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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年2月号

わがまちの障害福祉計画 千葉県柏市

千葉県柏市長 本多晃氏に聞く
「わがまち」の施策に活きる民間組織の活力

聞き手:寺島彰
(浦和大学総合福祉学部学部長・教授)


千葉県柏市基礎データ

◆面積:114.90平方キロメートル
◆人口:389,036人(平成20年1月1日現在)
◆障害者の状況:(平成19年12月末日現在)
身体障害者手帳所持者 8,549人
(知的障害者)療育手帳所持者 1,538人
精神障害者保健福祉手帳所持者 1,254人
◆柏市の概況:
県北西部を代表する商業都市。2005年8月につくばエクスプレスが開業し、柏の葉キャンパス駅周辺では、大学や企業・県・市が一体となり、国際キャンパスタウン構想に基づく「健康・環境・創造・交流のまち」を目指したまちづくりが進行中。Jリーグ「柏レイソル」と女子バスケットボール「ジャパンエナジーJOMOサンフラワーズ」の本拠地。2008年4月には県内2番目となる中核市への移行が決まっている。全国で2番目となる「柏市地球温暖化対策条例」を制定。行政、市民や企業が一丸となってそれぞれの立場から温暖化対策を実施。
◆問い合わせ:
柏市保健福祉部障害福祉課
〒277―8505 千葉県柏市柏5丁目10番1号
TEL:04―7167―1136(直) FAX:04―7167―0294

▼今年4月に中核市へ移行する予定ということですが、その経過を教えてください。

2年前に当時の沼南町と合併し、人口が38万人強、面積が100平方キロメートルを超える市になり、中核市の条件をクリアしました。中核市になることは、都市として自立していくための重要なステップであると位置づけ、手続きを進めてきた結果、県内2番目となる中核市への移行が決まりました。「新たなステージヘ―自立都市かしわ―」をキャッチフレーズに自立性の高い都市の実現を目指しています。

▼柏市は、障害のある人々が地域で生活できることを重視しているとお聞きしていますが、市長の考えをお聞かせください。

柏市では、障害のある方々が障害のない人と同じ機会に恵まれ、全く同じような生活をエンジョイできる、自分の可能性を伸ばせる環境を作っていくことが一番重要であると考えています。各種計画にも、そのことを大きな柱の一つとして取り入れています。特に、バリアフリーなどの社会基盤の整備には力を入れていて、障害のある方々ができるだけ自分で利用できるように、エレベーターやエスカレーター、点字ブロック、音声誘導システムの設置などを優先して行っています。

▼障害福祉計画の策定の経緯やその内容で、特に力を入れたことなどをお聞かせください。

平成18年度末に「ノーマライゼーションかしわプラン」を策定しました。当市の障害福祉分野は、障害者団体や事業者など民間レベルの活動が活発で、民間団体の自主的な先駆的な取り組みをきっかけにいろいろな施策が立ち上げられた特徴があります。そこで、計画策定にあたっては、約3千人にアンケート調査を実施するとともに、市内の障害者団体や事業者、医療機関などに対し、個別のヒアリングを実施し、丁寧なニーズ調査を基礎にそれらの方々の意見を計画内容に反映させました。担当職員が施設や作業所などを個別に訪問し、現場の実態をつぶさに見てまわり、当事者や事業者の方の意見を生で聞くことができたのは、非常に貴重な体験ともなり、手作りの計画作成ができたと考えています。

▼障害福祉計画の内容について特徴はありますか。

障害者の地域生活支援と就労支援に力を入れて策定しました。市が直接サービスの担い手になるだけではなく、民間事業者への事業委託や財政的支援によって、障害福祉施策を推進していくことが重要だと考えています。そして、平成23年度末までに現在の入所施設利用者の10%を地域生活に移行することを目標に掲げました。今後はグループホームなどの共同生活に対する支援がポイントになると思います。民間事業者がグループホーム等の整備や運営に円滑に乗り出していけるように支援策を講じていくほかに、現行の施設改修等の整備補助、新年度からは運営費補助を通した支援を実施する予定です。

▼柏圏域地域自立支援協議会を設置されたということですが。

平成19年4月25日に柏市、流山市、我孫子市の3市共同で設置しました。委員構成は、3障害に精通した各分野(障害、保健・医療・教育・雇用の関係機関・団体)の専門職19人で、3市が委嘱しています。運営は、千葉県の福祉総合相談窓口である中核地域生活支援センター「あいネット」に委ねています。協議会では、相談支援体制の整備、困難事例への対応、地域のネットワーク構築に関すること、地域の社会資源の開発や改善等に関することなどを検討しています。共同運営のため、社会資源や幅広い角度からの処遇地域間格差の是正がしやすいという利点があります。

▼障害者自立支援法の施行に伴って市独自の施策は行われていますか。

地域生活支援事業の開始に合わせて、平成18年10月に市独自の利用者負担軽減を開始しました。具体的には、障害福祉サービス、補装具、地域生活支援事業(日常生活用具、移動支援事業、日中一時支援事業)を対象に総合上限額を設定し、複数のサービスを併用する利用者が、利用するサービスの数が多くなるにつれて負担が重くならないように配慮しています。特に、地域生活支援事業については、生活保護世帯、非課税世帯、市民税均等割課税世帯は原則として無料にしました。また、補装具についても、支援費制度の頃から市で独自に負担軽減を行ってきたことを踏まえ、これらの方々については無料とするなど低所得者に対して重点的な負担軽減を実施しています。

平成19年4月からは、国の特別対策に合わせて更なる負担軽減を開始するとともに、市独自の負担軽減策として課税世帯の一部(市民税所得割額が16万円未満で保有資産が多くない方)についても対象を拡大しました。

▼地域生活支援事業で独自性のある事業はありますか。

地域生活支援事業の開始にあたっては、「従来のサービス水準を下げない」と「これまで地域のサービス資源として活動してきた事業者をつぶさない」を念頭において事業を展開してきました。平成18年度には、市内の事業者2か所(たんぽぽセンター、沼南育成園)に相談支援事業を委託し、3障害に関する日常的かつ包括的な相談受付、複雑・困難事例に対する継続的な相談業務、市の業務時間外(休日・夜間等)における相談支援業務、精神障害者の自立に向けたデイケア等の訓練・指導などを行っていただいています。

▼就労支援はいかがですか。

平成17年6月には、障害者の就労支援に実績のある市内外の社会福祉法人に委託する形で、柏市としてのジョブコーチ派遣事業を開始しました。現在、3つの社会福祉法人と連携しており、今までに23人の方を支援してきました。また、平成18年5月には、障害者就業・生活支援センター「ビック・ハート」を開設しました。ここは柏駅から徒歩1分以内の駅前商業ビルという絶好の立地にあります。すぐ近くに行政サービスセンターがあるなど、市民の方が非常に利用しやすい場所に設置しています。

▼駅から1分以内にあるのはすばらしいですね。障害者職場実習事業という事業も行われていることを聞きました。

障害者職場実習事業は、市役所における就労支援を行うために、知的障害者と精神障害者を対象に、市役所の業務(事務補助)に従事する臨時職員として採用するというものです。平成18年度、19年度とも知的障害者3人、精神障害者3人ずつ、それぞれ1か月間職務に従事していただきました。そのうち一般就労に結びついた実習生も2人出ています。

▼障害者の安全対策にも力を入れておられるそうですね。

阪神淡路大震災や中越沖地震の被害状況を見ていて、一人住まいの高齢者、障害者、外国人などに対する初期段階での支援の必要性を感じました。そこで、平成16年度から勉強を始めて、平成18年6月に「柏市防災福祉K―Net」を発足しました。この制度は、災害時要援護者と支援者の両方を登録していただくところに特色があります。地域に要支援者と支援者のグループを作ってもらい、災害の初期の支援を地域で行っていただくことにしています。現在、市内4か所の町会をモデル地区に指定し、すでに、障害のある災害時要援護者81人が登録を済ませています。講習会や避難誘導訓練などを実施しており、今後は市全体に広げていく予定です。

▼空き店舗を活用して福祉サービスを提供されているというお話をお聞きしましたが。

柏市はNPO法人が多く、民間事業所の活動が活発なので、東武野田線増尾駅周辺の商業地域で、居宅サービス事業や駅前商店街に小規模授産施設などを開設し、障害者が地元地域で普通に暮らす場所として、町の再活性化に成功しています。障害のある方々が施設を出て、街の中で暮らし、住民として消費者の仲間入りをしていただいています。シャッターを下ろして閉鎖された空き店舗の再利用にもなっており、経済効果もあります。

▼中核市に移行するにあたり、今後の障害者施策に関して考えられておられることはありますでしょうか。

中核市移行に伴い新たに保健所を設置することになるため、精神保健福祉分野での医療と福祉の連携を進めていくことにしています。平成22年度には、保健・医療・福祉の複合施設を開設し、知的障害児通園施設、肢体不自由児通園施設、保健所を併設します。また、この複合施設では、障害の早期発見から早期療育に従事するセクションを一元的に整備し、「こども発達支援センター」として位置づけ、障害児の療育にも力を入れていく予定です。さらに、成人分野では、施設の建設予定地が相談事業を委託しているたんぽぽセンターとも地理的に近いため、相談体制の強化を図ることにしています。

それ以外にも、身体障害者手帳の交付事務が移管されるため、交付期間が1か月程度に短縮できる予定です。また、柏市内だけで事業を行っている社会福祉法人に対する監査を市が実施するようになりますので、利用者の立場でよりきめ細かな指導ができると思っています。


(インタビューを終えて)

柏市には、発達障害や精神障害などの障害者支援を行う民間組織の豊かな経験が蓄積されています。柏市の行政施策の特徴として、その民間活力を有効に活用し事業を進めて行こうとする姿勢が感じられました。このような官民協力を基礎として、行政もアイデアを出して、いろいろ興味ある施策が行われていました。特に、駅前ビルの中にある障害者就業・生活支援センター、空き店舗を活用した福祉サービスの提供、地域のマンパワーを活用した防災対策などは、非常に参考になりました。柏市は、商業・学術・スポーツが盛んであり、地理的にも恵まれていることから、今後もさらに可能性を秘めていると思いました。