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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年4月号

1000字提言

生活の一部である「場」
~ミャンマーの現場から

横飛裕子

認定NPO法人難民を助ける会ミャンマー(ビルマ)事務所は、障害者のための職業訓練校の運営や自助組織支援を行い、また、パートナー団体と共同でCBRや障害児支援などを行っている。

職業訓練事業では洋裁と美容理容を教えているが、卒業生の技術向上の機会や雇用の場の提供、障害者の自助の場づくり、ミャンマーの人々の障害理解促進などを目的とした実地研修の場として洋裁モデルショップ2店、理髪モデルショップ1店を運営している。いずれの店もマネジャーを含むスタッフ全員に障害がある。マネジャー以外のスタッフは入れ替わり制で働き、研修修了後は独立開業する。

これらモデルショップでは、清潔感・技術・サービスなどは他の地元店よりも上を目指しているが、店自体はどこにでもあるような店を目指した。つまり、フラッと気軽に入れる雰囲気で、障害者の店だからといって支援の意味を込めて値段を高く設定するわけでもなく、逆に遠慮して安くするわけでもない。最初は支援の気持ちで来店した人も多かったようだが、徐々に「チャリティの対象」から「馴染みの店」へと変化していったようである。「モダンなデザインの服を縫えるか分からなかったけれど、試しに注文してみたらとても素敵にできたので、家族や友達にも薦めた」などという顧客からの声もしばしば聞こえてくる。巣立ったはずのスタッフも店や地域に愛着があるようでよく遊びに戻ってくる。

店が忙しくない時は近所の人がおしゃべりに来るなど、いい具合に地域に馴染んでいるのを見て、このミャンマーにおける「場」に関し気づいた点がある。足に障害があるスタッフが多いことと予算から店舗を選んだのであるが、「地上階にあり、しかもエアコン付きで締め切った店ではなく、正面を大きく開け放した庶民的な店構えだと何かと声をかけてもらえやすい」「大通りよりも、徒歩で行き来する人が多い道沿いにあるほうが、顧客以外の人とも交流しやすい」と、書けば当たり前のことである。

障害者に対する差別が根強いミャンマーにおいて、改まって意識変容を訴えたり交流を前面に打ち出した機会を設定するだけでなく、障害への工夫をすれば多くのことが可能となることを直接知ってもらうことができる肩肘張らない「場」を作り出すこと、そしてその「場」の内容が、散髪のような「人々の生活の一部」であることも有効ではないかと思う。

(よことびゆうこ 認定NPO法人難民を助ける会 ミャンマー事務所駐在代表)