠格条項撤廃には特に関心を集めました。

午後はまず、世界盲人連合の動きを第1副会長のダイアモンド女史(オーストラリア)が報告し、併せて昨年トロントに開設された常設事務所の役割について、事務所のオフィサーであるハーティン女史(カナダ)がブリーフィングと所信表明をしました。続いてテーマごとの活動報告が行われ、昨年、茨城県つくば市で開催された盲人マッサージセミナー、4回目を迎える池田輝子ICT奨学金講習事業と同氏よりのインド洋沖大地震津波復興支援、オンキヨー点字作文コンクールなど、日本が深く関わっているプロジェクトの報告も出されました。

その後、アジア太平洋地域協議会を構成する東アジア、東南アジア及びオセアニア太平洋地区の3つの地区に分かれた地区ごとの話し合いとなり、日本が所属する東アジア地区では、ICT講習や医療マッサージの講習の手法や経験を共有化するアイデアなどが、友好的な雰囲気の中で話し合われました。

夜は歓迎パーティーとなり、中国の視覚障害者グループによる音楽の演奏が披露されました。西洋のポップスを演奏する者、二胡を使った伝統音楽を演奏する者などさまざまでした。

22日の午後は、中国からの参加者が研修大会に出席してしまい、初日より少々寂しい会場となりました。総会と中期総会の位置づけ、理事会と政策委員会の関係など定款に関する問題が提起されましたが、結論は次回の総会に持ち越しとなりました。

その後、国連障害者の権利条約、BMF(びわこミレニアム・フレームワーク=第2次アジア太平洋障害者の十年戦略文書)の見直しを受けて発効するBMFプラスファイブ(第2次アジア太平洋障害者の十年後半5年の戦略文書)に議題は移り、各国で速やかな採択・実現を促すよう呼びかけられました。

23日は、常設事務所・資金集めの方法・次世代対策などが議題に上りました。日本からは、共用品推進機構の依頼を受けた国際標準化機構への提案に対する支援の依頼、日本が中心となって進める地域内ニュースレター発行の提案が発表され、参加者の賛同を得ました。最後に7項目にわたる「深セン声明」を採択して総会の全日程を終了しました。夜の送別パーティーでは、宴席がにぎやかな中国らしく、「カンペイ!」の連続でした。

女性フォーラム

女性フォーラムの初日には、WBU第1副会長のダイアモンド女史(オーストラリア)が自らの経験を参加者と共有化した後、教育へのアクセスに関し率直な意見交換が行われました。中国からも5人ほどの参加があり、中英通訳が同席したことから中国人が積極的に自らの体験を語りました。ただ、特に途上国の農村部では教育へのアクセスはいばらの道で、政治的決断も含め抜本的な対策の必要性が浮き彫りになりました。教育が視覚障害女性の地位向上にとって最重要課題である点について参加者が合意しました。

2日目には、常設事務所のオフィサーであるハーティン女史(カナダ)が、自らの生い立ちや弱視としての経験を披露しました。その後、来年の世界盲人連合女性フォーラムを主眼に、今後の重要課題を抽出しました。世界盲人連合レベルでは前回の総会で、国家代表にジェンダーバランスを考慮することが正式に謳われたのですが、女性の参加者は通訳や介助者の場合が多いのが現状です。

これに象徴されるように、数合わせだけではなく、実質的に政策決定に関与する立場の女性を増やすなど、「質の伴った平等」が教育とともに重要課題となり、来年のWBU女性フォーラムに案件として提出することになりました。ただ、この時間も中国からの参加者は研修大会に出席しており、通訳者を確保するのも困難である等の理由から、こじんまりとした話し合いの場というのが実態で、視覚障害女性の地位向上はこれからという印象を残しました。

そんな中、デンマーク政府の支援で、ラオス・カンボジア・モンゴルで進められているキャパシティ・ビルディング・プロジェクトでは、女性の社会参加が比較的進んでいる欧州らしく、開発援助にジェンダーバランスは必須となっており、近々、視覚障害女性に関する実態調査が行われる予定が、フォーラムの場で披露されました。こうした調査は、他国での政策提言にも一助となることでしょう。

ホスト国中国

会場となった麒麟山荘は、深セン市政府公認の施設で、市街から離れた丘陵地帯に広がる敷地に7つの建物が点在し、ホテル並みの宿泊施設や多数の会議施設を擁しています。会議のメイン会場は、その中の「貴品館」と呼ばれる建物で、地上階の50メートルプールや地下のジムまでそろっていました。近くに高級住宅街もあったようですが、市街地とは隔離されていて、近隣の商店までタクシーが必要という遠隔地でした。見事に整備された花壇や緑地帯が広がる中、WBUAP中期総会の開催を示す青い幟(のぼり)がはためいていました。

大会前日にはWBUAPの理事会も開催されましたが、直後に深セン副市長列席のレセプションがVIP室で行われ、開会式でも副市長が挨拶しました。国際的なイベントの開催に対する中国政府の力の入れ様を見せ付けられました。盲人協会が独立した組織として認知を高めている国内事情がプラスに作用しているのでしょう。

今回は、中期総会に併せて各地の代表による作業検討大会が開かれ、同参加者が中期総会もオブザーブしたことで、中国国内の視覚障害コミュニティに対する大きな啓蒙(現 啓発)効果があったのは間違いありません。しかも、中英同時通訳に黙って耳を傾けるだけではなく、全体会や女性フォーラムを通じて積極的に発言をしたり、懇親会で他国からの参加者とのネットワーク作りに走り回ったりで、中国がこれから国際舞台で活発に自らの役割を担って行く基礎作りとして良い機会であり、これからの活躍も大いに期待されます。

近隣諸国同士の協力の進展

WBUAPには文化的・経済的・宗教的にさまざまな地域が混在しており、この多様性が地域の資産であるのですが、他方、各地のニーズもさまざまであり、地理的な理由も相まって、近隣の国同士での協力に新しい動きが見られ、会議のいろいろな場面で報告されました。香港は言葉が共通なことから中国本土への支援を拡大し、今後は中国語によるIT講習や、中国語をベースにした語学スペシャリスト養成など、新しい分野の支援を展開する準備を進めています。

中国本土では、按摩の訓練センター建設を準備中で、モンゴルのようにマッサージの職業としての地位確立が発展途上の国からの研修生受け入れを模索しています。東南アジアでは、視覚障害者の組織作りがこれからというラオスに対し、隣国のベトナムが視察団を送り、組織認定への働きかけを後押ししました。オーストラリアはオセアニア諸国への支援を強化しつつあります。

特に目覚しいのは、WBUAPの3地区の一つ、東南アジア地区の活動で、インドシナ諸国に組織作りの支援に入ったり、就業に関するワークショップを現地の雇用主を交えて開催したり、ファンドを作って経済的に厳しい状況に置かれている国からの活動への参加を支援したりと、地の利から来るフットワークの良さを大いに発揮しているようでした。

最後に

開催期間中、滞在先のスタッフが多数待機し食事などのサポートをすすんで行ってくれました。また、会議の時間帯は、市内の英語学校の学生が交代でボランティアとして待機し、食事や移動の介助をしてくれました。学生ボランティアは参加者の送迎の補助も担当していました。多くのボランティアにとり、障害のある人と接するのは初めての経験だったようですが、こうした一つ一つの積み重ねが、中国での障害者理解に繋がって行くものと確信します。

今回は会長のクア氏(シンガポール)が急用で欠席となり、理事会では急場の対応に追われました。また、副会長のタルシディ氏(インドネシア)が財政面から欠席となる一方、ノルウェーやデンマークの支援を受けて東チモール、ラオス、カンボジア、モンゴルが参加しており、途上国からの参加者の資金問題を大きな課題として残した結果となりました。

(たばたみちこ 日本盲人会連合国際委員)