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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年10月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

長い夏の休みを学生さんと一緒に
―夏休みの過ごし方の一例・夏期集中作業研修会―

横尾瑩子

長い夏休みをどう過ごす?―アルバイトルームの始まり

学校の先生って自分のクラスがあり、そこには一緒に過ごす人々がいて、その中でちょっと歳の多い私がいる。ちゃんと居場所のある職業です。昭和49年の夏が始まるクラスの保護者会では、保護者の方たちが長い夏休みを子どもがどのように過ごそうか、とても悩んでいました。当時の国立の附属は(今は違います)、一般の学校より夏休みが1週間以上長かったのです。

当時筑波大学附属大塚養護学校の高等部教員をしていた私は、保護者の皆様の前で、「夏休みを有意義に過ごしてください」とお伝えしたところ、「先生は有意義にと言われるが、どこで何をすれば有意義な夏休みなのでしょうか。障害をもった子どもの夏休みの過ごし方は、保護者にとってはとても頭が痛くなる話です」と、大変に大きな問題でした。

そこで私はあることを思いつきました。その当時の養護学校高等部の就労前訓練のための作業班に注射針の組み立てを行う注射針班があり、夏休みになると業者から、「毎年夏休みで仕事が中断するのは、本当は困る」と言われていましたので、「では、6週間のうち4週間は一緒にお仕事をしましょう」ということで、担当クラスの生徒と隣のクラスの先生と生徒で夏休み中に注射針の組み立てをすることを提案しました。本人はもちろん、親も業者もむろん助かるのですから、すごく喜んでくださり、早速「アルバイトルーム」と名付けて知人のガレージを借りて、始めることになりました。

初めは注射針の組み立て作業

まず親の協力で学校からカシメ機と作業机を運びました。当時はまだ注射針を消毒して使う時代でしたので、いろいろな種類の注射針(長い針は動物用で15cm位、一番細くて短いのは1.5cm位)の針元に針を挿し、機械でカシメる作業を行いました。1ダース(12本)の針をケースに入れ、1グロス(144本)にまとめて出荷しました。

針は刺せば痛いので、よそ見することなく生徒たちは皆集中して仕事をしていました。ほとんどの生徒が針を刺さずに安全に作業ができました。主に刺して血を出すのは教員やボランティア、親たちの方でした。

できあがった製品は自家用車に載せ、工場へ運びます。荷運びの際に落とした針がタイヤに刺さってパンクし、高速で立ち往生したり、交差点で荷崩れしてその始末に困ったりしましたが、当時の業者さんはいい工賃を支払ってくれました。工賃収入はみんなで分け合い、記念すべき第1回は、教員等含め22人でしたので、1日500円にもなりました。

その給料を持って社員旅行ということで、アルバイトルーム終了日の夕方から車を連ねて茨城の海岸に行きました。翌朝、引き潮になると砂浜では大きな蛤(はまぐり)がたくさん採れたので皆で蛤のカレーを作り、近くの畑の瓜をもらい、それを食べて旅行を楽しみました。

夏期集中作業研修会として再スタート

それを毎年続け、昭和55年、山鳥実習所を開所してからは、「アルバイトルーム」は「夏期集中作業研修会」に名称を変更しました。夏休みの中高生の夏季休業期間中の作業体験を通して、本人、保護者、学校、関係者の本人支援のための課題発見と能力向上、夏季休業期間中の有効活用の機会提供を目的に、現在に至っています。

注射針は使い捨ての時代になり、注射針の仕事は無くなり、次にボールペンの組み立て作業を始めましたが、今時お金の単位は1円が最小単位ですが、ボールペンの仕事は1本仕上げて何銭でした。その会社の専務さんが「えーと~円20銭ですね」と言って20銭をポケットから出しそうになり、お互い驚き笑ってしまいました。

アルバイトルーム時代の社員旅行は、山鳥実習所になって企業からの受注作業が増えた関係で終了する昭和62年まで引き継がれました。研修会の翌日からバス1台を貸し切り、1泊で海に出かけ、共に汗を流した仲間と、仕事をやり終えた満足感と開放感一杯の旅行に出かけておりました。

研修を支えてきた仲間の広がり

夏期集中作業研修会は、参加者の増大、使い勝手(空調等の整備がされてなく扇風機が大活躍)の関係で、場所を転々としました。お昼には味噌汁を作ってくれた知人のガレージから大塚養護学校、それから筑波大学茗荷谷旧校舎→文京区立明化小プレハブ教室→明化幼稚園体育館、そして再び昨年までの明化小プレハブ教室(体育館から移ってからは、空調が完備され、扇風機とお別れ)と、文京区内で6回の引越をしました。そして、今年度は新築のワークショップやまどりで、33回目の夏期集中作業研修会を行いました。

この33年間はアルバイトルーム時代から現在まで毎年欠かさず開催し、本当に多くの人々に接し、参加者を取り巻くボランティアの方々、ご家族、学校の先生、そして業者の方々とお会いしたことは私の大きな財産です。私はその人々に、ある意味ではもまれながら、向上し、そして若さももらってきました。一人ひとりの個性が上手にかみ合って、社会が生まれているのだということを痛感させられています。

働く意欲、生活意欲、そして友達の輪

夏期集中作業研修会は、長い夏休み期間中に生活のリズムを保ち、有意義な過ごし方になると確信しています。そしてなお、将来の働くこと、生活意欲への意識づけにもなる(給料を最終日に支払う)という大きな目標はありますが、何と言っても一番大きなことはお友達、仲間がいることではないでしょうか。言葉が無くとも、みんな語らいをしていますし、笑顔が見られます。本当にこの研修会を開催して、真からいいなあと思えました。

この研修会は、利用される人々を問わず、障害のある人も、家族も、ボランティアも、みんなでボールペンや電線のコネクタ、マグネットの組み立て、ワッペンの型抜きと、誰でも参加していい場所として提供してきました。今年の参加者は83人でした。知的障害養護学校のみならず、聾学校、病弱の学校、盲学校等、重複障害の生徒も多く参加しています。朝9時から16時45分までの長い時間働くのは、みんな初めてですので、最初は非常に疲れた様子が見えますが、徐々に作業に慣れて、生き生きとしてきます。見学に来られた保護者の方は「こんな姿は見たことがなかった」とびっくりして帰られます。

今まではお弁当持参だったのが、今年からはパン工房が出来たので、Aランチ(ピザとソーセージパン)かBランチ(コロッケパンとコーンパン)で牛乳付きで350円で、ご希望により提供できることになりました。

みんなの笑顔とともに、これからも…

アルバイトルーム時代から変わらないのは給料を差し上げた時のみんなの笑顔です。とてもいい顔を見せてくれます。「この子には縁のないと思っていた給料をもらってきたのを見て感激して神棚に上げました」と保護者の方は涙をためて報告してくれました。

最近は、若いお母様たちが勤めに出られる方が多くなり、夏期集中作業研修会の役割にタイムケア的なニーズが入ってきておりますが、夏休みの過ごし方として有効活用していただければと考えております。自宅で一人ぽつんとしてテレビなどを見ているより、お友達とワッペンを抜いたり組み立てたりしている方がいい。みんなにとっては、楽しいことと思いたいです。

現在の障害者自立支援法では、誰でも「就労すること」が目標となってきていますので、山鳥の会も障害者サービス事業所として、障害のある人の将来がそれぞれ豊かな生活であることを願わずにはいられません。研修会を今後も続けながら、就労参加のためのあらゆる機会に向けて、これからも障害をおもちの方の支援にとって良いと思うことは躊躇することなく、皆で働きかけていきたいと思います。

(よこおけいこ 社会福祉法人山鳥の会理事長)