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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年12月号

座談会
地域生活移行と自立支援法
~社会的入所・社会的入院の問題の解消に向けて~

有村律子
(全国精神障害者団体連合会常務理事)

大久保常明
(全日本手をつなぐ育成会常務理事)

大塚淳子
(日本精神保健福祉士協会常務理事)

二見清一
(足立区福祉部障害福祉課)

森祐司
(日本身体障害者団体連合会常務理事、本誌編集委員)

司会:藤井克徳
(日本障害者協議会常務理事、本誌編集委員)

藤井 地域生活移行は前々からのテーマですが、なかなか困難な状況にあり、障害者自立支援法でも重要なテーマの1つになっています。

今日は、おおまかに3つのねらいでお話いただきます。1つ目は知的障害者の社会的入所、精神障害者の社会的入院の現状をどう見るか、その原因、背景がどこにあるのか。2つ目はこれがメインになりますが、現状からの打開策、解決策をどう考えるべきか、障害者自立支援法(以下、自立支援法)との関係を含めてお話いただきます。そして、3つ目は民間団体として、自治体として何ができるのか、この点にも言及していただければと思います。

7万人余の地域移行に黄信号

藤井 精神障害分野の社会的入院問題が言われて久しいですが、こうした実態をどう見ているか、大塚さんから口火を切ってください。

大塚 精神障害者の社会的入院の解消は、精神保健福祉士にとっても大きな悲願です。平成23年までの10年間に約7万人の地域移行を目標に政策が動き出しましたが、あと5年です。9月18日の「障害保健福祉関係主管課長会議」において、厚生労働省が発表した「障害福祉計画に係る数値目標等の全国集計結果」によると、「現在の退院可能精神障害者」数は全国で4万9千人、そのうち23年度末までの減少目標値の累計を3万7千人としています。

この数値の妥当性が重要だと思います。圏域内の各病院を中心にきちんと実態調査をしたところと、いわゆる人口割で数値目標を設定したところに分かれているようです。人口割での数値目標は、必ずしも実態と合っていないだろうと推測できます。また実態調査では、どんな方が退院可能かの医師への聞き取りが多いのですが、基準に幅があり、かなり幅のある数字が出てきているようです。それらを考えますと、政策目標に合わせるべく、誘導的なものが上がってきていないかと心配です。

厚生労働省の受け皿が整えば退院可能な者という表現に対し、自立支援法における都道府県の地域生活支援事業としての退院促進支援事業は、直接的に受け皿を整備する政策ではありません。各都道府県内、もしくは小圏域で退院促進を進めるためのネットワーク作り、体制整備を図っていく政策です。

ネットワークを作っていく中で、地域の支援体制が整い、結果として創出される資源はあると思いますが、安定した地域生活を続けることが伴わないと地域移行は成り立ちませんので、今の政策だけでは不足であると思います。

敷地内施設は限りなく病院と一緒

藤井 おびただしい数の仲間たちが退院できる状況にありながら、退院できないという状況をどのように思われますか。

有村 厚生労働省と交渉をしましたとき、全精連としては「退院促進事業で病院敷地内施設を建てることは絶対反対です」と言いました。退院促進モデル事業では、平成15年度で72人、16年度で149人、17年度で258人が退院しています。

「この数字で、平成23年度までに7万2千人が退院できるとお考えですか」と聞きますと、「この事業のみで7万2千人の退院を想定しているのではなく、他の医療計画、医療報酬の改定などを合わせて促進を考えている」という答えがありました。

「たとえば、どのような計画ですか」と聞くと、「退院率の目標を設定し、診療報酬は急性期に手厚くして適切な医療を行い、早期に退院できるようにと考えている」と。「診療報酬を上げることはしないのですか」の質問には、「現状では全般に上げることはできない。新しく入院された患者が急性期に適切な医療を受け、早期に退院できるようにしたい」との答えでした。

また、「3か月を退院の目標としているのか」という問いには、「診療報酬の点数の変更が3か月で設定されているので、その時期になるべく退院できるようにしています」とのことでした。

グループホームでは、居室1人につき1部屋8平方メートルですが、病院敷地内の施設では4人1部屋で、定員60人になっています。「これでは病室と変わらないのではないか。私たちは地域で普通に暮らしたい」という意見に明確な回答はありませんでした。すでに全国で2か所、病院敷地内に施設が建っていますが、私たちは反対しています。

あまりに不十分な地域生活支援体制

大久保 知的障害福祉は、国の施策として入所施設を中心に進めてきて、その象徴が終生保護のコロニーです。知的障害のある方々は、知的障害のみなさんの社会を作ってください。その中で幸せに暮らしてくださいという考え方でした。地域生活移行の考え方の背景は、ノーマライゼーションの思想が大きく影響しています。つまり、地域生活移行、地域の中で普通に暮らす権利があるということです。

ただ、約12万人が入所施設を利用しています。自立支援法と一緒に国が示した数値目標では平成23年度までに7%ぐらいの入所者を地域に出していくということですが、考えなければならないのは、地域生活移行はグループホームをつくったからよしとはならない。問題はどこでどういう暮らしができるのか、いつまで継続できるのか。知的障害の方が高齢になっていくことも含めた支援体制は不十分だと思います。

地域生活で重要なのは相談支援体制ですが、中心にすべきケアマネジメントはわが国では明確に位置づけられていません。地域生活支援体制はハードもソフトも不足しているのが現状だと思います。

私どもの団体では、成年後見制度や権利擁護について積極的に取り組んでいます。地域生活を進めていく上でそれらの仕組みは重要ですから、条件を整えていく。また子育て支援というか、最初の段階で家族の方が孤立しないようにお互いに協力しあっていくことにも取り組んでいます。

施策は具体的でなければ

藤井 森さんは身体障害分野を代表する団体のリーダーでもあり、日本障害フォーラム(JDF)の政策委員長でもありますが、この社会的入所問題、社会的入院問題をどうみておられますか。

 国の障害者サービス展開の数値ビジョンがありますが、一番の欠陥はハードもソフトも具体性がないことです。具体的な計画を示さなければ、施策は進みません。入所患者の意見を無視していくら物をつくっても、人間尊重にはならないと思います。障害者施策の基本は、対象者の意見を聞くことだと思います。

三障害の窓口が別々だったのが一本になり、措置から契約になり、博愛、保護から権利義務の施策にと変わってきています。世帯単位から個人単位へと主張していますが、障害者サービスは、障害別のサービスから日中活動や夜間活動などの機能別のサービスに分けたらどうかと考えています。

施設は、24時間完結型です。その中に夜間的なもの、住む場所とか日中活動がある。施設から在宅へという意味は、地域に暮らせる24時間のシステムをつくりなさい、共生社会にしましょうという話だと思います。

厚労省の人たちが、33の施設・事業を6つに整理しましたと言いましたが、ふたを開けたら、地域移行型ホーム対象支援施設という、新しい施設になったという感じを受けています。自立支援法には精神障害者が入りましたが、三障害の全体のレベルを合わせていかなければならないと思います。

入所型の施設の全面否定は疑問

藤井 同じく、地方自治体の立場からいかがでしょうか。

二見 みなさんと視点が違うかと思いますが、市町村の立場、特に都市部では入所施設は必要だろうと思っています。中でも知的障害の入所施設は、社会資源として確固たる位置を持っていると思います。施設は生活の場ではないという評価が強いのですが、それは運営や規模、地域偏在などの問題だと思います。

足立区では400人以上の知的障害者が区外の入所施設を利用していますが、身近に施設があることが重要だと思います。特別養護老人ホームは身近にたくさんあり、お年寄りは在宅での生活が困難になると、待機時間はありますが地域の特養に入ります。知的障害者の施設は都内で数えるほどです。また施設はその中で1日が完結していて、地域との交流が薄いと言われますが、自宅と通所施設との往復だけで地域との交流ができているかと言えるのか。本当の地域生活支援は入所施設から出ればいいという問題ではないと思います。

身体障害の方は、途中で病気になったりして、病院にいざるを得ない人がたくさんいます。こういう方たちを受け入れるのは、国の施策では療護施設ですが、医療的なケアは十分ではありません。自立支援法の療養介護は、医療機関が医療機関の中で行うことしか認められていません。夜は入院という医療に乗っかった制度では、圧倒的な施設不足は今後も解消されないだろうと思います。

知的障害のようにグループホームの制度があれば、地域で生活できる人はたくさんいると思いますが、身障のグループホームは制度化されていません。この辺は意見の分かれるところかと思いますが、身体障害者の地域移行は、対象から外れている人がたくさんいるという印象です。

精神障害者の方の退院促進は実態が把握できていません。手帳を持たない知的障害者も把握するすべがなく、計画はどんぶりで組み立てざるを得ません。国の施策は、ハードはそれぞれの市町村が障害福祉計画の中で組み立てなさい、退院促進の仕掛けは考えますよという仕組みなので、とにかく出せばいいという印象が強いですね。うまくいかなかったら、また戻る。回転するだけではという印象は受けます。

また退院促進は、生活保護の問題と直結しています。生活を支えていくには、生活保護以外のすべがないんです。厚労省の生活保護の部局からは、退院促進にあわせて、就労で自立を促していくプログラムを考えるよう通知がきています。

その一方で保護費の国庫負担率の引き下げをちらつかされると、市町村としては本気で取り組んでいいのか非常に不安になります。国が片方でアクセルを踏みながら、片方でブレーキを踏んでいるのが、精神障害者の退院促進が抱える大きな問題だと思います。

社会的入院は人権侵害

藤井 社会的入院問題の背景の一つに、医療機関が退院させたがらないという見方がありますが、この辺はどう考えますか。

大塚 本来は、退院促進と病床削減の施策は、別ものであると思います。退院が進めば、病床の稼働率の減少から病床削減につながり、経営の危機につながります。病院が生き残れなくなるということから、退院にストップをかけたくなるのは当然の論理だと思います。

私も二見さんと同じで、病院が全部なくなればいいとは思っていません。良質かつ、適正な医療を提供できる精神科はまだ不足していますから、医療に関する適正な施策は、退院促進と別のものとして医療法や診療報酬の中であってしかるべきだと思います。

良心的な病院は、病気がよくなって外来でやれるとなれば、退院していただいています。一方で、病状や支援体制基盤が難しくてなかなか退院できない方が出てきます。経営上良質の病院であるためには、長期在院者を診療報酬の低さから出さざるを得ない。必要悪としての後方病院が存在しているのだと言えます。

一番の問題は、後方病院はどこからか新しい患者が来ない限り、入院患者を出しません。この構造は自立支援法では解決できない。新しい政策を厚労省できちんとお考えいただきたいし、病院関係者にもアイデアを出していただきたいと思っています。

精神障害者の退院促進が本格的に動き出したのは、病院不祥事を受けた大阪府の取り組みからだと思います。大阪府の精神保健福祉審議会が答申の中で「社会的入院は人権侵害である」と明文化したのはたいへん大きな意味があると思っています。それが、退院促進支援の理念的な柱になっていると思います。

また、病気が治ったら退院するものだという当たり前の話が、精神障害者の地域生活の姿と合わせて、少しずつ外の人たちに理解してもらえるようになってきたことが追い風だと思います。

藤井 いわゆる病院敷地内退院施設を推進しようとする立場にある人々の中には、「病室にずっと入っているよりはましでは」という考え方がありますが、この点についてはどう思われますか。

有村 4人1部屋でしたら、病室と変わらないのではないかと当事者は思います。病院敷地内だと、具合が悪かったらすぐ入院させるとか、病院は本当に退院させたい気持ちがあるのかどうか。厚生労働省は7万2千人を退院させると言っていますが、本当はどうなのかと当事者は思っています。

本当に退院させる気持ちがあったら、道路一本隔てた病院の敷地外に、1人1部屋ずつのグループホームを建てるとかするのが当たり前ではないかと思います。

入所施設ではノーマライゼーションは難しい

藤井 成人期にある知的障害者は約45万人とされていますが、この中の12万人前後が入所施設で生活しているわけですね。こうした現象の背景には、退所した場合の家族負担の問題、つまり家族間扶養というわが国の家族制度の影響が少なくないのではという指摘がありますが。

大久保 扶養義務制度もあると思いますが、文化的背景と、薄れたかもしれませんが儒教的な考えなどがあるかもしれません。入所施設はいまだに親御さんには安心、安全な場で、利用する方より家族が好む傾向があります。

二見さんからいい問題提起をしていただきました。確かに、諸外国ではグループホームが施設に近いような規模がみられます。ここで気をつけなければいけないのは、地域生活の経験や情報がない中で、入所施設から出たいとはならないことです。実際に地域生活を経験し、情報を提供した場合は、グループホームで生活したいという利用者の方がいると思います。

それはなぜか、本質的な議論をしていかないといけない。特に東京の場合はずっと都外に入所施設を作ってきました。遠くにある入所施設から近くの入所施設に戻してきましたが、まだ足りないということかもしれません。基本的なノーマライゼーションの考え方は、私たち普通の人たちの暮らし方や暮らす環境にできるだけ近づけていこうとすることです。

それは、入所施設という環境条件の中で可能だろうか。かなり厳しい面がある。24時間の限られた空間の中での生活です。自立支援法が昼と夜を分けたのは評価できます。それまでは分かれていませんでした。それはノーマルではなく、暮らし方や暮らす環境としては望ましくないことだと思います。これからは、今ある施設という社会資源をどう活用、改善していくかという議論になっていくかと思います。

藤井 条件付きながら入所型の施設が必要ではという二見さんのご意見でしたが、これはこれで大きな問題提起だと思います。この点について森さんはいかがですか。

 私もある面においては、入所施設は大賛成です。入所施設が完結主義だからいけないんです。入所施設には、リハビリ、就労、日中活動、住む場所、食べる、入浴、介助などの機能がある。それを中の人も外の人も使う。入所している人が外の通所施設に通ってもいい。そういうことをすれば、こんないい財産はないと思います。

自立支援法で昼と夜を分けたのは評価していますが、魂が入っていない。緊急一時保護的に入所施設を利用してもいい。グループホームの職員は足りませんから、職員がいる入所施設とタイアップしたらいいと思います。我々の団体では身障のグループホームをつくってほしいという要求をしています。

藤井 建物は入所施設でも、今までの入所施設と違うということですね。

地域生活移行にインセンティブ策を

藤井 実は、国も民間団体もあるべき方向性は分かっているはずですが、ここで打開策、解決策に話を移したいと思います。

大久保 国や地方自治体で議論になるのは、障害福祉を今後どういう方向で考えていくのか、具体的に言えば、自分たちが社会保障費をどの程度負担するのかに行き着きます。障害福祉の予算をどれだけ出していくかがベースにあり、そこを除いたら、限られた財源の中でのパイの議論になるわけです。その中での打開策は非常に難しいのですが、自立支援法がらみで考えると、メリハリがありません。

ケアマネジメントの手法を導入したと言いながら、ケアマネジメント体制がほとんど確立されていません。わが国のソーシャルワーカーの位置づけはないに等しい。逆に言えば、医療が中心で、ケアマネジメントも含めて体制が整備されていないので、その人の必要とするサービスをうまくコーディネートできない。

また予算的な問題もあります。これから予算がどう組み立てられるか分かりませんが、メリハリをつけるべきだと思います。地域生活移行だったら、そちらにインセンティブを持たせれば、事業者はケアホーム、グループホームの経営に積極的に出て行くかもしれないと思います。

もう一つは、地域間格差をなくそうとしたのが自立支援法ですが、結果として地域間格差が広がってしまいました。地域生活支援事業の統合補助金がネックです。統合補助金だから、自治体は自分たちの裁量でやる。裁量ということはやらないこともあるのです。

最終的には、地域福祉はそれぞれの自治体が工夫して作り上げていくものですが、あまりにも国主導が長かったので、地域生活支援事業をうまく使えばかなり裁量権があるのに積極的に動かない。象徴的に言われるのは移動支援ですが、その辺をもう少し何とかできないかという感じがあります。

地域生活を送る上でのハードとソフトの基盤整備、つまり住まいの場と働くことを含めた日中活動の場と所得保障が必要です。所得保障は大きな問題で、生活保護との関連もあります。知的障害特有かもしれませんが、入所施設のインセンティブはずっとありました。二重措置と言われ、費用を丸抱えで年金は貯まっていく時代がありました。今回も、入所施設は手元にいくら残すかという議論がありました。

一方、グループホームや地域で生活する人は、2級の障害基礎年金は6万6千円で、知的障害のある人たちの工賃は1万円ちょっとです。地域で暮らすこと自体がきついので、その意味でも入所施設は安心、安全となるんです。確かに、入所施設はたくさんの障害者を一同に集めることによって効率的な支援ができるということはあるでしょう。一つ押さえておきたいのは、地域生活への支援はお金がかかるということ。国、地方自治体はその覚悟を持ってやらなければ無理ですね。

当事者による当事者のサポートを

藤井 当事者団体の立場から、打開策、解決策を提言していただけますか。

有村 厚生労働省は、退院促進事業で退院した人は浦島太郎で、通院などができないのでガイドヘルパーをつけると回答しています。私たちは、何日つけるかまで詰めていませんが、体調がいいと自分から断ると、その後体調を悪くしたときに通院ができなくなってしまいます。私たちは通院や入院に、当事者が当事者をサポートしていくのが必要ではないかと思っています。

自立支援医療も、5パーセントから1割負担になりました。また、作業所の利用料と交通費が賃金よりも高くなって、作業所にも通えなくなって引きこもりになってしまうのではないかということが現実に出てきて、心配している状況です。

終(つい)の棲家(すみか)となってはいけない入所施設

藤井 先ほど二見さんから入所施設が必要だとの見解が述べられましたが、その理由をもう少し突っ込んでお話いただけませんか。

二見 地域で取り組みに差があると思います。足立区では、この4月に入所施設を立ち上げました。社会資源として24時間稼動している施設が地域の中にほしかったことが一つです。入所施設ですが、終の棲家ではありません。個室で、一部は有期限化して、地域の拠点に移していくという地域移行推進型にしています。

地方の入所施設から地域に戻りたいという方たちの枠も確保し、地元に慣れるために一定期間を過ごしていただき、地域のグループホームに移行していく形にしています。できたばかりですので、どう機能していくか、うまく回っていくかはこれからだと思います。

区外の入所施設に入っている足立区民の数を減らすには、地域に居住の場をつくっていかなければいけない。区の基本計画の中に数値目標を入れ、それをブレイクダウンして、障害福祉計画の中で地域移行の目標値を出していくという形をとりました。

また、精神障害者の退院支援策は、区がどれだけ本気で取り組んでいくかです。これまで東京都の精神障害者のグループホームは皆通過型で、長期滞在型はありませんでした。地域で安定して居住できる場所をグループホームに求めていくのか、グループホームの次のステップとして福祉ホームのようなものを構築していくのか。どちらにしても、安定して居住できる場所が示されないと、地域移行は進んでいかないだろうと思います。

精神障害者の退院促進、知的障害者の社会的入所の解消には、日中活動の場の整備も重要です。昼間、グループホームの中にいたら、入所施設、病院と同じですので、日中活動のメニューをどれだけ用意できるかがセットの課題として出てきます。

地元の反対は我々がきちんと説明をして理解を得なければいけない部分ですが、施設整備の部分は国の援助が弱すぎます。社会福祉施設の国庫補助は毎年、1都道府県4施設しか認めないというのでは、東京都では日中活動の整備は追いつきません。基盤整備に一定の支援策は必要だと思います。仕組みが作れても、社会資源が構築できないと絵に描いたモチになってしまいますので、そうならないようにがんばらなければと思っています。

障害者に目線を合わせた施策を

藤井 森さんからも解決策をいただきましょう。

 まず国の人たちが障害者に対する目線をどこに置くかを勉強していただきたいです。サービスの根底に生活保護がちらちらしていますが、生活保護基準で比較しないで、人権を保障するという基準で施策を講じてほしいです。

新しい法律では、自治体によって利用料の格差が出てきましたから、利用者も経営者もたいへんだろうと思います。もう一つは介護保険、医療保険との統合を前提にしていますが、そこを止めないとこの計画もうまく進まないだろうと思います。

地域生活をするための基盤整備が必要です。地域生活支援事業を強化しないと格差がどんどん出るだろうと思っています。夢物語かもしれませんが、私は義務的経費にできないかと心の中では思っています。先ほど出ましたが、自立支援医療の問題はあのような考え方をなぜ出すのか。「医療にかかれるようにしなければ、何かあったときに困るでしょう。君たちの責任ですよ」と言ったことがあります。

また、病院は地域移行するための訓練的な機能を持つべきですね。地域生活の経験がない人がたくさんいるわけですから、病院も本人も不安ですよ。グループホームなどで経験的なことをさせるなどの仕組みを考えないと、地域移行は進まないと思います。

その意味でも、障害者差別禁止法が必要だと思っています。エレベーターやエスカレーターを見れば分かるように、障害者行政のレベルが上がれば、地域も国民も豊かになります。口だけではなくて、具体的な施策が必要です。

生活サポーター、ピアサポーターをもっと施策に

藤井 大塚さんはどのような提言をもっておられますか。

大塚 社会的入院の解消、地域移行支援、地域生活支援の解決が、自立支援法だけで賄えるわけではないですが、あえて自立支援法に関連して言いますと、応益負担は完全に間違いだと思います。多くの人たちが病院の受診回数を減らしたり、作業所に行けなくなってしまったりして、病状の安定とか障害をもちながら地域で暮らすことに逆行しています。応益負担を、応能負担に戻すことが一つです。また、地方自治体が障害者施策を主体的に展開していけるようになるまで、国レベルとして時限立法的なもので資源の最低限の整備の道筋をつけてほしいと思います。

自立支援法の利点としては、たとえば地域移行などに関して生活保護行政と障害福祉行政がようやく1つのテーブルに乗りつつあることでしょうか。

この間の精神障害者の社会的入院の解消に向けた退院促進支援事業の結果から思うことがあります。一つは、退院促進がうまくいかない事例を分析すると重症だからと言われますが、重症の病状が必ずしも地域生活を阻むものではないと思っています。生活障害に置き換えて考える工夫が必要だと思います。

もう一つは、家族の受け入れの困難です。これは精神科の医療機関の地域偏在ともつながります。実際目の前に病院があっても、その病院を利用したくないと思う当事者、家族がいます。たとえば九州の方が東京の病院に長期入院している実態があり、この方々の半分ぐらいが生活保護だったりします。

こういう方々の退院促進は非常に難しい。広域生活保護行政の中での退院促進、社会的入院の解消は、生活保護行政でも相当な策を練らないと進んでいかないだろうと思います。これに対し、東京都が何らかの事業を打とうとしているようですので、期待をしているところです。

それから、家族の方々の負担軽減についてです。地域住民の中での受け入れなどをどう図っていくか。そのためには、当事者に町に出ていただく機会をもっと増やす。地域住民との交流の場を町の中に設定していく。知的障害や身体障害のある方々とも一緒に、いろいろな資源を有効に使い、住民との交流を図りながら、理解を促進していくことが大事だと思っています。

横浜市で始まっていますが、長期入院をされていた方には、退院後の生活サポーターのような方がいてくださるといいと思います。また体験の場の活用は、退院や地域生活は無理だろうと思っていた当事者が、病状とは別に生活者の顔で、生活可能であると医療従事者に理解していただく機会になりますので、重要だと思います。

最後にピアサポートを政策の中に入れていただくといいと思います。東京のJHCでは、メンバーが外来に通うとき入院患者さんのところに顔を出すというような友愛訪問員制度を行っています。参考になる活動だと思います。

藤井 解決策にあたっての大前提になるのが「安心」というキーワードです。そして、この安心は、1.即応性、2.継続性、3.総合性(医療も福祉も就労も)、4.選択性、などで裏付けられるのです。安心が得られないために、比較の問題として、病院や入所施設のほうがいいのではということになりかねません。さらに、具体的な施策をあげなければなりませんが、1.働く場・生活の場、2.住まい・生活の場、3.人的な支援、4.所得保障、この4つが決定的な意味を持つことになります。打開策、解決策を考えていく上で、「安心」と4つの基幹的な施策をしっかりと押さえる必要があります。

ピアカウンセリングでもっと役割を

藤井 最後になりますが、わが団体として何をなすべきかを含め、民間団体の役割についてお話いただけませんか。

大塚 当事者、利用者の希望する生活をきちんと聞き取ることを踏まえた障害福祉計画が住民の目にオープンになっていくことがまず大事だと思います。その際、団体として、当事者が求める生活を聞き取る力のある人材の養成と、当事者のニーズを住民に知らせることにも貢献できればと思っています。

知的障害者については、同居する高齢のご家族が倒れたときに、その方々はどうするのか。行動障害が激しかったり、一過性の精神症状をおもちの方が、ご家族の負担で生活がやっと成り立っているということが隠れた問題になっているのではと思っています。

JDの調査などが行われていますが、団体横断で障害者の生活実態を明らかにすることにより、政策に反映できるような運動を継続していくことと、三障害に限定すると谷間の障害が生まれるので、障害者の定義を見直せればいいと思います。

有村 身体障害者の中にも重複で精神障害の人がいます。ですから、身体障害者の政策の中にうたっていくことはできると思います。私はピアカウンセリングをしていますが、サリドマイドの人が精神障害を負って、携帯に相談が入ります。このような重複障害の方へのピアカウンセリング事業は、引き続きやっていこうと考えています。

三障害が力を合わせながら

 私どもは全国的な組織を持っているわけですから、フルに活動すべきだと思います。一つは政策集団として立ち上がりをしていきたいと思います。行政や政治へのアクション、マスコミとの連携、国民への啓発も必要だと思います。

自立支援法ができたとき、育成会と全家蓮と一緒に電話相談をしました。小規模作業所の実態調査もしました。私どもの団体組織の中に社会参加推進センターがありますので、身体、知的、精神の施策はどうなっているか一覧表を作りたいと思います。

精神障害者の施策は、身体や知的の障害に比べて遅れていると思いますので、三障害が肩を組んで取り組みたいと思います。

また、当事者団体として苦情処理にも入り込んでいくべきだと思います。ほかの団体とタイアップしながら底上げをしていく必要があるし、間違ったことは間違っている、言いたいことは言うという形にしていかなければならないと思います。

藤井 地方の組織で、知的障害分野や精神障害分野との連携が進んでほしいですね。

法の整備をもっと本格的に

大久保 障害者権利条約関係は、共通の問題としてあると思います。現実として地域生活を送っていく上で、差別偏見が厳然としてあることは間違いない。それが地域生活を阻害する要因になっていることも事実ですから、罰則を設ける云々(うんぬん)ではなくて、警鐘を鳴らすという意味でも、障害者差別禁止法などの法律を整備していく必要はあると思います。そこは皆さんと連携してやっていきたいと感じています。

知的障害の場合も、グループホームが最終目標ではありません。一つの通過点です。団体として、地域生活の質の向上に取り組んでいきたいと思います。現段階では、入所施設も効率性、安心・安全というところでは、医療や強度行動障害など特別なニーズのある人には安心できる場かなという感じがしますが、あくまで地域生活という視点の中で入所施設を見ていただく。そうすれば、入所施設の悪い点がいくらかは是正されるはずです。

求められるケアマネジメント体制の充実

藤井 二見さんには、地方自治体の役割に加えて、民間団体への注文もお願いします。

二見 注文ではないですが、みんなが懸案に思っているのは、ケアマネジメントが不十分だということです。居住の場、日中活動の場、所得の問題にしても、それぞれの施策を有機的につなぐ人がいないと機能しなくなってしまいます。そのコーディネーターは、いま実質的な仕組みとしては不在です。不在の中で何となく自治体がやっているところと、相談支援事業者がある程度市町村の援助を受けながらやっている状況だと思います。だれがどのようにやっていくのか、これから市町村と団体のみなさんで方向性を出していかないといけないと思います。

障害者の相談、ケアマネジメントで難しいところは、三障害と言われながらも、それぞれの障害固有の課題があることです。国の言うような、ここに行けば三障害の相談を受けられるのですよというのはずっと先の話で、経過的にはそれぞれの専門家が相談に乗っていかないと難しいと思います。

足立区では、福祉事務所で身体と知的障害者の相談を、保健総合センターで精神障害者の相談を受けています。精神の家族会の方に話を聞きますと、身体や知的と同じような制度を使いたいけれど、忙しそうな福祉事務所の窓口で短時間の相談では困る、保健総合センターでじっくり保健師に相談したいと言うのです。ケアマネジメントを打ち出すのであれば、一定期間は精神、身体、知的の専門性を発揮できる相談支援機関がないと十分に答えられないだろうと思います。

福祉事務所や保健総合センターは一時的な相談機関で、二次的には心理とか理学などの専門職を抱えた区立の障害福祉センターが相談を受けていますが、どれだけ専門性が担保できるかは不安になります。

当事者の団体の方からは、一番よく知っている私たちにやらせていただけないかというお話をいただきます。外にお任せするのは簡単ですが、何でも外に委託してしまうと、区役所は障害者の生活を分かった上でサービスを組み立てているのか、制度を運営できるのかという問題に跳ね返ってきます。自分たちが専門性を持ちつつ、外の専門性を生かしつつ、障害者の団体、民間の事業所とどうコラボレーションをしていくのかがこれからの課題です。

障害者権利条約の理念を活かしながら

藤井 社会的入所や社会的入院の問題は、その現象自体看過できない問題ですが、このことと合わせて物事を主張できない人、主張しづらい人の問題であるという点において、ことさら重大な問題なのです。

今、私たちの目の前に、障害者権利条約という精度の高い羅針盤が誕生しました。これに照らせば、入所施設偏重政策や社会的入院問題がいかにおかしいか、自ずと答えがでてくるはずです。そして、解決の方向性も明確に示されているのではないでしょうか。

また、この国では、一つでも遅れた領域を残すならば、いつの間にかそれが最低基準と化してしまうのです。全体の政策水準アップの足を引っ張る役割さえ担うことになります。「社会的入院状態よりは、はるかに良い条件にあるんですよ」といった具合に、不十分さからの好転を抑止するためのネガティブな基準になりかねません。障害者政策全体から、社会保障政策の底上げという観点からも、この問題は曖昧にしてはなりません。自立支援法の抜本的な見直しの課題とも重ねながら、喫緊の課題とすべきです。もちろん、運動面からのエネルギーの発揮も大切で、この点で民間団体がまとまることの重要さも確認することができました。ありがとうございました。