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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年2月号

立教大学における身体しょうがいしゃ(学生・教職員)支援ネットワークの取り組み

立教大学身体しょうがいしゃ(学生・教職員)支援ネットワーク

はじめに

立教大学は1874年アメリカ聖公会の宣教師チャニング・ムーア・ウィリアムズ主教によって創設された。現在は東京の池袋キャンパスと埼玉の新座キャンパスに9学部24学科、学生数約18,000人を擁する総合大学である。

本学では、古くは戦前から点字を利用している学生が在籍していたという記録が残っている。また1970年代に視覚に障害のある学生を受け入れてから、わずかずつだが身体に障害のある学生を受け入れてきた。無論、当時は大学として障害のある学生に対して組織として整備された体制があったわけではない。学生が入学する都度、現場の人間が考えながらサポートを行ってきたのが実情である。

1980年代に視覚障害や聴覚障害のある学生が複数在籍する年度が続き、直接対応をしていた教務部の職員から障害学生支援を行う委員会・組織を作るべきだという声が上がった。その結果、1988年に教務部に身体障害者支援委員会という組織が誕生し、この動きを基に、1994年には全学的組織とするための準備会が立ち上がり、翌年「立教大学身体しょうがいしゃ(学生・教職員)支援ネットワーク」(以下、ネットワーク)が発足した。

現在では、ネットワークはチャプレン室事務課、人事課、管財部、教務部、学生部、キャリアセンター、図書館、保健室、メディアセンター、ボランティアセンター、新座キャンパス事務部の部局からメンバーが構成されており、事務局業務は人権・ハラスメント対策センターの職員が担っている。また、2001年からは専門的知識を持った教職員がアドバイザーとして参加、2004年からはネットワークの拡大会議として障害のある学生が在籍する学部から各1名教員が加わり運営方針決定に関わっている。

当ネットワークは「障害のある学生や教職員がキャンパスで生活する上での不便を軽減するため、大学内の連絡・調整を図るとともに、障害のある人にとって、より開かれた大学のあり方を検討し、提言を行う」ことを目的としている。単一の部局主導で方針決定をするのではなく、それぞれの部局で主体的に行っている障害のある学生支援の情報を共有し、大学全体としてどのように支援をしていくのがよいか方針を決めていくスタイルにあることといえる。

具体的な支援の内容

本学では、いわゆる生活支援については行わず、大学内における学習支援を中心に行っている。学生の場合、入学から卒業までの間に以下のような支援を行っている。

[入学試験]

身体の機能に障害があり、受験に際して特別な配慮を必要とする場合は、事前に入学センターに問い合わせをしてもらい、本学の状況を十分説明する。また、必要に応じて、面談を行い、就学上の問題点や入学後の支援の内容について説明と確認を行っている。

[面談]

1.入学前面談…入学手続き終了後、就学支援の具体的内容について本人、必要に応じて保証人や出身学校関係者、所属学部等教員、教務部職員が面談を行う。ここでは大学で行う支援概要の説明、授業担当教員に依頼したい配慮、必修言語科目の授業方法等について話し合う。

2.中間面談…所属学部の支援担当教員と教務部職員が学生生活上の状況や要望を聴取する。時期は1年次の5月頃、後期開始直後、2~4年次の年度始めに各1回行う。

3.卒業時面談…在学中の状況と大学に対する提言等を聴取し、今後の支援活動に役立てるため、学部支援担当教員および教務部職員が面談を行う。

[授業支援]

  • 教室配当の配慮…障害の状況に応じて教室の配当が適当かどうかの判断をし、必要であれば教務部で教室変更をする。
  • 授業担当教員への配慮依頼…教務部から担当教員に対し授業上での配慮(講義資料の事前提供、レポート提出の方法等)について文書を送付する。
  • 定期試験特別措置…試験問題の点訳・墨訳、試験時間延長、支援機器の利用などの特別措置を必要に応じて行う。
  • 視覚障害支援…点訳補助、対面朗読
  • 聴覚障害支援…ノートテイク、パソコン通訳、手話通訳
  • 四肢障害…教室間移動介助、実験介助、実習介助

[学生生活・進路支援]

  • 任意参加型の大学主催プログラム(講演会等)について、必要に応じて一定の予算範囲内で支援(ノートテイク等)を行う。
  • 障害をもつ学生を対象とした進路支援の相談

支援は教務部選出のネットワークメンバーと事務局が中心となることが多いが、面談の状況等については逐一ネットワークの打ち合わせにおいてメンバー間で共有している。これによりハード面での支援のあり方(管財部、図書館、メディアセンター等)や正課以外の場面での支援(学生部、キャリアセンター等)においても、情報共有がなされている。事務局はネットワークの予算管理、支援用機器備品管理、アルバイト学生(ノートテイク等)の出勤管理、広報物の作成などの諸事務を担い、情報を集約・管理し、ネットワークがスムーズに機能するよう調整している。

この体制の利点は、学生が学内のどの窓口に相談に行っても、ネットワークの事務局につながること、また対外的な問い合わせ窓口としてまずは事務局が対応し、必要に応じて個別の部局と調整するなど全学として有機的につながっていることである。

今後の課題

一般的に大学においては、障害のある学生を支援する組織が、学長直属の専門機関という形式や、教務部や学生部など特定の部局に連なる形式が多いと聞いている。本学のネットワーク体制はボトムアップから始まった、他大学にほとんど類を見ない形式ではあるが、現在のところはメンバー各人のモチベーションの高さに支えられ、支援システムとしてはおおむね順調に機能しているといえるだろう。

今、課題となっているのは多くの大学でも頭を悩ましていることであるが「どこまで支援すべきか」という線引きである。理想を言うならばアメリカのADA法のように、障害のある学生に対して100%の授業保障を行うことが望ましいが、予算に上限がある状況の中では支援内容の選択を迫られるのが現実である。本学も例外ではない。本学の場合は、障害のある学生一人あたりに対しての個別に掛かる支援費用の上限を年額50万円としている。この金額については、過去の実績値から導き出したものではあるが、金額の妥当性や実際の支援ニーズについては今後さらに精査していく必要があると考えている。

また、障害に対する一般学生の関心を高めることも課題となっている。体の不自由な人にエレベーターを譲る、白杖を持っている人に声をかけるなど、ほんの些細なことができない学生がいまだ多い。悪意からではなく、ただ「気づかない」「どうしていいか分からない」のである。こうした状況を少しでも改善するために、ネットワークメンバーでもあるボランティアセンターでは講習会(点字・手話・ノートテイク等)や障害理解のプログラムの開催等の啓発活動、来年度からは手話や点字を通してコミュニケーションを考える授業を展開する予定である。

また、ネットワークとして授業協力(「心のバリアフリーを考える」全学共通カリキュラム科目)を行い、なるべく多くの学生が障害について理解を深める機会を設けている。だれもが自然に手を貸すことができ、共に交わり合うことを学ぶことのできるキャンパスとするためにも、今後さらに啓発活動に注力していきたい。