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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年1月号

県知事

熊本県知事
潮谷義子(しおたによしこ)

障がい者の問題は社会全体の問題

県独自の事業で制度の「すきま」をつなぐ

私はこれまで、制度があっても地域実態に合っていないものがないか、また行政そのものが縦割で制度と制度の谷間にあり対応できないことがないかなど、福祉現場での「クライアント・センタード」(利用者中心主義)の徹底の視点から制度を点検し、機会あるごとに国にも提案してまいりました。支援費制度が始まっても、障がい者のケアマネジメントは制度化されず、精神障がいの分野も取り込まれませんでした。また、障がい児の保護者の特別支援学校での付き添いや長期休暇中の負担は大きな課題となってきていました。このため、本県では、制度で対応できない「すきま」をつなぐ事業が必要と判断し、全国で初めて、三障がいすべてに対応するケアマネジメントを事業化するとともに、特別支援学校への看護師の派遣や長期休暇中の日中活動の場づくり等の事業をモデル的に実践してまいりました。

性急な制度改正と地方自治体の苦悩

しかし、一昨年4月に施行された障害者自立支援法は、こういった地方自治体の工夫が吹き飛んでしまうほどの大きな改革でした。あまりにも性急で、関係者の議論が十分に尽くされなかったことが混迷を深めました。障がいのある方々や関係団体からの切実な要望や請願等を受け、本県は、利用者への影響等を把握するため独自に実態調査を行いました。その結果、利用者負担、障害程度区分認定、報酬水準など制度の根幹部分に大きな課題があることが分かり、国に対して独自の施策提案を行うとともに、全国知事会等を通じて働きかけをしてまいりました。地方自治体は日々現場を抱えています。財政状況を理由に課題を先延ばしすることはできません。障がい福祉における地方自治体の役割が大きくなった今日、大きな制度改正であればあるほど現場への影響は甚大です。国は今回の事態を教訓として、制度改正にあたってはこれまで以上に地方の声に耳を傾け、制度を担うパートナーとして地方とともに制度づくりに携わっていただきたいと切に望みます。

社会全体での議論を

障がい者施策は、長期にわたる持続可能性の確保の視点に加え、他の制度以上に、利用者からみて信頼できる制度であるか、安心できる制度であるか、という視点を持つことが大切です。そのためには、できるだけ分かりやすい形で議論し、適切に情報提供して、「障がい者の問題は社会全体の問題である」との意識を広めていくことが何より重要ではないでしょうか。本県では、地元大学生グループの提案を受け、今年から法令用語等を除き「障がい」と平仮名表記をすることとしています。一人でも多くの方が“障がい”について考えるきっかけになればと願っています。