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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年11月号

報告

第30回総合リハビリテーション研究大会開催報告

井上剛伸

平成19年10月19日・20日と日本青年館国際ホールにおいて、山内繁早稲田大学特任教授を実行委員長として、第30回総合リハビリテーション研究大会を開催いたしました。今回は30回の記念大会でもあり、「総合リハビリテーションの30年とこれからの展望」というテーマで、本大会の30年を振り返るとともに、次世代のリハビリテーションに向けた指針を議論する場となりました。

プログラムは以下の通りです。

[1日目]
基調講演
上田敏(日本社会事業大学客員教授)
「日本のリハビリテーション」
―この30年をふりかえり、今後の方向を考える―
記念講演
フェデリコ・モンテーロ(前WHO障害とリハビリテーション部部長)
「リハビリテーションの世界的発展:新しいパラダイム」
シンポジウム
「次世代のリハビリテーションへ向けて」
コーディネーター
寺山久美子(帝京平成大学教授)
シンポジスト
上田敏(日本社会事業大学客員教授)
フェデリコ・モンテーロ(前WHO)
藤井克徳(日本障害者協議会常務理事)
松井亮輔(法政大学教授)
松矢勝宏(目白大学教授)
[2日目]
リレー討論
テーマ:最先端の取り組みを繋ぐ
(1)総合リハビリテーションの実現にICFをどう活かすか?
―「生きることの全体像」についての「共通言語」―
大川弥生(国立長寿医療センター研究所生活機能賦活研究部長)
(2)障害者権利条約、わが国の課題―権利条約を障害者権利確立のテコに―
尾上浩二(DPI日本会議事務局長)
(3)ユニバーサルデザインをアクセシブルデザインで
星川安之(共用品推進機構専務理事)
(4)障害のある方の就労を支えるために―関係機関の連携―
崎濱秀政(ティーダ&チムチム所長)
(5)特別支援教育の可能性と課題
―国際的標準としてのインクルーシブ教育とわが国の方向性―
岡典子(東京学芸大学准教授)
(6)当事者の視点から―リハビリテーションからコミュニケーションへ―
伊藤知之(浦河べてるの家)
総括
伊藤利之(横浜市リハビリテーション事業団顧問)
寺島彰(浦和大学教授)
山内繁(早稲田大学特任教授)

基調講演では、上田敏氏が日本のリハビリテーションの歩みについて、その時々の国内外の社会情勢に基づいた解説をいただき、包括的なリハビリテーションを改めて理解し直すことができました。また、ICFに基づいた新しいリハビリテーションの考え方のお話から、今後の指針をお示しいただきました。さらに、教育分野、医療分野、職業リハ分野、社会リハ分野のそれぞれの流れに関するお話もあり、本大会の視点を明確に示していただきました。最後に示された21世紀の総合リハビリテーションの姿として、自己決定を自己決定権の尊重と自己決定能力の支援に対して、リハ工学、介護、自立生活運動なども含めた広範囲な取り組みは今後に大変参考になるものと感じました。

記念講演では、モンテーロ氏(コスタリカ)にリハビリテーションの定義に関する国際的な議論に関して解説をいただきました。この中で、リハビリテーションは、予防、治療、維持とあわせて、健康の四つの要素を構成するものの一つとしての位置づけが示されました。また、健康は万民の権利であるとの認識も改めて気付かされる点でありました。一方、国際的なリハビリテーションの問題には、貧困やリハビリテーションサービスが受けられないという現状があり、それも含めたCBRの重要性を強調され、医療から社会構築までを地域で行うことの重要性を理解することができました。最後に話された問題解決のためのパラダイムシフトの必要性が印象に残りました。

シンポジウムでは、まずこの30年、リハビリテーションの各分野のリーダーとして活躍された専門家からのご発表がありました。当事者運動、教育、職業リハビリテーション等、各分野の専門性が大きく進展し、円熟期に入っているという印象を持ちました。また、30年前にこの総合リハビリテーション研究大会を立ち上げた時代の、関係者のとても熱いリハビリテーションに対する思いと情熱を感じることができたように思います。

ディスカッションでは、少し新しい分野であるリハビリテーション工学や建築、リハビリテーション看護・介護の分野についてもフロアからの発言があり、リハビリテーションの範囲の広さとそれぞれの分野の進歩について、改めて理解と関心を深めた次第です。特に工学分野では、ロボットや情報技術など進歩の著しい技術をうまく活かして、リハビリテーションに役立てる努力が必要であり、今後の進め方にいろいろな工夫が必要と感じました。

また、モンテーロ氏から、リハビリテーションにおける福祉機器の重要性に関する指摘と、WHOでもいろいろな取り組みが行われていることが紹介されました。リハ工学に携わる筆者としては、襟を正して、しっかりやらねばとの思いに至りました。医学の分野に関する発言もあり、再生医療や遺伝子治療などで障害を直す研究が行われており、今後の発展に期待がもてます。

2日目のリレー討論では、6つの分野の最先端の取り組みについての発表があり、これからの30年を予見させてくれる盛りだくさんの内容でした。全体を通して、当事者を中心としたインクルーシブな社会を構築するために、それぞれの分野が同じ方向を向いてきているという印象を受けました。なかでも、尾上氏の発表は迫力があり、ご自身の体験を基に、権利条約の意義と重要性を分かりやすく解説していただき、当事者抜きにリハビリテーションを語ることはできないことを改めて痛感しました。また、浦河べてるの家の伊藤氏の発表も印象深く、精神障害の当事者が自らを理解し、自らの決定により、地域での生き生きとした生活を実践している様子を生々しく感じることができました。

今大会の総括として、地域に根ざしたリハビリテーションの構築が重要である点、それには、医学的リハ、教育、職業リハ、社会リハが総合的に実践される必要があり、これまでのシリアルな関係から、パラレルな関係を構築することの必要性が指摘されました。そのために、リハビリテーションの各専門分野に加え、工学や介護などの関連する各分野、そして何より当事者の連携が重要であると思います。

筆者としては、内容も充実し、大変ためになり、何よりおもしろい研究大会であったと感じました。ただ一つ気がかりなことは、参加者が約150人と思ったより多くないことです。その要因は、シンポジウムの中で寺山氏が発言されていた“リハビリテーションの専門性と総合性”という言葉にあるように思います。私なりの解釈ですが、30年前この大会を始められた諸先輩方の意識は、新しい分野を構築するために、どの分野の方々も熱い情熱と問題意識をもたれていた。そして、各分野が総合的に議論する中で、それぞれの専門性が確立され、各分野は大きく発展した。その経緯の中で、総合性の意義が薄らいだのではないでしょうか。

今、まさにリハビリテーションの真の総合性を議論する時期にきているような気がします。総合的にリハビリテーションをコーディネートする新たな専門職を構築することも一つの方法でしょうし、専門分野の真の連携のために新たなパラダイムを構築することも必要かもしれません。または、当事者を核心として当事者に総合性を委ねることも可能かもしれません。いずれにしても、専門性と総合性の議論をしっかり詰めることが重要と感じました。

(いのうえたけのぶ 国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所)