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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年1月号

1000字提言

重い杖

小山万里子

2本のロフストランドクラッチは曲がっていた。さびも浮いている。何よりも、持つと、とても重い。鋼鉄製だった。腕に負担がとてもかかる。

アフリカのカメルーンから、JICA(国際協力機構)の研修事業「障害者リーダー育成コース」研修生として来日したポリオ体験者ジョセフ・ポウアグムさんが使っている杖だ。

ポリオ患者会であるポリオの会は、JICAやダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業研修生のポリオ体験者と、交流する機会を得る。10月の例会で、民族衣装に身を包んだジョセフさんにカメルーンの障害者の状況を聞き、二次会は彼を囲んで話が弾みとても有益で楽しい時間をもてた。ジョセフさんの持つ、使い込んでたわんだ杖は、アメリカで頂いたものという。何年、何人の手を経たのだろうか。

会内で、使わなくなった杖、車いすなどの提供を呼びかけている。この日、ジョセフさんは研修生を代表してロフストランドクラッチを2本、一本杖を1本、受け取られた。花柄の杖はカメルーンの衣装に映えていた。青森や大阪の会員からも杖が届いた。

研修生といえば、昨年、ダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業で来日したミャンマーのソウさんとは、旅行にもご一緒し、車いす使いのテクニックに驚嘆したが、電動車いすは修理が難しいため、重くても頑丈な、鋼鉄製のような車いすが良いという。確かにとりわけ地方では、頑丈でないと困るだろう。だが、腕の負担は大変なものになる。両足マヒの彼が、腕の酷使によって上肢にPPS[ポリオ後症候群]の症状が出るのは厳しいことだ。

以前、フィンランド製の電動車いすに試乗した。野越え山越え、波打ち際も、枯葉の斜面も、雪道も進めるのである。夢のようで、今も夢見る思いだ。こんな車いすは、上肢にも障害があり、山道や未舗装の道での生活の人こそいっそう望むものだろう。

PPSの悪化を少しでも防ぐため1グラムでも軽くと、最軽量のカーボン製の杖を使っている私である。ジョセフさんの杖の重みが感覚にしみこんで離れない。彼の腕は、まだ大丈夫なようだったが。

WHOはポリオ根絶宣言を延期した。ポリオ罹患者の何10%かは十数年から数十年後にPPSに向き合う。アジアやアフリカ諸国では果たして対応できるだろうか。日本は生ワクチンから不活化ワクチンへの切り替えはなされず、いまも毎年、数人のワクチン由来のポリオ患者が出ている。彼らもやがてPPSに向き合うのか。

ポリオ、PPS体験者の私たちは、彼らにPPSの理解と対処法をきちんとまとめて伝えていけるだろうか。いかなければならない。国際的なネットワークが必要だし急がれる。

(こやままりこ ポリオの会代表)