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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年8月号

障害者福祉と難病の関係を考える

伊藤たてお

はじめにお断りしておくが、難病イコール特定疾患ではない。特定疾患とは行政における都合上の理由で難病対策の範囲内とする疾患を指し、難病というときには大変広い範囲の疾患を言うことが多い。そしてその場合も科学的な根拠に基づいた、というよりも、どちらかというとその人の経験の中で見たり聞いたり、あるいは体験した範囲内での想像という側面が大きい。

ある人はまさに生命の危機に瀕した状況を言い、ある人は生活上の不自由な状態を想像し、ある人は遺伝や差別を念頭に置く。患者も子どもだったり大人だったり高齢者だったり男だったり女性だったりする。

つまり、難病一般という話は成り立たないのである。それを承知のうえで、とりあえず「難病」と括ることをご了承願いたい。

「症状の固定」は難しい

あえて難病という言葉を使うが、短期集中的に厳しい状況であれ、長期慢性であれ、病気というからにはそれなりの特徴がある。つまり症状に変化があり、進行性であり、寛解と増悪を繰り返すのであったりする。症状の固定を前提とする「旧身体障害者福祉法」の適応にならないといわれてきた所以である。近年、内部障害の導入や障害者自立支援法によって、さすが障害の固定、つまり欠損や拘縮だけが障害ではないことは当たり前のこととなった。だが「症状の固定」の呪縛はまだまだ厳しいのである。

人間とは生物であるから当然のこととして、時間とともにさまざまな変化を見せる。病気というものは実にその時間そのものなのではあるまいか。ある時は開放に向かい、ある時は悪化していくのである。着実に死に向かっていくのであり、ある人はそれが早くやってきただけのことに過ぎない。また人によって、苦痛や不自由、不便、悲しみやうれしさの感度が違う。それはまた、家族の構成や関係性によっても違いが出てくる。住んでいる地域による格差も大きく、その人自身の生活や人生に対する考え方による違いも大きい。治療の状況も残念ながらというか当然というか、まさにその人、その地域、医療者との関係によって大きく違いが出てくる。そしてその違いの中で、その人の生活も生き方も、希望さえも違ってくるのである。

その点を障害者自立支援法や介護保険、障害年金、生活保護法はどう考えているのだろうか。病気と障害の関係をどう捉えているのだろうか。

法律は何を支援し、何を「制限」しようとするのか

その人の何を支え、何を、どこを、どのように支援しようとしているのだろうか。それが明確にならない限り「難病」は障害者施策の中には永遠に入らないのだろう。つまり、時を止め、その人という対象物をあらゆる角度から眺め、物差しに当てはまる場合だけ支援の対象にするという考え方である限り、病気の状態にある人を支援するということはできないのである。申請主義というのもその考え方の流れにあるのだと思う。

その人が何を原因とするのであれ、その人の直面している一人では乗り越えられない壁、困難、苦痛、悲しみに、共に乗り越えよう、立ち向かおうという制度にならない限り、制度の谷間をなくすことはできないのだと思う。昨今の出来事、社会の状況を見るときに、社会保障だけがこの国で良くなるとは到底できないことなのだと思わざるを得ない。

「人」は時間の流れの中に生きている

人を時間の流れの中で見ていただきたい。いつ、どこで、どのような援助が、どれだけ必要なのか、それは当人が一番よく知っているのである。そして「病気」であっても、その人によって治療のゴール設定は違うし、求めるもの、必要とする援助は違うのであり、その違いに着目した、あるいはその違いを認める支援でなければならないのであって、支援に必要を合わせることはできないのだ。そこに費用や時間の無駄、苛立ちや制度の形骸化というものが生じてくる。難病の法制化で済む話ではない。

各法の連携の中で

私たちに必要なのは、まず医療保険である。そして障害者自立支援法。障害年金、介護保険、難病対策や小児慢性疾患対策、進行性筋萎縮症対策や関節リウマチの対策、がん対策、薬害の対策や、今は肝炎の対策も叫ばれている。生活保護、就労支援、就学支援、地域のさまざまな支援の制度、通院の支援や生活のあらゆる場面にわたっての支援が必要なのだが、実にばらばらにそれらは行われており、その一つ一つが申請主義とやらの一種の行政サボタージュの精神で出来ており、患者・家族の苦労を何倍にもしてくれている。特に急な発病や重症で家族もパニックのような状況の中では窓口に行くことすら思いつけないのである。

繰り返すが、難病といってもいろいろである。そのすべての要求に答え得る制度は今のところ存在しない。しかし今ある制度を使うことはできる。現に、神経筋疾患や骨格系、泌尿器、循環器、血液などの疾患などでは身体障害者手帳を持っている人は多いし、障害年金もけっこう受けている。生活保護を利用している人も少なくない。若年性アルツハイマー病の支援も含め、制度に暖かい血が流れていない、運用がまるで硬直している。と思うのは、われわれだけなのだろうか。

(いとうたてお 日本難病・疾病団体協議会(JPA)代表、難病支援ネット北海道代表)