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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年10月号

心の原風景

絵画

平山こうた

1954年熊本県生まれ。現在は、東京都在住。1984年セツモードセミナー卒業。イラストレーターとして活躍。第11回アートビリティ大賞・アサヒビール奨励賞受賞。第18回アートビリティ大賞受賞。

九月 台風 夏の終わり
蝉しぐれが時雨に 秋は短い
そして冬がくる
外に出るのが辛い 足が硬くなり
ついでに頭の中もリハビリの季節

使う右手が左手になり
しびれるが左手をつかう
これ頭の活性化かもしれない
書く文字 これ
釘の曲がったような字だ
画の楽しさは
そこまで頭を使わなくていいこと
画に左右天地を考える必要がないので
時の経つのも忘れる
文章は理解していただけるか心配です

「椿を見よ みごとな落ちこぼれ」
落ちこぼれというところに
身がひきしまります

友人がおもしろいことを言う
うなぎを描いたのにナマズ
河童を亀 蟻をハエ
なに そこまで言われると説明だ
画だからね
それにヘタはスケールが大きいのです

外出は狭い世間から抜け出る第一歩
きっかけを作ってくれたアートビリティの方
外に出る安心 楽しみ
それを助けてくれるヘルパーさん
そんな人達に囲まれて
絵に それだけに専念できます

冬がくる前に
山の紅葉 夕焼け
朱 あかね 紫 茶 黄
顔彩をそろえなければ

ヒグラシが秋を叫び
今年の秋刀魚の旨いこと
日本刀のように図太く光り
刺身 塩焼 秋の酒
夜長はほどほどに


絵画

尾崎文彦

1978年生まれ、97年東京都立町田養護学校卒業、クラフト工房ラ・まの入社。2006年クラフト工房ラ・まので、アトリエ活動を始める。

幼児期より文字を書くことが好きで、旅行には、らくがき帳とボールペンが必需品という程でした。当時住んでいたアパートの壁は、尾崎さんが書いた文字で埋められていました。会話ができない尾崎さんにとって、文字を書くことが意志表現だったのかもしれません。

小学校4年生から、造形教室に通い始めました。描き始めるまで時間がかかるのですが、いったん描き始めたら5~6分で完成させ、絵具をふんだんに使った作品が生まれました。

現在、ラ・まののアトリエ活動でも幼児期の文字好きは続いていて、文字や数字を書く時は、何かを確かめるように力強く一画一画を集中して書いています。その力強く存在感のある線で書かれた文字や数字は、絶妙のバランスでリズムがあり、印象に残ります。

独特のバランス感覚は、絵の分野にも発揮されています。どことなくユーモラスな感じのする造形感覚は、描かれた形に生命感を与えます。動物達の顔や姿には、見る者をほっとさせるような表情があります。そして、その迷いのない線は、尾崎さんのまっすぐで素直な心を表しているかのようです。いったん描いてしまった作品に関しては、あまり関心が無いようで、そのようなさっぱりとした制作態度が、作品の潔さに通じているように思います。

尾崎さんのラ・まのでの日常は、アトリエ活動が中心になっています。小さなアトリエですが居心地は良いようで、時間になると軽快な足取りでアトリエに向かいます。制作に取り掛かるまでの時間は、気になっている言葉を繰り返したり、朗らかな様子でニコニコしたり、自分の世界を楽しんでいるようです。でも、いったん制作に集中するとそれまでとはうってかわって真剣な表情になり、独自のこだわりで描いていきます。今後も、尾崎さんのピュアな独特の世界を、作品として少しずつ表現していってほしいと思います。

(まとめ・朝比奈益代〈クラフト工房ラ・まの〉)