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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年12月号

東京都における精神障害者退院促進支援事業

熊谷直樹

1 東京都における社会的入院者の現状と対策

東京都では、2004年6月の時点で、精神科入院者は約2万3千人(人口万対18.3人)、精神病床数は約2万5600(同20.4)であり、人口比では全国値(入院者:同25.5人、病床数:同27.7)より少ないが、絶対数では都道府県の中で最も多い。東京都地方精神保健福祉審議会(都地精審)提言(2003年)では、社会的入院者が約5000人とされた。2011年度までに2500人、2015度までに5000人の退院の実現を目標としている。都内では精神病床が偏在し、病院所在地と住所が異なる患者が少なくない。

2 国の退院促進支援モデル事業から都退院促進支援事業(4事業)の本格施行へ

2004年度からの国の精神障害者退院促進支援(以下、退院促進支援)モデル事業を都は受け、まず多摩小平保健所を拠点に行い、次いで地域生活支援センター(以下、支援センター)サポートセンターきぬた(世田谷区)、社会福祉法人巣立ち会(調布市)に委託して実施した。モデル事業では地域退院促進連絡会と地域生活ケア会議を設置し、コーディネーターと地域生活サポーターを配置した。地域退院促進連絡会では事業の報告や病院等の関係機関の調整を、地域生活ケア会議では対象者の決定、個別のケアプランの作成や評価、修正、支援終了の決定を行った。コーディネーターが病院と調整して患者の状況を把握し、ケアプランに基づきコーディネーターと地域生活サポーターを中心に関係者が連携して退院と地域生活継続に関し支援した。支援期間は一事例概ね6か月とした。その結果、56人に支援を行い、2005年度末で退院者は23人、支援継続が32人、支援中断は1人であった。そして、コーディネーターによる支援の有効性とともに、訪問看護等の円滑な導入や体験入居、病状悪化防止のための休息の機能が望まれることが明らかになった1)

障害者自立支援法施行の2006年度から、都退院促進支援事業が本格実施となった2)。モデル事業での教訓を受けて、1.退院促進コーディネート事業(コーディネーターによる関係機関調整、コーディネーター・地域生活サポーターを中心とした個別支援)、2.グループホーム活用型ショートステイ事業(グループホームを活用した、入院中からの体験入居・退院後の病状悪化防止のための休息入居)、3.精神科訪問看護推進事業(入院中から訪問看護事業所看護師がカンファレンスや本人面接に参加、退院後の訪問での病院職員の同行による実践的な指導)、4.地域生活移行支援会議(事業の評価・検討と地域連携のための広域調整)の4事業からなるものである(図)。1について、2006年度は巣立ち会、支援センタープラッツ(国分寺市)、支援センターきらら(練馬区)に委託され、2007年度には支援センターなびぃ(国立市)、支援センターあくせす(八王子市)、社会福祉法人JHC板橋会(板橋区)が加わった。括弧内は事業所所在地だが、コーディネーターの活動地域は所在地内に限定されない。都地精審最終答申(2006年)で「退院促進支援をいわゆる社会的入院を解消するための取り組みにとどめず、『将来にわたってその発生を予防する仕組みづくり』」と位置づけたほか、都障害者地域生活支援・就労促進3ヵ年プラン(2006~2008年度)でグループホームを1620人分(知的障害者含む)増やすものとし、退院促進支援事業を後押しするものとなっている。

図 東京都精神障害者退院促進支援事業と関係機関(イメージ)拡大図・テキスト

また、保健所や精神保健福祉センターは技術援助や研修等の役割を担っている。区市町村は各障害福祉計画において退院目標を設定し資源整備に取り組むほか、独自に退院支援のコーディネートに取り組んでいるところもある。

3 今後の課題

本格実施から2年目であるが、以下の4点が特に課題と筆者は考える。第一にコーディネート事業を行う事業所を増やし全都をカバーするようにすること。第二に病院の偏在(例:多摩地域は人口は都の約3分の1だが精神病床の3分の2近くが存在)のため入院先と住所地が異なる事例が多く、支援の連続性を保つために広域調整を実効あるものにすること。第三に、グループホーム等の居住の場や訪問看護等の訪問型支援とともに日中活動の場の拡充や病院のある自治体に過度の負担にならない配慮のある資源整備。第四に、病状悪化に際して入院を含め適切な医療をタイミングよく受けられる体制の整備のため、病院には退院の推進だけでなく急性期医療機能の強化が望まれることである。

(くまがいなおき 東京都立多摩総合精神保健福祉センター医師)

【参考文献】

1)東京都福祉保健局障害者施策推進部精神保健福祉課:平成16年度・平成17年度東京都精神障害者退院促進モデル事業の報告.2006.

2)日本精神保健福祉士協会:精神障害者の退院促進支援の手引き.