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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年9月号

ワールドナウ

イギリスにおける福祉用具提供の現況

小川喜道

はじめに

福祉用具は、障害者や高齢者にとって日常生活や社会生活のさまざまな場面で必要不可欠なものであり、それらが適切かつ速やかに供給されることで生活の質を高めることにつながる。日本では“福祉”用具という表現を用いているが、イギリスでは単に用具(equipment)と称され、内容に応じて“生活”用具など冠が付される。ここでは、イギリスにおける福祉用具供給の考え方や提供機関のいくつかを紹介する。

法的には、「慢性疾患及び障害者法(1970)」に基づき地方自治体より利用者に対してアセスメント後に供給される。また、「介護者及び障害児法(2000)」「介護者(機会均等)法(2004)」により、介護に当たる家族はアセスメントを権利として受けることで、福祉用具の提供や住宅改造につながる。なお、自治体が法の下で提供する福祉用具は、多くの場合、費用負担はない。

障害者・高齢者団体からの批判と改善

福祉用具供給のしくみは、2001年にイギリス保健省から出された福祉用具供給のサービス統合指針に基づき、2004年までに大幅に変更されている1)。つまり、福祉用具の提供を保健サービス部と社会サービス部の両予算から拠出し、供給のしくみもできるだけ一本化するというものである。こうした変革には、高齢者団体「エイジ・コンサーン」や脳性マヒ者協会「スコープ」など多くの団体からの批判が背景となっている。たとえば、1.ユーザーへのアクセシブルな情報提供の不足、2.セルフ・アセスメントの欠如、3.アセスメントの重複、4.少ない選択肢、最新用具の不足、4.不適切な受給基準、5.福祉用具提供者の低い資質、6.フォローアップや変化するニーズ検討の欠如、などが指摘されていた。

各自治体は福祉用具の提供基準を持っており、基本的にはOTによってアセスメントが行われる。この基準は用具一つ一つに利用者の適用基準、及び考慮すべき点が示されている。たとえば、ベッドサイドレールの考慮点として、拘束として用いられてはならない、転落を考慮して床面の工夫・配慮をする、てんかんなどがある場合にはレール脇にパッドを置くことを検討する、など細かく示されている。

一方、利用者自身のセルフ・アセスメント、すなわち自己選択のしくみが、保健サービス部門と社会サービス部門の共同で進められている。そして、介護などのコミュニティケアにおけるダイレクト・ペイメント制度を福祉用具にも適用しつつあり、利用者主導となる領域を広げているイギリスである。

専門職が供給する福祉用具センター

イギリスでは、自治体ごとに福祉用具供給体制が整えられている。ここでは、人口約19万人のロンドン・タワーハムレット区の例を取り上げる。この地域には福祉用具センター(Home Equipment Store)があり、ニーズに速やかに応えている。マネジャー以下15人のスタッフが働いており、そのうち8人は技術者兼ドライバーとして地域を回っている。このセンターの役割は、ケアマネジャーやOTから提案される要望に従って福祉用具をオーダーするとともに、福祉用具の適切な保管場所の提供、配送と適合のサービスの調整、福祉用具のクリーニング及び修理サービス、専門職からの設計及び仕様に従った福祉用具の手直し、が挙げられている。2005年度の提供数は、約1万6千点で、利用者は月平均550人となっている。配達は、オーダーが出されてから5日間以内、緊急配送は36時間以内。回収は、依頼を受けてから10日以内に行われる。時間外対応も行っている。

また、リサイクルが徹底していて、専門的クリーニングはすべての福祉用具について行われる。そして、スタッフによって安全性が検査され、衛生的で適正な状態で提供される。また、感染などを配慮して、福祉用具の回収車と配送車は別々に運行されている。

自治体ごとに車いすサービス

車いす所有者はイングランドで120万人、そのうち82万5千人が常時使用していると言われている2)。ロンドン・タワーハムレット区には車いすセンターが、リハビリテーションをもつ総合病院の敷地内にあり、この区の車いすニーズに対応している。7人のスタッフのうち、マネジャーを含めて3人はOTとPT、他に訓練を受けたアシスタントや一時貸出係などが勤務している。このセンター内には、多くの部屋があり、手動車いす、電動車いす、クッション、各種パーツ類が別々に保管されている。それ以外に調整や使用方法を確認するためのベッドや流しを用意した部屋、ミーティングルームなどもある。センターでは、メンテナンスのために家庭訪問、学校訪問など積極的に外回りをしている。

イギリスでは各行政区にこうした車いすセンターがあり、個々人に対応した車いす処方を行っている3)。1.屋内外利用、2.屋外中心で屋内は一部利用、3.デイサービスなどに利用、4.買い物やレジャーの際に利用、と大まかに4ランクに分けてアセスメントがなされている。特に屋内外で必要となる永続的なニーズに対しては、すべての年齢に対してシーティングを含めてアセスメントを行う。そして、利用者と車いすの両方に対して継続してサポートがなされる。前述したように、この車いすセンターでも回収された車いすの消毒・衛生管理室を持っている。イギリスでも予算的制約があり、保健福祉行政が専門職の配置により合理的な供給を行おうとしている。

セルフ・アセスメントを提供する財団

障害者生活財団(DLF:Disabled Living Foundation)は、福祉用具全般にわたり情報提供、助言、評価を行っている機関である。1969年に設立されているが、現在ではインターネットを中心に毎年数万件のアクセスがある。ロンドンに大きな展示場を持っており、そこには常勤でOTなどの専門職が働いている。来訪者は、1.障害者、高齢者、2.介護に当たる家族、3.医療関係者(PT、OT、看護師など)、4.建築家、デザイナー、などである。ここではセルフ・アセスメントをサイト上からアクセスできるようにしている(SARA:Self Assessment, Rapid Access)4)。これは本人や家族、専門職が活用できるようになっており、生活場面ごとに環境や身体機能の状況をイエス・ノーで回答していくと、福祉用具の選択アドバイスと品目例が示される。さらに詳しく製品仕様や連絡先まで確認することができる。

DLFの福祉用具に関する情報提供は非常に充実しており、サイトから各種用具の詳細な報告書をダウンロードできる。そして、「私達DLFは、自立生活を高めるために福祉機器や諸技術を活用する障害者の“自由”、“エンパワメント”、“選択”のために活動している」と唱っている。

おわりに

イギリスにおける福祉用具の供給は、予算的な制約の中で、保健サービス部と社会サービス部が共同で合理的かつ効率的に行う努力が続いている。しかし、利用者の側からは速やかな提供がなされない、住宅改修が優先順位の後方に置かれる、など財政的な制約からくる不満も出されている。しくみの上では、当事者主体あるいは供給の流れの合理化などをみることはできるが、到達点はもう少し先のほうにあるのかもしれない。

(おがわよしみち 神奈川工科大学)

【参考文献等】

1)Department of Health: Guide to Integrating Community Equipment Services, 2001

2)NHS Modernisation Agency: Improving Services for Wheelchair Users and Carers - Good Practice Guide, NHS, 2004

3)車いすサービスマネジャー協会HP:http://www.wheelchairma-nagers.nhs.uk/

4)障害者生活財団HP:http://www.dlf.org.uk/