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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年10月号

報告

「国際障害者支援シンポジウム」を開催して

奥平真砂子

■はじめに

9月15日(土)、当協会では財団法人広げよう愛の輪運動基金(以下、愛の輪財団)との共催で、標記シンポジウムを開催した。ここで、その開催理由とシンポジムの内容、成果などについて報告する。

昨年12月の第61回国連総会において「障害者権利条約」が採択されたこともあってか、「国際協力」の分野において「障害」の問題が少しずつ取り上げられるようになってきた。しかし、専門家主導で行われていることが多く、障害者自身の力を引き出すようなアプローチで実施されていることは稀で、障害者自身が主導的に関わって支援することはまだ少ない。

一方で、日本の障害者自立生活センター(以下、ILセンター)の中には、人材育成で功を奏している「ダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業」(以下、ダスキン研修)の研修生を帰国後もフォロー支援することで、「国際協力」を行っているところがある。それは、アジア・太平洋地域の途上国に障害者運動の風を巻き起こし、それが自発的な「国際協力」につながり大きな成果を上げている。

しかし、ダスキン研修の卒業生は2007年7月現在で21の国と地域から61人を数え、もちろんこれからも増えていくが、継続的に支援するにはILセンターだけでは限界がある。継続可能な支援とするには、やはり、国際援助機関との連携が必要である。

そこで、日本で研修を受け自国で障害者支援をしているダスキンの帰国研修生と、その研修生の「自分たちの国を変えたい」との強い意志を見込んで、帰国後も支援している日本のILセンターの障害者、すなわち「障害」の専門家たち、そして「国際協力」の専門家である国際・民間援助団体、この三者が一堂に会し、人材育成の効果と各援助機関の連携の必要性を明らかにしたいとの考えから、標記シンポジウムを計画・開催した。

■午前の部

今回のシンポジウムのメインスピーカーは、ダスキン研修の卒業生で、帰国後も日本のILセンターなどの支援を受け活動している2人、パキスタンのシャフィクさん(第3期生)とネパールのクリシュナさん(第6期生)にお願いした。両名とも自国でILセンターを設立し、障害者の草の根運動を展開して、その中で仲間を増やし、大きく活動の輪を広げている。特に、シャフィクさんは、国際協力機構(以下、JICA)や世界銀行などの国際援助機関とも連携して活動していることもあり、連携の好事例として要因を探ることができればよいと考えた。まずは、愛の輪財団の事務局長である谷合文広氏の挨拶に続き、パキスタン大使館とネパール大使館から祝辞をいただき、盛会なうちに始まった。

はじめに、クリシュナさんが日本での研修や経験、成果について話した。彼は帰国後、障害者運動を広く展開するために、地元を離れネパールの首都カトマンズに移住して仲間作りをはじめ、日本のILセンターの一つであるメインストリーム協会(以下、メイン)の協力でセミナーを開催し、1年かけてネパールで第1号となるカトマンズILセンターを設立したという活動の軌跡を報告した。

パキスタンのシャフィクさんは、日本の研修で自分自身が変化したことや帰国後に苦労して南アジア最初のILセンターを立ち上げ、そしてセミナーを開き、地元の障害者にインパクトを与えたと話した。さらに、活動の転機となった、2005年10月8日のパキスタン北部地震の緊急支援活動についても報告した。シャフィクさんは代表を務めるマイルストーン障害者協会の仲間とともに、地震発生から2日後に被災地入りし、被災者と被災した障害者を助ける活動を開始した。その活動が認められ、2007年1月より世界銀行パキスタン事務所が管轄する被災者支援の一環である日本社会開発基金を受託し、被災地における障害者支援を熱心に進めている様子も報告してくれた。

午前の部の司会は、世界の障害者運動の動向に精通されている、アジア・ディスアビリティ・インスティテート代表の中西由起子さんにお願いした。中西さんはダスキン研修生時代から彼らのことをよくご存知で、帰国後の彼らに適切にアドバイスをしていただいていることもあり、まだ経験の浅い彼らのスピーチをうまくまとめてくださった。

シャフィクさんもクリシュナさんも日本では主にILセンターで研修を積み、その理念や存在意義などにインパクトを受け、それを持ち帰り自国で実践している。創世期特有の勢いもあると思うが、両名とも口をそろえて、「今、活動が面白い」と言っていた。

■午後の部

午後はテーマを「途上国の障害分野における人材育成の必要性と効果、及び援助機関のかかわり方」として午前の2人に加え、国際援助機関や研修受入先、そして研修の主催団体からゲストを迎え、パネルディスカッションを行った。パネリストは、JICAの池田直人さん、日本財団の石井靖乃さん、世界銀行の大森功一さん、そしてメインの廉田俊二さんと愛の輪財団の駒井輝雄さんの5人である。また琉球大学の高嶺豊さんにコーディネーターを務めていただいた。

まず、世界銀行とJICA、日本財団、それぞれの国際・民間援助団体が支援している障害者支援について報告があった。大森さんは世界銀行のメカニズムとシャフィクさんの団体が受託している日本社会開発基金について分かりやすく話された。また、日本財団の石井さんは、民間の援助団体ならではの支援事例を説明された。JICAの池田さんはパキスタンの途上国支援について話された。後半に、時間が足りず十分なディスカッションができなかったのが残念である。

興味深かったのは廉田さんの話である。メインでは研修する際に最も重要視することは、障害者運動に対する「志」の有無であるという。受け入れた研修生が強い志を持ち意欲を見せると、メインでは帰国後の支援を考える。帰国後、彼らが本気で活動を始めることを確認すると、仲間作りを目的としたセミナーや研修会の開催を提案する。そして、運営を現地の帰国研修生に任せることで彼らは自信を付けていく。また、日本から重度障害者が現地のセミナーに参加し、現地の障害者をエンパワーするという図式に聴衆は皆、感心しつつ興味深そうに聞いていた。

最後に中西由起子さんが、「支援者の生の声を聞くことは貴重で、このような機会が大切である」「彼らの活動がうまく進んでいるのは、彼らの活動と援助機関の連携があってのこと」「開発の分野で障害を取り込んでいることは大切である」とまとめてくださった。

■おわりに

今回のシンポジウムには関係者を含め、190人以上の参加があった。その内訳は、障害者はもちろん、国際協力の仕事に携わる人、「障害」や「開発」を学ぶ学生や若い研究者、そして企業関係者など幅広い顔ぶれであった。また、障害者もILセンターだけでなく、これまでつながりのなかった新しい団体からの参加も多く、新たな関係作りの意味でも意義があった。

パキスタンとネパールという草の根運動が根付きにくいと言われている国々で、強い意志を持って活動を続けているシャフィクさんとクリシュナさんの報告を聞き、その成果や勢いに驚いた人も多いことだろう。彼らは、日本の障害者リーダーから研修を受けエンパワーされ、研修の目的どおりに自国でリーダーとして活躍している。その彼らに対する“ピア”の立場からの支援が、彼らの強い意志や勢いにつながっているのではないだろうか。

日本の障害者支援がそうであったように、「国際協力」における途上国の障害者支援にも「当事者主導」のアプローチを取り入れていくことが、より効果的な支援となるだろう。国際・民間援助団体や国際協力に携わる人々と障害関係NGOや研修生が、情報を共有し協力していくことで、途上国の障害者支援はさらに広がりを見せるだろう。

(おくひらまさこ 日本障害者リハビリテーション協会研修課)