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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年2月号

難病等をもつ人の生活実態
~セイフティーネットの狭間をなくす福祉施策の改正は急務~

山本創

私たちの会では、難病等をもつ人が抱える制度上の課題提起、そのための集会開催や署名活動、アンケート調査等を行っている。特に、日本の障害範囲は非常に狭く、必要な方が利用できていない現状をさまざまな障害者団体とどこまで共有化できるかが課題となっている。是非、ご理解とご協力をお願いしたい。

1 北九州市餓死事件から考える障害者施策の問題。集会の開催

2007年6月、北九州市で肝臓障害、糖尿病をもつ方が、自宅で餓死するという事件が起きた。生活保護基準以上の収入がないにもかかわらず、生活保護を打ち切った問題とともに、現在の日本の諸福祉制度の「狭間」、ソーシャルワークの貧弱さがこのような状況へ追い込んでいった背景がある。一時の「動く、動かない」といった安易な判断だけでは、体力以上の負荷をかけ続け、脱力や発熱、痛み等の症状を急激に悪化させ、生死に直結する事態にも至る。ヘルパー制度による定期的な見守りや体力的負担の軽減、所得を補いながらの生活状態にあわせた就労支援策等が、餓死に追い込まれるよりもっと早い段階から、地域でつながっていればこのような結果にはならなかったのではないか。しかし、非常に狭義な障害者手帳の保持が要件となっており、発達障害や難病等、日常生活、社会参加上に制限がかかり続けているにもかかわらず、施策を利用できない現状がある。熱を出してふらふらな状態の人に、血圧計で測定して、「大丈夫、問題ない」といった現行の基準を、本人のニーズ表明を基本とした、生活ニーズに見合った支給方式に改正していく必要がある。障害者の権利条約や自立支援法、年金制度等、総合的な福祉施策の改正は急務となっている(詳細はHP「障害をこえてつながろう! 12.16東京集会北九州市餓死事件それは私たちの問題」を参照)。

2 日本の障害者数と年金制度。欧米との比較

日本では人口の5%が何らかの障害を有しているとされているが、欧米では障害者の対人口比で20%程度となっている。また、障害者年金もアメリカと比べても半分程度の人しか受給できていない(グラフ1参照)。本来障害福祉で対応すべきところが、「制度の狭間」となっており、資産を使い果たしてから、生活保護に頼るといった現状となっている。

グラフ1 障害年金給付費および受給者数の国際比較
棒グラフ 障害年金給付費および受給者数の国際比較拡大図・テキスト

3 難病等をもつ人の生活実態調査より

私たちの会では、難病をもつ人の生活実態調査から、制度上の問題も検証した(詳細は当会HP http://www.k5.dion.ne.jp/~against/参照)。

【本人の所得と世帯の所得状況】~潜在的な生活保護対象者も多いのでは~

本人の年収に関しては499人中326人の方、全体の65.3%が年収150万未満と答えている。一方世帯の収入が150万円以下の方は75人15%になっており、経済的に家族に頼らざるを得ない現状が明らかになった。もし、一人で暮らさなければならなくなった時を考えると、潜在的な生活保護対象者も多いのではと懸念される。

表1 本人の所得状況
円グラフ 本人の所得状況拡大図・テキスト

表2 世帯の所得状況
円グラフ 世帯の所得状況拡大図・テキスト

【ヒト免疫不全ウイルスの障害認定項目での適応度】

すでに障害認定の項目になっている、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の項目において、障害者手帳を持っていない難病等の方でも、同じような日常生活上の制限があり、9割以上の方が半年以上継続していることが分かった。しかし、現行の障害者施策では、限定されている疾患や臓器に当てはまらないという理由で排除されている。内部障害等においては、表3のような項目を活用した支給決定の改正が求められる。

表3 ヒト免疫不全ウイルスの認定項目適用度
図 ヒト免疫不全ウイルスの認定項目適用度拡大図・テキスト

【寄せられた差別事例】

障害者権利条約の国内履行や差別禁止法の制定に向けて、障害者手帳の有無に区切ることなく、難病等をもつ方の差別の解消も是非お願いしたい。

・役所に就職の相談をしたとき、難病と聞いたとたん態度がかわり、「そりゃ就職断られるだろう」と言われた。(25歳女性)・面接だけでもしてもらえれば、ある程度納得いくかもしれないが、どうしても差別されていると思う。病気が安定するまでの期間が長すぎ、空白期間の説明困難。疾患を外見だけで判断されやすい。(45歳男性)・保育園に入れてもらえない。(2歳女性)

(やまもとはじめ 難病をもつ人の地域自立生活を確立する会)