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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年1月号

フォーラム2008

JDFセミナー報告
―障害者権利条約と国内法整備

河原雅浩

平成19年12月5日(水)、中野サンプラザにおいて、日本障害フォーラム(JDF)セミナーが開催されました。今回は、一昨年12月13日に国連で障害者の権利条約が採択されてから初めてのセミナーであり、その間の9月28日に日本政府が署名を行ったという出来事もありましたので、テーマを「障害者権利条約と国内法整備」とし、批准に向けて国内法の整備を進めるにあたっての課題、特に教育、労働の分野における課題を中心に議論しました。参加者は講師、スタッフを含め、182人でした。当日のプログラムは次の通りです(参照)。

まず、開会あいさつの後、基調報告が行われ、障害者の権利条約が採択されるまでの経緯とこれに関してのJDFの取り組みについての報告がなされました。この条約を策定する特別委員会に、障害者団体の代表がNGO代表または政府代表団の一員として参加し、策定に加わったことは画期的な事であり、今後の国内における障害者関連諸施策の策定のあり方の模範となるべきものであると思います。また、障害種別の枠を乗り越えてJDFとして一つにまとまって政府に働きかけ、政府とともに策定に取り組んだことは、今後の国内の障害者運動の推進にとって大きな成果であったのではないかと思います。

その後、特別講演が行われ、労働の分野と教育の分野における、障害者権利条約の批准に向けての国の取り組みについての講演が行われました。労働の分野については厚生労働省の吉村和生氏、教育の分野については文部科学省の永山裕二氏よりお話いただきました。吉村氏は、障害者雇用の現状と障害者雇用促進のための取り組みの経過について、永山氏はこれまでの障害児教育における交流教育、交流活動の取り組みと特別支援教育の概要と今後の予定について、述べられました。2人とも、障害者の権利条約の批准に向けての取り組みについては、これから検討を行う予定であると述べるにとどまったのは、国の迅速な取り組みを期待していた私にとっては残念でした。

昼食をはさんで、午後は4人のパネリストと1人のコメンテーターを迎え、藤井JDF幹事会議長のコーディネートのもとに、批准に向けて国内法の整備を進めるにあたっての課題についてのパネルディスカッションが行われました。

その中で、大久保氏は、障害の定義、概念の課題について、大曽根氏は、市場化、契約化の流れの中での人権の捉え方の整理の必要性について、平野氏は、教育現場における合理的配慮の必要性と生きる力をつけるための教育の必要性について、意見を述べていただきました。この他にもさまざまな意見が活発に出されましたが、その中で、障害者の権利条約の政府仮訳に見られる政府の解釈とJDF側の解釈とのズレと、「合理的配慮」の具体的な内容、財産権や所有権などの権利との競合の調整の問題が当面の大きな課題となっていると感じました。特に条文の訳の表現と解釈については、国内の社会において障害者の権利条約の理念を実現させることができるかどうかを左右する重要な問題であり、JDFが出した政府仮訳に関する意見書に述べている通り、国連での条約制定の時と同様に私たち障害当事者と意見交換をしながら検討して行くべきだと考えます。

続いて、フロアからの指定発言者による発言が行われ、視覚障害者の鈴木氏、聴覚障害者の越智氏、精神障害者の山本氏の3人がそれぞれの立場で意見を述べました。鈴木氏は、視覚障害者が仕事の上で移動が必要な時の移動介助の問題、盲学校教員の中に点字が分からない教員がいることの問題について、越智氏は、ろう学校におけるろうの教員の数を増やすことの必要性、ろう学校教員への手話の指導の必要性、自己をきちんと主張できる力を育てる教育の必要性について、山本氏は、精神障害者に対する合理的配慮について、それぞれ述べました。

その後、質疑応答が行われましたが、最後に、コメンテーターの東俊裕氏から、「国の取り組みは非常に遅い。早急に批准に向けての国内法の見直しを始めてほしい。このままではいつ批准されるのか分からない」と、国に対して厳しい意見が出されたことが印象に残りました。

全体的に見て、こちらの準備が遅れたことや、他行事との関係で内閣府や国会議員に出席していただくことができず、物足りなかった面もあったとは思いますが、国民への障害者の権利条約の啓発、政府への批准に向けての条文の趣旨の正しい解釈とそれに沿った国内法整備の働きかけの必要性を確認できたという意味では、意義のあるセミナーであったのではないかと思っております。

ただ、正直なところ、参加者のほとんどが障害者とその関係者であり、一般の市民がほとんどいなかったのは残念です。国に対し、批准に向けての条文の趣旨の正しい解釈とそれに沿った国内法整備を強く働きかけて行くためには、私たち障害者とその関係者だけではなく、広い国民の世論の後押しが必要です。その意味で、このような行事にもっと多くの一般市民に参加していただき、障害者の権利条約や障害者のことについて知っていただき、国民の関心を高めて行くために、内容、PRについてもっと工夫しなければならないと反省しています。この他、今後、国民への障害者の権利条約の啓発の取り組みとして、地域でのセミナーの開催、イエローバッジの販売普及、啓発冊子の作成などに取り組んで行く予定ですので、ご協力をお願いします。

(かわはらまさひろ 全日本ろうあ連盟)


日本障害フォーラム(JDF)セミナー

「障害者権利約と国内法整備」
~批准に向けた各分野の課題はなにか? 教育・労働を中心に~

昨年12月13日に国連総会において障害者の権利条約が採択され、日本も今年9月28日に署名を行いました。現在政府では、批准に向けて関連する分野の国内法の整備を進めていますが、我々は権利条約の理念がどのような形で国内法に反映されるのか非常に大きな関心を持っています。

今回のセミナーでは、教育と労働の分野を中心に、権利条約の理念を国内法に反映させ、真に差別のない社会を実現させるための方法について、参加者とともに考えて行きたいと思います。

日時:
2007年12月5日(水)10:00~16:00
場所:
中野サンプラザ コスモルーム
(中野区中野4―1―1 TEL:03―3388―1151)
定員:
200名
参加費:
1,000円(介助者は無料)

☆プログラム☆(敬称略)

10:00 開会挨拶
小川榮一(JDF代表)
10:05 基調報告
森祐司(JDF政策委員長)
10:30 特別講演
吉村和生 厚生労働省職業安定局障害者雇用対策課長
永山裕二 文部科学省初等中等教育局特別支援教育課長
12:00 ~ 昼休み ~
13:00 パネルディスカッション
コーディネータ
  藤井克徳(JDF幹事会議長)
パネリスト
  川口俊徳 厚生労働省障害者雇用対策課長補佐
  大曽根寛(放送大学教授)
  平野みどり(熊本県議会議員/DPI日本会議副議長)
  大久保常明(全日本手をつなぐ育成会常務理事)
コメンテータ
  東俊裕(JDF権利条約小委員会委員長/元権利条約特別委員会政府代表団顧問)
指定発言あり
16:00 閉会

*プログラムは変更することがあります