音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年9月号

列島縦断ネットワーキング【島根】

地域ネットワークの発展
~障害者自立支援協議会の発足~

矢田朱美

はじめに

障害者自立支援法によって、地域格差はより大きくなっていく危険性をはらんでいます。その地域の障がい福祉のレベルが、最低限度にとどまるのか、質の高い充実したものにできるのかは、地域自立支援協議会をいかに有効に機能させるかにかかっていると言っても過言ではありません。

出雲においては、長年にわたり連綿と続いてきた、フォーマル・インフォーマルのネットワークの活動があり、これをベースに、自立支援協議会を組み立てていこうとしています。

ふあっとのネットワーク

出雲のネットワークのひとつに「出雲の精神保健と精神障害者の福祉を支援する会」(通称ふあっと。以下、支援する会ふあっと)があります。1987(昭和62)年、出雲の3か所の精神科医療機関の有志6人の発起により、「出雲の精神医療を考える会」として始まった、インフォーマルなネットワークの活動です。月1回の勉強会を中心に、今日まで20年間にわたって活動を続けてきています。

この間に仲間の輪は広がり、現在では会員が140人を超えています。会員の顔ぶれは、精神科医療関係者・精神科以外の医療関係者・行政職員・福祉施設職員・社会福祉士・弁護士・司法書士・行政書士・教員・新聞記者など、実に多彩です。所属や職種、年齢や経験も異なる会員が、共通の思いと理念に結ばれ、それぞれの専門性や個性を活かしながら、連携の輪を形作っています。

ふあっとの取り組み

支援する会ふあっとは、「精神障害を患っても普通に生きていける社会づくり」を目指して活動しています。毎月の勉強会では、精神障害者の支援をめぐるさまざまな問題を取り上げて議論します。議論によって浮き彫りになった課題に対しては、所属機関の枠を超えて力を出し合います。会の発足の翌年から、数年ごとに、コンサートや講演会などを企画開催して、一般市民に向けた啓発活動を行っています。

また、ソーシャルアクションとして、市町村に対し通院医療費助成や、精神障害者の「欠格条項」撤廃について働きかけたり、精神障害者が関わった事件の報道のあり方をめぐって、地元新聞社へ申し入れをしたこともありました。

社会資源づくりにも取り組んでいます。1989(平成元)年、出雲で初めての共同作業所の設立を実現させたのを皮切りに、グループホーム、地域生活支援センター、通所授産施設といった社会資源を創りだしてきました。また、これらの事業を安定的に運営するために、2001(平成13)年には、社会福祉法人ふあっとを設立しました。

近年出雲では、当事者活動として、当事者が入院されている精神障害者とともに活動をする生活サポーター(ピアサポート)活動を展開していますが、その活動の創設や支援にも、支援する会ふあっとは大きな役割を果たしています。

地域自立支援協議会(出雲市案)
図 地域自立支援協議会(出雲市案)拡大図・テキスト

障害種別を超えたネットワーク

障害種別を超えた連携も、かなり以前から実践されてきています。10年ほど前から、三障害ネットワーク会議という情報交換や連携の場を持ち、日常的で実質的な相互理解と協働の基盤として機能してきました。

先般の障害福祉計画の策定作業では、三障害の支援センターが協働してニーズ調査を担い、調査票の作成から、各障害分野の施設等を通じての当事者への聞き取り調査、データの取りまとめまでを行いました。このことは、現場感覚を生かした、実のあるニーズ把握につながったものと評価できます。

そうした連携がうまく作られ機能してきた背景には、市行政の姿勢が大きく作用しています。行政の側が、地域の活動に積極的に参加していくというスタンスを持っていることが、実質的な協働による地域づくりを可能にしているのです。

出雲のネットワークと自立支援協議会

自立支援協議会の枠組みの検討にも、三障害ネットワーク会議が基盤となっています。これまで三障害ネットワーク会議においては、

1.地域のサービスの質・量の向上

2.社会資源開発

3.サービス計画策定に関する検討

4.困難事例や多問題家族事例など、個別支援事例の検討

などについて協議してきました。これこそ、自立支援協議会の心臓部であり中心機能であろうと考えられます。そこで、従来の三障害ネットワーク会議にあたるものを「運営会議」として自立支援協議会の中心に置きました。

運営会議を構成するのは、市内6か所の委託相談支援事業所です。このうち、相談支援機能強化事業の委託を受けているふあっとが、自立支援協議会の事務局を担ってはどうかとの案もありました。しかし、1か所が事務局を持つと、対等性のバランスが崩れるおそれがあります。そこで、自立支援協議会の事務局は市が担当することになりました。このことは、行政としての責任と役割の再認識を促したと同時に、各相談支援事業所も、行政にだけ責任を押し付けることなく、役割と責任を果たしていこうと再確認することにつながりました。

重層的なネットワーク

障害福祉にかかわる関係機関は多岐にわたりますから、自立支援協議会全体は、相当の大所帯にならざるを得ません。そこで、「運営会議」を中心に、「サービス調整会議」「事業所連絡会」「専門部会」「代表者会議」と重層的な構造を持たせて、必要な機能を効率的に果たせるように工夫しています。

1.運営会議・サービス調整会議:いわば実働部隊(事務局は委託事業所が輪番制で担当)

2.事業所連絡会:障害福祉にかかわる事業所の連絡調整の場

3.専門部会:それぞれのライフステージにおいての課題の整理や検討を行う協議の場(各部会の事務局は運営会議構成員と市が担当)

4.代表者会議:各関係機関の代表者で構成し、大枠の合意形成や、計画の進行管理・評価・政策提言を行う場

これだけの規模の自立支援協議会ですが、それのみで完結するわけではありません。たとえば精神科の領域においては、保健所が事務局である「出雲地域精神保健福祉協議会」という歴史ある公的ネットワーク組織が40年間継続して存在しています。医師やソーシャルワーカー、看護師といった専門職種の組織も活発に活動をしています。先にご紹介した支援する会ふあっとも含め、こうした既存の組織とも、それぞれに属する「人」の重なり合いを通じて有機的につながっているのです。

地域にあるさまざまなネットワークが相互にリンクし、作用し合っていくことで、地域性に応じたシステムづくりを、より総合的に考え、推進していくことが可能になるのです。

図 運営委員会とサービス調整会議の運営(出雲市案)拡大図・テキスト

おわりに

出雲の良さは、『人を大切にする』ことです。人と人とのつながりを大切にしてネットワークを作り、人の信頼を載せてさらにネットワークが広がっていくのです。『過去があるから現在があり、現在があるから未来がある』。一日一日を大切にして、継続していくことが『宝』であることを感じながら、今後より一層柔軟で強いネットワークを育て、システムづくりに生かしていきたいと思っています。

(やたあけみ 「ふあっと」所長)