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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年10月号

列島縦断ネットワーキング【広島】

「障害のある中高生のための大学進学サポートセミナー」の開催

巖淵守

大学進学を成功へと導くために

障害のある中高生にとって、大学進学を成功させるために役立つ準備は受験勉強だけではありません。納得のいく大学・高校選びのために今何ができるのか?広島大学では、社会で活躍する障害のある人を講師として招き、大学進学を目指す中高生に役立つ情報を提供するセミナーを年に一度、これまでの4年間開催してきました。

本稿では、平成19年9月15日に開催された「障害のある中高生のための大学進学サポートセミナー」について紹介します。大学における障害学生支援の現状、受験時に適切な配慮を得るための工夫、自らの能力を高める支援機器、将来の就職についてなど、参加者は、大学進学についてさまざまな視点から考えます。

このセミナーは、文部科学省の「特色ある大学教育支援プログラム」に採択された広島大学の「高等教育のユニバーサルデザイン化」プロジェクトの一環として行われてきました。大学内の障害学生支援体制の拡充に加えて、中学や高校に在籍する障害のある生徒や教員へ情報発信することで、広島大学を含め、社会の中でのより開かれた就学環境の実現へ寄与することを目指してきました。

平成19年度セミナーの概要

(1)私の大学体験~海の向こうから~

講演者の吉田藍香さんは、自らがもつ学習障害(LD)にまつわる経験を基に、進学への困難を解決する方法について話してくれました。日本の高校に在学していた時、LDのために読むことが苦手であったものの、幼い頃から日本とアメリカを行き来していたために言葉(外国語)の問題にされ、努力が足りないと言われ続けた困難な時期や、勉強が非常に嫌いであったことを話してくれました。

しかし、20歳の時に日本とアメリカでLDと診断され、進学したモンタナ大学では、試験時間の延長、テープに録音された教科書の提供などの配慮により状況は一転、卒業時には成績優秀賞を獲得しました。その後、インディアナポリス大学に進学して博士号を取得し、現在は理学療法士としてアメリカで勤務されています。

困難を解決する方法として、

*自らの苦手なこと、得意なことを理解する。

*自分の可能性は自分次第で変わる。

*受け身で待っていてもチャンスはこない。

*サポート団の利用と大学での配慮。

*自分の必要なものを知り、それを訴える。

*他人を教育し、理解を深めてもらう。

*趣味を利用してストレスの発散。

をあげられました。日本でもできることはたくさんあり、失敗してもいい、創造力は失敗から生まれることを語ってくれました。

(2)進学、就職、共遊玩具の開発~自己実現へのアプローチ~

講演者の高橋玲子さんは、自身の日米における学校生活、その後の就職や共遊玩具の開発を含めて、障害のある人や高齢者のニーズに配慮した製品やサービスに関わる国際規格の指針作成の仕事について話されました。全盲である高橋さんは、日本の盲学校に小中と通った後、ご家族の仕事の関係でアメリカの普通高校に進学されました。

英語もまだ苦手で友人がいなかった頃のある日、入部した合唱部の部室にあったピアノをふと弾いたことに部員が驚き、それをきっかけにして彼らとのコミュニケーションが始まりました。この経験から、一つでもいいから得意なことを持ち、それを周りの人に知らせることの大切さを説明されました。

また、ボランティア活動に参加した時に何か役立つ仕事がもらえると待っていると、「あなたは自分には何ができると思う?」と、逆に自らできることを提案することを大人のリーダーから期待されたことに高橋さんは驚きました。自分のしたいことを「します」と言える力、また大人が子どもを信頼することの重要性について語られました。

日本に戻った後の国際基督教大学への進学やその後の就職経験から、自己実現へ向けて、大切な以下の点が紹介されました。

*できること、できないことを自分が知り、それを周りの人に伝えること。この時、家と外では状況が違うことを理解する。

*自分のできることでほかの人を助けてあげる。

*好きなことを持つことで力を得る。自分にとっては歌うこと。同じことを分かち合える仲間も増える。

*無理をし過ぎず楽に生きること。

(3)障害のある高校生のための大学体験プログラム~DO-IT Japanで過ごした5日間~

DO-IT Japanプログラム(http://doit-japan.org)に参加した広島県出身の高校生二人が、プログラムで学んだことについて発表しました。

DO-IT Japanとは、大学進学を希望する障害のある高校生、高卒者向けに東京大学で開催される5日間の大学体験プログラムです。東京大学のほか、広島大学、早稲田大学、日本福祉大学、香川大学、愛媛大学など、複数の大学のスタッフメンバーによって運営されています。

参加対象については、学年、障害の種類や程度、希望大学は問われません。参加者は、大学体験プログラム中、親元を離れてホテルに滞在し、大学に通いながら、講義を受けます。大学での障害学生支援や自らの能力を向上させるテクノロジーについて学び、企業(マイクロソフト社)を訪問し、社会で活躍する障害のある人から話を聞くなどの経験をします。

この大学体験プログラムの後は、インターネットを通じた進学支援も行われます。平成19年度は、全国40人の高校生、高卒者からの応募があり、12人が選考されました。視覚、聴覚、肢体不自由、高次脳機能、アスペルガーなど、参加者の障害は多岐にわたります。

2人の高校生の発表では、学んだこととして以下の点が紹介されました。

*障害学生に対する大学側の配慮の現状。

*受験勉強だけでなく、どのように自分の生活を組み立て、管理するかを考えることの大切さ。

*どのようなサポートが必要かを考え、大学や行政との交渉を恐れないこと。

*同じような境遇の仲間との出会いによる心強い連帯感。

*困難には一人で挑戦するのではなく、他者とのつながりを大切にして、共に協力しながら立ち向かうもの。

*社会的に困難な立場にあるからこそ、状況を変革できること。

DO-IT Japanは来年度以降も引き続き開催され、ぜひこうした機会を利用して、一人でも多くの障害のある人が大学進学に向けた意欲を高めてほしいとの彼らの意見が聞かれました。

協働をベースに

現在のところ、国内の大学における支援体制は不十分であり、残念ながら障害のある若者が自由に大学を選べる環境とは言えないのが実情です。しかし、その中でも、自らの可能性を最大限に見出せるよう目標を明確にし、希望する配慮を本人が周りの人に具体的に伝えていけることで自己実現へのアプローチには違いが生まれると考えます。一方で、大学側も評価方法の改善や支援テクノロジーの活用など、柔軟な対応へ向けた整備を進めることが必要です。障害のある若者たちと大学が協働することで、多様性に対して開かれた教育環境が実現されると期待しています。

(いわぶちまもる 広島大学准教授)