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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年12月号

知的障害者の地域生活と自立支援法

松井美弥子

障害者自立支援法で示された「地域移行」という言葉には、個人的には、違和感を覚えた。各人の状況に合った形で生活の場が選べるようになることが一番大切なことだと思う。我々親を含め、周りの関係者は、何かあると、別な場所で見えないところで生活させることを強いてきたことを振り返るべきではないだろうか。

1 宝塚市育成会の取り組み

私の地元である宝塚市育成会では、昭和56年から、親亡き後ではなく、親が元気で子どもたちを応援できる間に、その人なりの自立した生活ができるようにさせたいと考え、補助金制度も無い中で取り組みをはじめた。その思いは、役員が交代してもしっかりと引き継がれ、障害の軽い重いに関係なく、住み慣れた地域で生きる生活を目指して取り組んできた。

現在では、支援度の高い人たちも、訓練ホームでの生活体験を重ねる中で、それぞれの相性を見極め、4人の共同生活者の相性を見極めて、家庭から自立して、グループホームでの生活をスタートさせている。

平成元年にグループホーム制度が発足した年に、兵庫県単独事業の生活ホーム制度ができた。その2年後には兵庫県単独の訓練ホーム制度が創設され、障害の重い人も家庭から自立して各人に合わせた支援を受けながら、地域生活を実現させる大きな役割を果たしている。また、宝塚市からは家賃補助と民間からの指定寄付があったことも大きな後押しとなっている(しかし、この家賃補助は平成19年度で打ち切りとなった)。

息子は34歳になるが、現在ケアホームで生活しながら、通所更生施設に通っている。ここに至るまでには、育成会運営の訓練ホームで5年半掛けて、まず月1泊の宿泊体験からはじめ、徐々に宿泊日数を増やす形をとっていった。さらに、ホームで生活していくメンバー4人の相性の見極めを2年間かけて行い、28歳のとき晴れてグループホームへステップアップできた。しかし、行動障害も併せ持っていたので、親としては心の休まる日は少なかったが、4人のメンバーの相性が良かったことと、通所施設とグループホームという2つの側面から職員の方の見守りと支援を受けられたことは、大きな安心でもあった。

支援度の高い人がいるホームには、夕方は調理も兼ねた加配職員を配置している。育成会運営のグループホームは、平成18年度の障害者自立支援法スタート時には、12か所になっていたが、利用者50人の障害程度区分の平均区分は、3.6であり、当然12か所とも、ケアホームに移行した。

2 自立支援法の下での地域生活は

現在の障害者自立支援法の下では、低い単価設定と生活の場にも日割り計算が導入され、知的障害のある人の生活支援は軽んじられているような気がする。質の高い職員や加配職員の配置ができない運営費では、利用する側は、安心してホーム利用ができなくなることを危惧している。

また、利用者の定率負担の発生は、障害基礎年金と少ない授産工賃等だけが収入源である障害の重い人たちには、大きな負担となっている。ホーム利用料等が障害基礎年金を上回り、就労している人以外は、年老いた親が仕送りしてやっと地域生活が成り立つ状況である。これでは、今後の地域移行は進まないであろう。緊急の支援策が必要である。

3 地域生活の促進を図るには

兵庫県では、障害者自立支援法施行後の激変緩和策の中で、グループホーム(ケアホーム)の家賃の半額補助(上限2万円、低所得1・2)が実施されている。家賃補助は画期的であった。これが短期ではなく、平成20年度以降も継続されることを希望したい。

定率負担についても、所得に応じての見直しはされたが、特に障害が重く支援度の高い人たちの負担が大きいことには変わりはない。

また、平成17年度よりホームの開設整備費助成として、1ホームあたり100万円までの助成があるが、ホーム開設への助成と家賃補助、そして障害基礎年金にプラスの障害者手当の新設も希望したい。

さらに、障害のある各人の生涯を通した自立支援計画がきちんと立てられるシステムづくりが急がれる。地域生活支援センター等での相談支援体制の強化、一般就労している人たちへのサポート体制の強化、細切れの支援計画ではなく生涯を見通した一本化した支援計画が必要である。

また親の高齢化も進んでいる中で、人権擁護の観点からも成年後見制度の活用が必要になってきたが、育成会としても、専門家や家族以外の一般市民の方が成年後見人となって、ハンディのある人たちを自然と支援できるシステムができないかと模索している。成年後見支援センターを各地に設立し、個人対個人の支援をしていく成年後見人が、孤立しないで公正な後見活動ができるシステムづくりが必要である。

(まついみやこ 財団法人兵庫県手をつなぐ育成会理事長)