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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年9月号

ほんの森

野沢和弘著 条例のある街
―障害のある人もない人も暮らしやすい時代に―

評者 尾上浩二

ぶどう社
〒101―0052
千代田区神田小川町3―5―4
お茶の水S.C.905
定価(本体1,700円+税)
TEL 03―5283―7544
FAX 03―3295―5211

2006年10月、千葉県で全国初の障害者差別禁止条例が誕生した。この本は、その「日本で初めて障害者への差別をなくす条例をつくろうとした人々の物語」だ。

条例策定で中心的役割を果たしたのが「障害者差別をなくすための研究会」だ。その座長を務めた野沢氏による本書は、読み手をグイグイと引き寄せ、一気に読ませてしまう力がある。さまざまな「人々の物語」が、筆者の手によって鮮やかに再現されているからだ。

「千葉県障害者計画」に同条例の必要性が記載されたことをきっかけに、条例づくりが始まっていく(この計画自体、政策立案段階から官民共同で取り組む“健康千葉方式”で策定)。2005年1月に市民公募委員による研究会が発足、1年の議論を経て報告がまとめられる。2006年2月の県議会に条例案を提出したが継続審議となり、最終的に10月に議会で成立した。本書では、この間の経過が余すところなく描かれている。

視覚、聴覚、身体、知的、精神といった障害当事者も多数参加した研究会は毎回議論が白熱した。また、県民から寄せられた800件もの差別事例も大きな題材となった。タウンミーティングが県内各地30か所以上で開催された。これらのことを通じて、さまざまなドラマが生まれ、「私たちの条例」との思いが市民の間に広がった。

「条例のある街」とは人と人が織りなすドラマのある街だ。この本には、そうしたたくさんのドラマが詰まっている。評者自身、養護学校から普通学校に転校する際に苦労したこともあり、重度心身障害児のきょうだいのエピソードは心動かされずには読めなかった。

そして、堂本知事のリーダーシップや野沢さんたちのこの条例に対する思いが加わって「奇跡」は起きた。野沢氏は障害のある子どもの親として、また新聞記者として障害者の人権侵害・虐待事件に関わってこられた。そうした中から見抜かれた差別の現実の重さを踏まえて、次のように記されている。「ひどい虐待を許している背景には、日常レベルでのささいな差別や無理解がある。そうした小さな差別や無理解を一つひとつ無くしていかなければ、親は呪縛から解放されないだろう。…こうした現実を少しでも変えていくために、この条例は必要なのだ」。

また、県議会との関係で焦点となった「社会モデルに立脚した障害の定義」や「インクルーシブ教育」等は、障害者権利条約の日本での批准の際にも重要なポイントとなろう。幾重もの意味で、一人でも多くの人に読んでほしい本だ。

(おのうえこうじ DPI日本会議事務局長)