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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年6月号

列島縦断ネットワーキング【兵庫】

障害の重い人たちにも働く場を
~加古川はぐるま福祉会における就労支援の取り組み~

高井敏子

1 はじめに

加古川はぐるま福祉会は兵庫県加古川市(人口26万7,103人)にあります。瀬戸内海に面して広がる東播磨臨海工業地帯と穏やかな気候に恵まれた実り豊かな播磨平野がバランスよく共存しているまちです。

ここに昭和55年4月、地元加古川ロータリークラブの社会奉仕活動の一環として提案設立された通所授産施設「加古川はぐるまの家」が活動を開始しました。以来、大人になれば働くことがごく自然な姿であると考え、充実した大人の暮らしを目指して「働く環境」を整え、授産活動の延長線上に就労による社会参加を推進してきました。

そして平成8年4月、地域の中で普通に働き暮らすためには『働く支援』だけではなく「暮らすこと」「潤うこと」等も含めた総合的な支援が必要不可欠であることから、加古川市立知的障害者総合支援センターの管理運営を受託(現指定管理者)。さらに、平成12年4月からは加古川障害者雇用支援センター(あっせん型)の運営を開始、平成14年5月法改正に伴い「加古川障害者就業・生活支援センター」と名称を変更し、東播磨地域の拠点としての役割を果たすべく地域ネットワークの構築に努め、就業生活の安定と雇用企業を支援するために積極的な事業展開をしてきました。

2 就労による社会参加を目指した経緯

平成18年4月障害者自立支援法が施行され、改革の大きな柱として「福祉施設から一般就労への移行強化」が掲げられました。しかし、これまでの障害福祉分野では施設完結型の「保護的支援」が中心であったために、学校を卒業して一旦福祉施設に入所するとそこが安住の場所になり、全国的にも授産施設からの就職者は1パーセント未満の状況です。しかし、障害のある人たちは本当に保護されることを望み、また働けない人なのでしょうか。いいえ、決してそうではありません。働くための環境や支援がなかったにすぎません。私たちと同じように社会の一員として『必要な人であり、頼りにされる』ことを待ち望んでいます。そこで施設完結型ではなく、地域支援型の取り組みとして、企業に職業訓練の場を求めて、働く力を育成し、一人でも多くの人たちが福祉施設を巣立ち『地域社会の中で普通に働き、普通に暮らすこと』を当たり前にするために通過施設としての活動を推進してきたのです。

3 働く力の育成は環境整備から

施設利用者の多くは、これまで「できないこと」の訓練が中心だったために自分に自信が持てません。そんな彼らに自発的な自信と意欲を引き出すために「できること・興味、関心のあること」に着目した5つの働く環境づくりを行いました。

1.個々の得意や得手を活かす作業種を豊富に開拓する。2.作業の効率化、円滑化について創意工夫する。3.得意な作業を絶えず120パーセント確保する。4.「労働」と「賃金」そして「暮らすこと」の関係を具体的な体験を通して伝える。5.他者と比較した評価ではなく、本人の頑張りを「認め励ます」プラス思考の声がけをする。

しかし、施設内という限られた環境の中だけでは、障害の重い人や社会適応し難い人たちに活躍の場を提供することに限界があります。そこで私たちは次の取り組みとして、昭和63年から利用者の特性が活かせる適職開発を一般企業に求めて、利用者と職員が共に企業へ出向し、本物の会社で労働体験をする企業内授産を開始しました。当時、「障害の重い人たちの職業訓練こそ本物の会社で」という奇抜な発想は到底受け入れられるような時代ではありませんでしたが、20年が経過した今、やっと一般化されようとしています。

4 障害の重い人たちにも本人の望む働く場の提供を

本物の会社には多種多様な作業種や工程があり、利用者の興味や関心のあることや特性を活かせるような仕事がいっぱいあり、まさに能力開発のチャンスです。まず職員自らが職場実習を行い、企業の特徴を把握して職務分析や課題分析を行い、1日の流れを組み立てていきます(第1号ジョブコーチ(福祉型)のように)。特に安全面には細心の注意を払いながら働けるような環境づくりに努めました。施設内では活躍の場がなかった障害の重い人たちも環境の変化にとまどいはあるものの職員が付き添い、共に働くことで、企業側も利用者もスムーズに与えられて仕事に適応することができるようになりました。また、企業という凛として独特の雰囲気の中で、従業員の方々からも「働く姿勢」や「休憩時間の何気ない当たり前のやり取り」から多くのことを学ぶことができました。自分のできる仕事に巡り会い「やったらできる」という自信が働く意欲に繋がり、その場が心地よい働く場所であったり、より厳しい環境の企業就職を目指して職業訓練に励む人など、施設内で見ることができなかった働く姿を発見することができました。

福祉施設等からの就労支援(東播磨地区の取組)
図 福祉施設等からの就労支援(東播磨地区の取組)拡大図・テキスト

5 顔の見える地域でネットワークの構築を

障害の重・軽度に関わらず『会社で働きたい・働き続けたい』という願いを自己実現するためには、本人、家族そして企業側の「不安やためらい」を払拭するための『安心』というキーワードが必要不可欠です。そのためには、支援者側が「働く力の育成」「適職開拓と就職支援」「職場定着支援」「途切れのない支援と再チャレンジシステムの確立」という一貫した就労支援をコーディネートしなければなりません。顔の見える地域で教育、福祉、医療、労働等の関係機関が日々の活動をとおして、得意分野を分担しながらチームケアを図り、その活動が原動力となり東播磨地域のネットワークの構築へと繋がっていきました。

最後に、障害者自立支援法が施行され、通所授産施設「加古川はぐるまの家」は「就労移行支援事業」と「就労継続支援事業B型」の多機能型事業所として再スタートしました。新事業では、就職者を出すこと以上に、途切れなく新たな利用者を発掘するという課題があります。また、運営上、収入の激減等さまざまな困難が予想されます。しかし、どんな時代が来ようとも、私たちはこのネットワークをベースに、目の前にいる利用者の望む生き方・働き方を支援するというスタンスは、決してぶれることなく共に働き続けたいと願っています。

(たかいとしこ 加古川はぐるま福祉会)