「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年4月号
「重点施策実施5か年計画」の推進について
国土交通省総合政策局安心生活政策課
はじめに
急速な少子高齢化への対応や、共生社会の実現(ノーマライゼーション)が求められているわが国の社会状況の中、「障害者基本計画」の後期5年間における諸施策の着実な推進を図るため、平成20年度からの5年間に重点的に取組むべき課題について、「重点施策実施5か年計画」(「5か年計画」)が定められました。
国土交通省における「5か年計画」の取組みについては、主に公共交通機関や建築物等の生活環境のバリアフリー化であることから、その達成に向けては、バリアフリー新法の枠組みを活用した取組みが重要となります。
バリアフリー新法に基づく一体的・総合的な施策の推進
これまで国土交通省では、ハートビル法※1に基づく建築物のバリアフリー化や、交通バリアフリー法※2に基づく公共交通機関などのバリアフリー化、旅客施設とその周辺地域を一体的にバリアフリー化するための基本構想制度(後述)による取組みなどを推進してきましたが、平成18年12月には、より一体的・総合的なバリアフリー化を推進するため、ハートビル法と交通バリアフリー法を統合・拡充したバリアフリー新法※3が施行され、今後は同法に基づき、「5か年計画」に位置付けられている公共交通機関、建築物等の生活環境のバリアフリー化を推進することとしています。
ハード・ソフト両面の施策を充実
バリアフリー新法では、ハートビル法と交通バリアフリー法で既に定められていた内容を踏襲しつつ、新たに次の内容が盛り込まれています。
(1)すべての障害のある方が対象に
身体障害のある方のみならず、知的・精神・発達障害のある方を含むすべての障害のある方が法の対象となることを明確にしています。
(2)生活空間の総合的なバリアフリー化を推進
バリアフリー化基準に適合するように求める施設等の範囲を、公共交通機関・建築物だけではなく、道路・路外駐車場・都市公園にまで広げ、生活空間の総合的なバリアフリー化を進めることとしています。
また、障害のある方などの輸送を目的とし、車いすや寝台(ストレッチャー)のまま乗降できるリフトなどを備えた「福祉タクシー」を新たに導入する際には、バリアフリー化基準に適合させることとしました。
あわせて、バリアフリー化を総合的かつ計画的に推進していくための基本的な方針を定め、原則平成22年までの公共交通機関、建築物等のバリアフリー化の目標を設定しています。これらの目標値は「5か年計画」にも位置付け、重点的に推進することとしています。
(3)駅がない地区でも重点整備地区に
市町村は、バリアフリー化が必要な一定の地区を重点整備地区とし、バリアフリー化に係る事業の重点的かつ一体的な推進に関する基本構想を作成することができます。
基本構想の対象範囲は、以前は、主に1日当たりの平均的な利用者数が5,000人以上の大規模な旅客施設の周辺に限定されていましたが、バリアフリー新法では、5,000人未満の場合や、旅客施設が存在しない地区にも拡大されました。
このような柔軟な新しい制度の下、基本構想の策定を促進し、市町村等の取組みを活性化させることが重要です。
(4)当事者の参画で利用者の視点を反映
基本構想の作成の際、障害のある方などの計画段階からの参加を促進するため、作成に関する協議などを行う協議会制度を新たに創設したほか、基本構想を策定する市町村の取組みを促すため、整備対象となる施設の利用に関して利害関係のある利用者や地域住民などが、市町村に対して基本構想の内容を具体的に提案できる制度を新たに設けています。
基本構想を策定する際の当事者の参画を促進し、利用者の視点を十分反映したバリアフリー化が進むことが期待されます。
(5)「心のバリアフリー」の推進
このほか、障害のある方などが円滑に移動し施設を利用できるようにすることへの協力や、自立した日常生活や社会生活を確保することの重要性についての理解を深める、いわゆる「心のバリアフリー」を国や国民の責務として位置付けています。
国土交通省においても、駅などの施設で、車いすや特殊な装置によって障害のある方などの移動の困難さを疑似体験する「バリアフリー教室」を開催するなど、「心のバリアフリー」の推進に向けたさまざまな施策を行っています。
おわりに
国土交通省では、今回ご紹介したバリアフリー新法に基づくハードの整備や、「心のバリアフリー」などソフトの対策を推進するほか、「5か年計画」にも位置付けているとおり、住宅・官庁施設、高速道路等のサービスエリア、河川利用の拠点施設、港湾緑地等のバリアフリー化や、災害時要援護者の入院・入居施設の保全等を推進することとしております。
これら「5か年計画」の目標の達成に向けた取組みを推進することによって、全国でバリアフリーのまちづくりを進め、障害のある方を含めたあらゆる人が共生できる社会の実現に努めてまいりたいと考えております。
※1 高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律
※2 高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律
※3 高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律