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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年4月号

後期計画を実りあるものにするために

勝又和夫

1 はじめに

まず全体を通してみた場合、数値目標も掲げてのこれだけの施策が真に実現するならば、障害のある人たちにとって「雇用・就業問題」は相当の部分で前進すると思われた。ただし、盛り込まれなかった項目も散見され、これらについては後述することとしたい。

事業者の立場から見た場合は、障害者自立支援法との関係で、たとえば「福祉施設から一般就労への移行促進」の中に就労継続事業が含まれ、大きな意図としてはA型を指すように思えるが、B型を考えた場合には、移行促進するとの視点ではこれを計画的に整備するとの記述には違和感が残るものである。

また、福祉施設等における仕事の確保に向けた取り組みの推進には大いに評価するが、「工賃倍増5か年計画」との関係では、一定の能力を有する障害のある人たちが一般就労していく中で残された人たちの工賃倍増には、ここに示された内容だけでなく数値目標を持った具体的な支援策がさらに求められるといえ、特にB型からも一般就労への移行を目指すなら、なおこの取り組みが重要である。

2 これまでの経過からの課題

障害者自立支援法が施行された折、与党は平成15年の雇用・就業者数48万人を平成20年には60万人にすると選挙公約等において掲げていたと記憶している。現状の見込みは公表されていないが、この雇用・就業者数の中には授産施設で就労している者も含まれた数値になっており、授産施設に対する労働関係法の適応は政府の昭和26年通知や昨年の通知などから「労働者性はなくあくまでも訓練生である」としていることから、ここに含まれることに整合性がないとはいえ、後期計画での平成25年に64万人とする数値目標においてはこのことの整理を図り、実質的に雇用・就業する者をもって64万人とすることを望みたい。

もしこのことが難しいとするならば、授産施設(含む就労継続支援B型事業)や小規模作業所で就労する人たちにも労働法を適用し、この場合には、欧米先進国で制度化されている保護(社会的)雇用の実現のために賃金補填を含めた抜本的制度変更が実現されるべきである。

また、ハローワークに求職登録されている障害者数は17万人強で推移しているが、これらの人のうち実際に就職に結びつく人たちは3万人台と上昇傾向にあるものの、就職に至らなかった人たちにも本格的な再訓練の機会や就職斡旋の対策が講じられるべきである。

3 新たな課題

昨年8月15日、福祉現場で働く人たちを組合員とする福祉保育労働組合(授産施設労働者の加盟者は約3000人)が申立人となって、わが国の障害者雇用の現状が8項目(「障害者自立支援法の廃止」「障害のある人々への費用負担の撤廃」「生産性の低い人を含むすべての障害者に、現在の社会福祉法の処遇をやめて労働法と労働政策による法的保護と支援を与えること」「重度障害者のダブルカウントによる計算方法を完全確実に廃止すること」「1996年の総務庁行政監察局勧告の励行」「多くの法律間で異なる障害者分類の整合性をとり、障害者の職業的能力に基づいた分類基準で法改正をすること」「重度障害者に職業リハビリテーションセンターの利用を開放すること」「ILO条約・勧告で述べられている適切な配慮を国連の障害者権利条約でも規定されている労働法と労働政策に組み込むこと」)にわたって、ILOの第159号条約および第99号・第168号勧告に違反しているとしてILO本部に対して申し立てを行い、ILOにおいては本年2月に審査委員会が設けられ、理事会において議題とするを審議中の段階にある。

この提訴において、特に機能障害に基づくダブルカウントの問題は労働能力実態とはかけ離れたものになっており、仮にシングルカウントであった場合の法定雇用率は1993年で1.09%で、この間、実際の雇用率では同じか暫減しているのが実態であることから「雇用・就業問題」ではいかに重要な課題であるかを物語るものである。

4 事業者の立場から

私自身、旧法における福祉工場や授産施設、また障害者自立支援法での就労移行支援事業や就労継続(A型・B型)支援事業に携わっているが、昨今の不況感の増す経済環境や自立支援法が求める課題に応えるためには、何よりも利用者の仕事の確保が重要であり、国の施策動向からしても「受注や製造品販売なくして結果なし」の思いを強くしているところである。

すでに記したことでもあるが、我々の事業に携わる利用者の労働法による保護への施策転換を急いでもらうように関係機関や関係者に働きかけるとともに、この間の対策として、官民挙げての優先発注策の実効性ある取り組みを期待するもので、このことによる恩恵は20万人を超える障害者のためでもあると確信している。

また、障害者自立支援法においては競争原理が打ち出され、この分野に対してもNPO法人や民間企業の参入が始まっているが、そうしたセクターとの競争はいとはないものの、ただでも貧寒な基盤不足にあるとの認識の下に、私たちの事業が競争の結果としてその基盤までをも減少させないために、地域の主要な社会基盤や社会資源である施設の安定的な存続のために国や地方自治体は、その機能を守る努力をしてほしいと願っている。

(かつまたかずお 社団法人ゼンコロ会長)