音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年6月号

ほんの森

社会リハビリテーションの理論と実際
奥野英子著

評者 上田敏

誠信書房
定価(本体3,500円+税)
〒112―0012
文京区大塚3―20―6
TEL 03―3946―5666

総合的なリハビリテーション(以下リハと略す)には医療・教育・職業・社会の四つの側面があるとよくいわれるが、「では社会リハとは何か?」と聞かれても、すぐに答えられる人はそう多くないのではなかろうか。

これは、著者の奥野氏(筑波大学大学院教授)がこの本のなかで嘆いておられるように、わが国にリハが本格的に導入された1960年代からの約40年間に、「社会リハ」を主題とする著書は氏の恩師である故小島蓉子氏のもの3冊(奥野氏との共編を含む)を入れてわずか6冊しかないという事実と関連していよう。

そのような知識の欠落を補って、社会リハについての国内外の最新の知識をバランスよく示してくれるのが本書である。

本書はまず、リハ全体のなかでの社会リハの位置づけを検討し(第1章)、ついで社会リハの歴史的展開(第2章)を詳しく述べる。ここでこの約40年間に、「社会リハ」の概念・定義がはげしく揺れ動いたことが語られる。

初期の障害者福祉サービスとほとんど同じと考えられた時代から、広義の環境改善に重点が移った時代があり、さらに国連の「障害者に関する世界行動計画」(1982年)において「機会の均等化」がリハとは別のものと規定され、障害者福祉や環境改善が「均等化」に含まれたことで、社会リハの概念が不明確になった時代があった。

そして、1986年のRI社会委員会による「社会リハとは『社会生活力』を高めるプロセス」という定義でアイデンティティが再確立され、現在に至るのである。

第3章で、海外での定義や「社会生活力」向上のための訓練の状況が、著者の行った国際的調査も含めて詳しく紹介され、続く第4章でわが国の諸制度のなかでの社会リハの位置づけがなされる。

第5章以下の後半がいよいよ社会リハそのものを詳しく論じるところで、基本理念と実際(第5章)、「社会生活力プログラム」の体系化(第6章)、事例を含む「社会生活力プログラム」の実践(第7章)の各章で「社会生活力」向上を核とする社会リハの理論と実際が具体的に紹介される。

そして、最後の第8章の「今後の課題と展望」がよい締めくくりとなっている。

「社会生活力プログラム」の実際については、本書のほかにも奥野氏編著の近著「実践から学ぶ『社会生活力』支援」(中央法規)に詳しいので、併せ読まれるのがよいであろう。

(うえださとし 日本障害者リハビリテーション協会顧問)