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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年12月号

フォーラム2007

視聴覚障害者向け放送を巡る政策・取組等について

総務省情報通信利用促進課

はじめに

総務省では、平成18年10月から平成19年3月まで「デジタル放送時代の視聴覚障害者向け放送に関する研究会」を開催し、報告書をとりまとめ、これを受け、平成19年10月に「視聴覚障害者向け放送普及行政の指針」を策定したところである。ここでは、それらの概要について報告する。

視聴覚障害者向け放送に関するこれまでの取り組み

郵政省(現 総務省)(当時)は、「身体障害者の利便の増進に資する通信・放送身体障害者利用円滑化事業の推進に関する法律」(平成5年法律第54号)に基づき、通信・放送機構(当時)が衛星放送受信対策基金の運用益を財源として、平成5年度から字幕番組、解説番組の制作費に対する助成を開始した。平成9年度からは、新たに一般会計からの補助金を追加して助成を行っている。平成11年度からは、助成対象に手話番組を追加した。

平成9年に放送法の改正が行われ、放送事業者は字幕番組・解説番組をできる限り多く設けるようにしなければならないという放送努力義務が規定された。郵政省(現 総務省)(当時)は、その改正の趣旨を踏まえ、同年11月に、「2007年までに字幕付与可能な放送番組※1の全てに字幕を付す」ことを目標とする「字幕放送普及行政の指針」を策定した。これを受けてNHK及び民放キー5局等は、字幕拡充計画を作成し、各自の目標を達成すべく自主的な取り組みがなされてきた。

字幕放送等の実績

総務省では、毎年度、各放送事業者の字幕放送、解説放送、手話放送の進捗状況の公表を行っている。

  平成9年度 平成18年度
NHK(総合) 32.5% 100%
民放キー5局平均 3.5% 77.8%

平成18年度の字幕付与可能な放送時間に占める字幕放送時間の割合の実績は上の表のとおり、NHK(総合)で100%、民放キー5局平均で77.8%であり、行政指針を策定した平成9年度と比較すると、目標達成に向けて拡充されてきていることが分かる。

  字幕放送 解説放送 手話放送
NHK(総合) 43.1% 3.7%
NHK(教育) 29.1% 8.8% 2.4%
民放キー5局平均 32.9% 0.3% 0.1%

また、平成18年度の総放送時間に占める字幕放送、解説放送、手話放送時間の割合の実績は、上の表のとおりであり、字幕放送については拡充されてきているものの、解説放送、手話放送については、割合はまだ低いものとなっている。詳細については、以下のHPを参照いただきたい。http://www.soumu.go.jp/s-news/2007/070629_9.html

「デジタル放送時代の視聴覚障害者向け放送に関する研究会」の開催

(1)経緯

今後、デジタル放送の進展、高齢化の進展、字幕放送の受信可能な端末の普及により、字幕放送、解説放送及び手話放送の利用者が増加することが予想されるところ、総務省は、今後のデジタル放送技術・サービスの進展を踏まえた、視聴覚障害者向け放送の推進に向けた検討を行うことを目的とし、平成18年10月から平成19年3月まで、「デジタル放送時代の視聴覚障害者向け放送に関する研究会」(座長:高橋紘士 立教大学大学院21世紀社会デザイン科教授)を開催し、平成19年3月に報告書を取りまとめた。

(2)報告書の概要

本研究会の報告書においては、現状と課題を踏まえた視聴覚障害者向け放送の推進にあたっての提言がまとめられており、行政の役割として、次の事項が提言された。

1.平成20年度以降の普及目標について、生放送の討論番組・トーク番組等複数人が同時に会話を行う生放送番組など技術的に字幕を付すことが困難な放送番組等は除いて、字幕付与可能な放送番組を拡大するとともに、データ放送やオープンキャプションにより番組の大部分を説明している放送番組を字幕放送に含めて、新たに字幕放送の普及目標を策定すること

2.解説放送の普及目標を新たに策定すること

3.字幕付与が困難だとされている生放送番組や、普及が遅れている解説番組及び手話番組制作費について重点的に助成するなど、視聴覚障害者向け放送番組制作促進のための助成金の拡充について検討すること

4.視覚障害者XML及び視覚障害者用受信端末の研究開発※2を推進すること、手話放送の拡充に向けて研究開発実施の可能性を検討すること

5.視聴覚障害者向け放送は高齢者にとっても有益であることなどについて、高齢者への周知に取り組むこと

6.国民が視聴覚障害者向け放送の必要性を理解するよう、積極的な周知を行うこと 等

また、関係者の取り組みとして、次の事項が提言された。

1.字幕放送については、今後も放送事業者による字幕拡充計画の策定が必要であること、解説放送、手話放送については、行政の取り組みや課題等を踏まえて引き続き普及拡大に向けて検討すること

2.放送事業者、字幕制作会社、電機メーカー、視聴覚障害者、総務省等の関係者が定期的に集まって意見交換を行う場を設置すること

3.国民が視聴覚障害者向け放送の必要性を理解するよう広報を充実させること

4.利用者側の情報リテラシーを向上させること 等

詳細については、以下のHPを参照いただきたい。http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/chousa/digi_hoso_sikakusyogai/index.html

「視聴覚障害者向け放送普及行政の指針」の策定

総務省では、「デジタル放送時代の視聴覚障害者向け放送に関する研究会」報告書の提言を踏まえ、平成20年度以降の視聴覚障害者向け放送の普及に向けて、字幕放送と解説放送の普及目標を定めた、「視聴覚障害者向け放送普及行政の指針(案)」を策定し、平成19年8月28日から9月27日まで意見募集を行った。これを踏まえて、平成19年10月30日、「視聴覚障害者向け放送普及行政の指針」を取りまとめ、公表した。

(1)目標期間

目標期間は、平成20年度(2008年度)から平成29年度(2017年度)までである。なお、平成23年のアナログテレビジョン放送の終了や、近年の急速な技術進展などの環境の変化が予想されることから、技術動向等を踏まえて、策定から5年後を目途に見直しを行うこととした。

(2)字幕放送について

字幕放送については、字幕付与可能な放送番組の定義を拡大し、1.複数人が同時に会話を行うもの以外の生放送番組(アナウンサーが原稿を読む形式のいわゆるストレートニュース等)、2.手話により音声を説明している放送番組、3.大部分が歌唱の音楽番組を、新たに字幕付与可能な放送番組に追加することとした。また、新たに放送する放送番組だけでなく、再放送番組も目標の対象に含めることとした。

さらに、データ放送やオープンキャプションにより番組の大部分を説明している場合も、字幕放送に含めることにした。

以上を踏まえ、平成29年度(2017年度)には、新たに定義された「字幕付与可能な放送番組」のすべてに字幕が付与されることを目標としている。

(3)解説放送について

テレビジョン放送の放送番組の場面・状況や出演者の動き等を音声により説明する解説放送については、今回新たに指針を策定し、平成29年度(2017年度)までに、権利処理上の理由等により解説を付すことができない放送番組を除くすべての放送番組を対象に、NHK総合10%、NHK教育15%、民放キー5局等10%に解説が付与されることを目標としている。

詳細については、以下のHPを参照いただきたい。http://www.soumu.go.jp/s-news/2007/071030_2.html

最後に

総務省としては、「デジタル放送時代の視聴覚障害者向け放送に関する研究会」報告書の提言を踏まえつつ、今回策定した「視聴覚障害者向け放送普及行政の指針」の目標達成に向けて、字幕番組等制作費助成の充実等、引き続き、視聴覚障害者向け放送の拡充に向けた取り組みを推進していきたいと考えている。

※1 生放送番組など技術的に字幕を付すことができない放送番組等を除いた新たに放送する7時から24時までの放送番組

※2 デジタル放送で提供されるデータ放送やEPG(電子番組ガイド)、放送コンテンツについて、共通の基盤(視聴覚障害者XML)を介することで、視覚障害者向けの音声、点字、指点字や弱視者のための拡大反転表示、触覚提示など多用な形態での出力を可能とする研究開発