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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年8月号

列島縦断ネットワーキング【北海道】

JDDネット北海道の取り組み

村田昌俊

1 JDDネット北海道設立の経緯

わが国に発達障害者支援法が施行された2005年4月、その1か月後の5月9日、北海道内で活躍する優れた支援者である2人の専門家が呼びかけ人となり、日本自閉症協会北海道支部札幌分会(ポプラ会)、北海道LD親の会連絡協議会、北海道学習障害児・者親の会(クローバー)、札幌ADHDの会(いーよ)、ドンマイの会(北海道高機能広汎性発達障害児者親の会)の5つの団体と発達障害の支援に携わる数人の専門家が札幌に集まりました。それまでにも、行政主催の検討委員会や各種講演会などで互いに顔を合わせ、顔や名前は知っているものの、5団体の代表と支援者が一同に会し、「これからの北海道の発達障害支援をどうするか?」という一つの大きなテーマについて考える初めての機会を持ちました。最初は雲をつかむような、本当に漠然とした目標を与えられた感じでもあり、ことの重要さを認識するのには少しの時間を必要としました。

その日の会議では、1.各親の会の現状と課題、2.理念法と言われている「発達障害者支援法」を生かした取り組みを具体的にどう進めるか?、3.北海道のネットワーク形成によって何をめざすのか?、4.仮に連携協力体制を取ったとして、どのレベルで繋がりネットワークを形成できるのか?、ということを真剣に話し合ったものです。差し当たり5つの親の会が中心となり設立準備会を立ち上げ、継続してネットワークについての検討を進めることになりました。

JDDネット北海道の活動

○発達障がい支援者や支援機関との連携・協力体制の推進

○発達障がい支援に関する学習会やセミナー開催

○発達障がいの理解と支援に関わる地域社会への啓発活動

○道内の発達障がい児者の実態把握とニーズの確認

○行政・関係機関への要望や提言

○加盟団体間の情報交流と協働

○広報活動や会員への情報提供

○北海道内の親の会や自助グループとの連携

2 設立までの1年間の活動

それぞれの親の会の代表者は、すでにお子さんが20歳を超え、青年期に入っている方が多く、学齢期における子どもと保護者の困難さや青年期の日常生活の大変さ、特に高校年代の困難さ・就労を継続する困難さを実感している方々です。また、わが子が直面する障害特性に基づく個別の問題とは別に、各親の会活動を推進する課題や、社会的活動の意義や市民活動の必要性を理解している方々ばかりでした。準備会では「発達障害という大きな枠組みのもとで団結する準備」を本格的に始めることになり、2005年6月末には、「NPO法人 ことばを育てる親の会北海道協議会」を設立準備会に加え、協力体制をさらに強化していきました。

会の設立に向けての準備は、決して順風満帆なことばかりでもなく、何度か壁にぶつかったこともありました。しかし、そのつど、メンバー相互に理解を深めようという心遣いがあり、試行錯誤の中、「北海道で発達障害者支援法を軸にどのようなネットワークを形成するか?」というテーマを設定し、同年11月には、発達障害者支援を進める国会議員の会代表である福島豊氏、日本自閉症協会副会長の氏田照子氏、ノンフィクションライターの品川裕香氏、行政担当者をゲストに迎え、「北海道発達障害支援フォーラム」を実施する準備を進めていきました。このイベントを実施する段階ではメンバーの相互理解も進み、会議の雰囲気も和やかになり、さまざま課題はあるけれど「歩きながら考えよう」を合い言葉にEメールや掲示板を活用し、調整を進めていけるようになりました。

11月のイベント実施後、3月には行政主催の全道規模の北海道発達障害支援フォーラムの実施により、私たちの絆は一層深まり、いよいよ本格的にJDDネット北海道設立に向け、本格的な準備に入りました。その準備のために行った会議は1年間で延べ17回を数えました。私は旭川市在住ですから、札幌市内在住のメンバーの皆さんは地方在住の私のスケジュールを優先し、会議の日程調整を進めてくれました。本当に有り難いことでした。

3 JDDネット北海道の設立記念フォーラムの開催

2006年6月には正式名称を「JDDネット北海道」と定め、設立趣意書・会則や内規等を整えることができました。記念フォーラムには、経済学と福祉という観点からの著書を記した慶応大学教授の中島隆信先生にご講演をいただき、行政・支援者・親の会の代表によるシンポジウムを北海道大学で開催することができました。当日は250人を超す参加者があり、関係者の関心の高さを感じる機会となりました。その日の設立交流会では、JDDネット北海道の中心メンバーである自閉症協会北海道支部長上田マリ子さんのバースディを共に祝い、会の発足と同時に互いの結束を確認することができました。

4 この1年間の取り組み

親の会の連携協力体制はまとまりを持つことができ、それぞれの会で進めている活動を尊重しながら、「それぞれの障害特性を超えたところの共通の困り感」に基づいた新たな枠組みの活動を展開していくことの重要さを意識していけるようになりました。それぞれのライフステージに巡り合う危機と課題について、障害種別を超えた課題認識が進められるようになってきています。これには、発達障害のもつ共通の困り感と問題点が存在すること、そして、診断の問題というものがあります。早期にはLDという診断を受け、思春期にはADHDと診断変更となり、青年期にはアスペルガー症候群という診断となるようなケースさえも時にはあります。また、発達障害は「目に見えにくい障害」であり、多くの場合、学齢期になり問題点が表面化されるという共通点があること、本人や家族の困り感については、日常生活全体に影響を与えてしまうことになります。また、発達障害から派生する2次障害や生活上の悩みや将来に対する不安は共通点が多くあることを認識し、これらの問題への対応について提言をしていく必要があります。

各親の会に共通した課題

○就労支援が不十分

○専門家の育成が不十分

○専門的な医療機関の確保が難しい

○早期発見・早期療育の必要性

○地域や学校で発達障がいに対する理解が不十分

○発達障がい支援の地域間格差と学校の温度差

○通常学級で理解と適切な支援を受けられない

○本人が経済的に自立していける見通しが立たない

○青年期の生活の場や支援を受けられる場が少ない

5 JDDネット北海道の現状と今後の課題

JDDネット北海道が抱える課題として、広大なエリアの問題や社会的資源の地域間格差があります。北海道では函館から稚内までの南北の距離は750km、4県がこの北海道の中にすっぽり入ってしまうくらい広大な面積を擁しています。東西南北を端から端まで車で休みなく走っても、1日がかりになります。どの地域にも発達障害の子どもやその子どもを育てる家族が生活し、具体的な支援やネットワーク形成に期待を寄せています。北海道という地域の特性を踏まえ、札幌周辺に集まっている大きな親の会と、地方都市の小さな親の会との連携協力をイメージし、各地域単位のネットワーク作りを中心に進めることを視野に入れた連携協力体制をイメージして議論を進めることになりました。

親の会と専門家が中心となって設立した本会には、今年度から正式に職能団体・発達障害等の研究団体が加盟しました。これまでは当事者・家族の視点からの活動を中心に会を運営してきた訳ですが、これからの活動では、当事者・家族ばかりではなく、支援者の視点を加え、「発達障害児者にとって実行可能な本質的な支援とは何か」という視点を加えた議論を進めていく必要性が加わりました。当事者や家族の思いと支援者の思いを寄せ合い、目先の利害だけではない本質的な支援のあり方を模索していくような思慮深い活動が求められます。本人や家族の実際上の困り具合の中から、本質的な支援の方向性、支援内容の評価などについて、証拠に基づいた提案を行う努力が必要になっていきます。当事者・家族と、支援者・支援に携わる職能団体との協働という認識を進め、「それぞれの思いを寄せ合う連携・協力」というものを生み出す工夫を進めていくことが必要です。

全国には、現在、約50か所の発達障害者支援センターが設置されています。私たちが進める地域の連携や当事者・家族が安心できる地域社会や各地域の支援体制を築いていくためにも、発達障害者支援センターとJDDネット北海道、JDDは、十全な関係を維持増進していくことが大切になっていくものと考えております。

(むらたまさとし JDDネット北海道代表)