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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年2月号

就学支援委員会の廃止と就学相談
―東松山市の取り組みから―

田口純子

はじめに

就学支援委員会は医師や教育関係者等で組織され、就学予定者の就学時の健診結果を受けて、学校教育法施行令第22条の3に定められた障害の程度を判定し、進学先について特別支援学校(盲・聾・養護学校)・一般の学校の特別支援学級・一般学級のいずれが適切かを判断し、各教育委員会が、保護者に通知する役割を持つ。就学支援委員会に法的根拠はなく、現在では保護者の希望を聞いて就学先を決めることになっているが、実際は、就学支援委員会が、就学先を特別支援学校か一般の学校か示しており、保護者からは、希望する学校に入学できないという批判が出ている。

東松山市は、平成19年6月、市町村教育委員会に置かれていた、就学支援委員会を廃止し、「子どもの利益を最終的に判断するのは家庭」として、就学先の選択を本人や保護者の希望で選べる制度に切り替えた。就学支援委員会廃止後は、就学先の「判定」ではなく「相談」を行う機関として、就学相談調整会議を立ち上げ、17人の就学相談員が配置されて、保護者の選択を支援している。

私も6号相談員(障害者就学相談支援専門員)として委嘱を受け、就学相談の実務に当たることになった。委嘱を受けて5か月。試行錯誤の中、就学支援委員会の廃止の意義を関係者と確認しながら歩んできている。

1 東松山市の施策

平成6年7月に就任した坂本祐之輔市長は、ノーマライゼーションのまちづくりを市政の基本理念に、4期目を迎えている。そして平成19年3月、第二次市民福祉プラン(東松山市の障害者計画)が策定された。障害のある人もない人も、ともに暮らすまちをつくるためには、これまでの制度によってつくられてきた支援の仕組みを改め、すべての人が同じところで遊び、育ち、学び、働き、住むことができる支援の仕組みに変えていかなければならない。第二次市民福祉プランのテーマ「ともに暮らすまち東松山の実現」は、それを明確に打ち出すものとなった。

2 東松山市の育ちの場

保育園においては、平成8年に障害児保育要綱を定め、保育園に保育士を加配して、障害児の受け入れを行ってきた。現在20人の加配保育士が公立保育園に配置され、すべての保育園に障害のある子どもたちが、複数入園している。また、平成19年度から公立保育園1園に看護師が配置され、導尿や経管栄養の注入が必要な子どもたちなど、医療的ケアが必要な状態の子どもを受け入れている。

学校教育においては、教育委員会が、平成8年から介助員制度を開始し、地域の小・中学校に通う障害のある子どもたちの学校生活を支えている。現在39人の介助員を派遣しており、義務教育年齢の障害児78%が地域の小中学校に通っている。

そして平成19年6月、就学支援委員会の廃止。東松山市就学相談に関する規則の目的第1条には、「この規則は、就学予定者、児童及び生徒の就学先等の選択にあたり、保護者等への適切な就学の相談及び支援を行い、共に育ち共に学ぶ教育の推進を図るため、必要な事項を定めるものとする。」と記された。教育行政において、「共に育ち共に学ぶ」ことを明確に打ち出し、新たな仕組みと運営に乗り出す決意を表明したのである。

3 就学相談の実際

(1)相談の場

東松山市教育委員会は、就学支援委員会廃止に伴い、今まで、総合教育センター1か所だった就学相談窓口を教育委員会学校教育課にも設置した。一方私が勤務している総合福祉エリアは、相談支援事業所として、相談業務を行っている機関であるが、今回相談員が就学相談員になったことで、総合福祉エリアにも電話、面談といった形で、就学相談が寄せられている。相談者にとっては自分が相談しやすい場の選択が広がったと感じる。

(2)相談の始まり

制度が変わって学校の選択は保護者が行えることになっても、就学という未知なステップを踏むことや、始まったばかりの新しい制度への戸惑いが、希望と一緒に母親たちを不安にさせていた。そんな不安を受け止めるところから相談は始まった。そして、どんな場所でどんなふうに子どもを育てたいと思っているのか、母親以外の家族の思い、学校生活で心配なことなどを話してもらう。今必要なことは何かを整理し、学校見学や教育委員会との相談などにつなげていく。学校を選び通わせることを決めるのは、相談員でも教育委員会でもない。保護者自身である。学校選択に必要な情報収集の支援と保護者が学校選びの思いを自分の言葉で語る支援は、重要と考える。

(3)情報収集と話し合いの支援

学齢期の兄弟を育てた経験があれば少しは学校のイメージはわくものの、初めての子どもの就学は戸惑うことが多い。実際に学校や、学級の見学をしたり、特別支援学級であれば、普通学級との交流の取り組み方、通学に関することなど、現在の状況を聞いてみることをすすめる。しかし、今まで学校で受け入れたことがない障害の状況の子どもには、子どもに合わせた環境や取り組み方法が必要になり、話し合いや調整が発生する場合もある。

就学支援委員会の廃止は、今の学校に子どもを当てはめて振り分けるのではなく、子どもが選んだ学校が、どう子どもに寄り添っていけるのかの挑戦でもあるのだ。

(4)専門職との連携支援

あるケースで、給食を誤嚥しないか心配な子どもがおり、入学後、給食が開始されたら、子どものリハビリを行っているクリニックから、担当作業療法士を派遣してもらうことになった。子どもも安全に楽しく食事ができ、先生も安心して介助できるように、給食の食形態の評価や、介助時の配慮点について学校に来て指導してもらう予定である。

また、肢体不自由の子どもでは、学校にある既存の椅子が体に合わないケースがあり、子どもが学校体験をする時に、子どもの担当理学療法士にも同行してもらい、学校生活での実用性を考えた、椅子の検討をしてもらっている。

重複障害を持つ子どもが地域の学校に入学するに当たっては、学区に当たる肢体不自由養護学校のコーディネーターの協力を得て、入学後の生活についてのアドバイスをもらう体制を作っている。

さまざまな専門職の知識や技術の支援を受けることで、子どもが、安心して楽しく、先生や友達と一緒に学校生活を送ることにつながると考える。また、就学相談を通じて、早い時期から、就学後の生活を見据えて準備を進めることも大切であると感じている。

(5)ライフステージをつなぐ支援

総合福祉エリアでは、平成19年度厚生労働省障害者保健福祉推進事業の補助を受けて、子どもたちが地域の中で共に育つための手だてについて調査研究を進めている。この研究事業の中で、保育園や幼稚園に通う子どもの保護者・園の関係者(担任・看護師など)、専門職(臨床心理士・理学療法士など)に集まってもらい、保護者の思いや園での取り組みの実際、専門職の立場での意見などを共有する連携会議を開いた。その結果、園で築いてきた取り組みや、関わり方のノウハウをスムーズに学校につなげてほしいという希望がでた。

特別支援教育が進む中で、学校・幼稚園・保育園の連携がいわれており、今後の課題だ。町のシステムとしても、幼児期の支援が学校にも引き継がれるように、関係者が、有効につながり合えるようにすることも、就学支援の一環として必要なことと見据えている。

おわりに

就学相談は、就学先という場の決定だけではない。子どもの学校生活を支えるさまざまな整備や学校生活が始まった後の支援まで継続されるものである。また、就学相談という窓口から見えてきた、町にとって必要なシステム構築まで含まれると考える。就学支援委員会廃止による、本人や保護者の希望に沿った就学支援は、障害によって分けられるのではなく、主体的な生き方の選択に寄り添った支援であり、今後も全国の自治体に広がることを期待したい。

(たぐちじゅんこ 東松山市総合福祉エリア相談員)