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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年3月号

わがまちの障害福祉計画 栃木県日光市

栃木県日光市長 斎藤文夫氏に聞く
文化遺産へのアクセスに挑みつつ、NPO法人との協働を推進

聞き手:柳田正明
(日本社会事業大学実習教育センター実習助教授)


栃木県日光市基礎データ

◆面積:1,449.87平方キロメートル
◆人口:94,764人(平成19年4月1日現在)
◆障害者の状況:(平成19年4月1日現在)
身体障害者手帳所持者 3,811人
(知的障害者)療育手帳所持者 558人
精神障害者保健福祉手帳所持者 272人
◆日光市の概況:
日光市は栃木県の北西部にあり、群馬県と福島県の両県に接しています。平成18年3月20日に2市2町1村の合併により総面積は約1,450平方キロメートルで、県土の約4分の1を占める新日光市が誕生しました。全国市町村の中でも3番目の広さを有しています。多様な自然資源や歴史を語る文化資源、産業資源、良質な温泉資源に恵まれており、国内外から多くの観光客が訪れています。
◆問い合わせ:
日光市健康福祉部厚生福祉課
〒321―1292 栃木県日光市今市本町1
TEL 0288―21―5174 FAX 0288―21―5105

▼日光市の特色や魅力についてお話いただけますか。

「日光らしさ」を端的に表現するものとして、多様な自然資源、歴史を語る文化資源や産業資源、良質な温泉資源があります。世界遺産も含めて、これらは紹介すると限りがありません。平成18年、5市町村が合併し、多くの人に愛されてきた有名な温泉地も含まれました。これらの「日光らしさ」は、これまで変わることなく、先人から受け継がれてきた、世界に誇れる「ひかり」であります。合併により、それぞれの「ひかり」が、一つの集合体となりました。私は、この「ひかり」の数々を、私たち日光市民が、日光を訪れる多くの方々とともに、しっかりと見つめながら、より一層磨きをかけていくことが、日光市の大いなる未来を築いていくことであると考えています。

▼障がいのある人たちへの地域生活支援についての斎藤市長の考え方をお聞かせください。

私は、まちづくりの主役は市民(あなた)であり、「仕事」という文字が示すように、市民の皆様に仕えることが行政の使命だと考えています。この考え方の基本は、一人ひとりの人間を、一人ひとりの市民を、大事にすることができる地域社会づくりを目指すというものです。

福祉施策の基本としては、すべての市民が地域の一員としてそれぞれの尊厳を保障し、生き生きと安心して暮らせるよう「ソーシャル・インクルージョン」の理念に立ったまちづくりを目指しています。障がいの有無や年齢を超越し、市民のだれもが地域から排除されることなく、地域に包含される一人ひとりの市民であることを前提とした考え方に立つものです。そして、この基本理念の下に、障がいのある人がそれぞれの状況に応じて「自分らしく」自立することができ、障がいのない人と相互に尊重しあい支えあいながら共に「のびやか」な暮らしを送る、そうした市民の生活像を目指すものです。これは、日光市障がい者計画の中にも盛り込んであります。

▼障がい者施策の独自性、具体的なその事業の展開についてお聞かせください。

従来から特に力を入れてきた事業としては、NPO法人との協働の事業展開があります。2000年に地方分権一括法とNPO法が制定されました。当時、私は市民福祉部の部長でしたが、行政とNPOの役割について欧米から学ぶ機会がありました。欧米ではNPOやボランティアが公共であり、行政はそれを支援するというあり方でした。日本もこれからはこのような方向でいくだろうと考え、NPOを数多く育てていけたらと思い、NPO支援センター(日光市民活動支援センター)を立ち上げました。2001年の国際ボランティア年にボランティアフェスタを実施した時、NPO法人「おおきな木」が設立され、それまで市で行ってきたことをNPOにやっていただくことで展開してきました。その後NPOの数も増えて、当市は人口割でいうと、県内で1番ではないかと思っています。

NPOの良い点はよりきめ細かなことができることです。財政的には弱いところもありますが、それを行政との相互作用の中で育み、役割で分化し、独立していきました。障がい福祉の分野においては、6法人が当市の事業を実施しています。

具体的には、NPO法人「はばたき」と「ふれ愛の森」では就労継続支援(B型)を、NPO法人「草むら」と「ほっとみるく」では地域活動支援センターを、NPO法人「サポートつくし」では、移動支援(地域活動支援事業)を、NPO法人「ウェーブ」では、移動支援事業と居宅介護の各事業を進めています。また、地域の状況に合わせた独自性のある事業として、心身に重い障がいがある方に対して、タクシー利用券または燃料給付券のいずれかを給付しています。

▼障害者自立支援法関連の事業は、どういう状況でしょうか。

日光市独自の障がい者施策としては、利用者負担の軽減として平成18年10月から、就労支援施設や地域活動支援センターとして活動することとなった小規模作業所などの旧障がい者福祉作業所の利用者負担金を平成19年3月まで全額助成しています。

また、平成19年4月からは、対象を在宅・通所サービス全般に拡大し、その利用負担金の半額を助成しています。国は、平成20年度にも、障がい者の負担軽減策を講じるとの情報もありますが、市としては、現在この独自の助成を継続する予定です。

グループホーム・ケアホーム整備の推進として、障がい福祉計画に基づく施設入所者の地域生活への移行を推進するため、平成19年度より市内のグループホーム・ケアホーム整備への補助を実施しています。新築に500万円、増改築等に300万円の助成をするものです。定員の2分の1を日光市の支援する者とすることが助成の条件となっています。

これらに加えて、障がい福祉サービスを実施するNPO法人への助成を行っています。NPO法人が民間施設を賃借する場合に、月額15万円を上限として、賃借料の2分の1を補助します。1法人につき、主たる事業所1か所についての助成です。

就労継続支援B型や地域活動支援センターについては、市有施設を無償貸与しています。NPO法人が事業所等の施設を新設、または移設する場合、1法人につき1回限り200万円を上限として補助しています。また、NPO法人が障がい福祉サービスの事業者となる場合など、当面の運営費を助成することが必要なときに、1法人につき月額60万円、3か月分を上限として、無利子貸付し、貸付した月から起算して3か月目から10分の1ずつ返済するというやり方をとっています。

▼日光市には世界遺産や国の天然記念物などがありますが、それらの保存とバリアフリーのまちづくりをどのように進めているのか、現在取り組んでいること、課題点などを含めてお聞かせください。

世界遺産については、その環境整備や活用を図るための整備やソフト面の充実が必要と考えています。そのため、市内にある世界遺産地区の環境保護に対する、市民・社寺・行政の意識確認を図るため、現地調査を実施しています。

具体的には、世界遺産地区内の「歩行者ネットワーク」を形成するための課題となる「バリア」を整理し、今後の対応課題や市民・社寺・行政の役割分担を明確にするものです。主な調査項目は、歩行者の回遊ルートにおける「バリア」状況、駐車場における「バリア」状況、バス・タクシー乗降所における「バリア」状況、トイレにおける「バリア」状況です。こうした世界遺産地区については、調査により明らかになった「歩行者ネットワーク」に対するバリアフリー化の一層の推進や、その周辺の地域を含めた「観光等によるピーク時の交通需要に対応したパークアンドバスライド」の検討などが課題となっています。

次に日光杉並木街道については、生育環境の悪化や杉自身の老齢化により、年間約100本の杉が枯れるなど、このままでは近い将来、その景観が失われてしまう危機的な状況にあることから、弱った杉の樹勢回復の保護事業を行うとともに、バイパスや遊歩道などの整備を栃木県と共に実施しています。

▼今後の障害者施策について、抱負なども含めてお聞かせください。

「ソーシャル・インクルージョン」の理念に立ったまちづくりをするために、障がい福祉計画に基づく諸施策の推進として、利用者負担の軽減やグループホーム等整備を進めます。

また、障がい者への就労支援を推進するため、市及び市の外郭団体からの支援の推進や市内企業からの支援の推進が重要と考えています。同時に、世界に誇る歴史的・文化的遺産の継承・保存に努めるとともに、その活用を推進したく、また足尾地区の世界遺産登録を目指した準備作業を始めるなど、世界に向けて文化の香り高いまちづくりを図りたいと思っています。文化施設の保護とバリアフリー化は課題も多いのですが、施設のバリアフリーよりも心のバリアフリーが鍵であると思っています。


(インタビューを終えて)

NPO法人の設立などを支援するNPO法人の例は見られるようになってきましたが、日光市はそのさきがけとして大切な結果を示していると思われました。また世界遺産等のバリアフリー化は、さまざまな議論の積み重ねと継続にあって、簡単ではないのも事実でありますが、世界から訪れる人々を受け入れるという思いと取り組みに深い敬意を感じました。住民と世界から訪れる人々への両面への行政、これは日光の行政一本槍できた市長のリーダーシップあってこそではと感じました。市長さんありがとうございました。