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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年5月号

障害者自立支援法の見直しに向けて
~一精神障害者からの報告

細川潮

利用料徴収の波紋

リハビリテーションとは、本来の意味が身体の機能を健全な状態に近づけ、稼働能力を付けるというのではなく、権利、名誉、資格の回復であるという。とすれば、施行より2年目を迎える障害者自立支援法ほど、矛盾に満ちた法律はないといえる。

すみれ会は会員にとって居心地の良い場所として2つの作業所に毎日40人から50人のメンバーが訪れている。それによってメンバーは仲間と働き、語り合い、時には感情をぶつけ合って人間としての喜び、生きる実感を味わっているのである。これが2年前、危機に瀕した。

すみれ会がある札幌市は、自立支援法成立とともに市内各作業所に施設利用料を義務づけようとしてきたのである。その時のメンバーの動揺は、とても言葉では語り尽くせないものがあった。また、ホームヘルパーを利用しているメンバーの中には、これまた、利用料が上がったため、ヘルパーの利用回数を減らさざるを得ない人もいた。しかし、精神科の通院医療に関しては、自己負担率が上がっても通院回数を減らす人は見られなかった。

居場所を守るための取り組み

これらの事態に私たちは指をくわえていたわけではない。居心地のよい私たちのすみれ会を守るため、スタッフ、メンバー一丸となった。徹底的に自立支援法を学習することからはじめ、札幌市内のさまざまな団体と手を組み、市と交渉し、会報に私たちの主張を掲載し訴え、そして、施設の利用料を無料にしてくださいとの要望書を市に提出。そのかいあって、現在もすみれ会が運営する2つの施設は利用料もなく自立支援法施行前と同じくメンバーが笑顔で通ってきている。

自立支援法の矛盾点

ここで冒頭に挙げた自立支援法の矛盾点をまとめてみたい。一番は、障害の程度が重くなるほど本人の負担が重くなるという“応益負担”である。根本的にこの考えが間違っている。精神障害者にとって薬は、眼鏡とか杖と同じものである。また、ホームヘルパーも生活の支えとなる存在であり、いわば私たちにとって安定して生活するための“権利”といってもよいと考えるのである。

そのほか、私たちの働く場であり、仲間との集いの場、ほっと一息できる場に利用料を掛けるに至っては、まったくわけが分からない。厚生労働省は「サービスを利用しているのだから利用料は当然」としているが、私たちや私たちの親兄弟が納めている消費税という名の間接税は本来、国が福祉のためといって導入したものであったはずである。これでは、税金の二重取りと同じではないかと言いたいのである。

求めたい環境整備~生存権に即して

私の友人に精神障害者となり、当初、福祉制度を知らず、何度も一般就労にチャレンジした人がいる。その時は、体調が安定せず何度も入退院を繰り返していたが、その後すみれ会と出会い、福祉制度を利用することで「生活が安定したら、病気も安定してよくなった」と当時を振り返っている。

私はこの話の中に、精神障害者の回復のヒントがあると考えるのである。つまり、安心して自らの病や障害と向き合い、自信を持ち、さまざまなチャレンジをするきっかけとなる環境を整えることこそ求められるのではないか。具体的には、障害者年金を充実したものにし、所得の保障をする。バス、タクシー、航空機、JRなどの割引制度を創設するなどもこの所得保障と同じ範疇に入ると思われる。

また、精神科の薬は、高脂血症、糖尿病などの副作用を発症しやすいこと、また、三障害の一元化という流れを考えても、精神科だけでなく他科を受診する場合でも安心して入院及び通院できる制度を作るべきである。

見直しに対する意見

1.障害程度区分

自立支援法による障害程度区分は、「できる、できない」式の判定項目であり、だれかの支えがあってできる、季節、時間など、環境によって大きく作用される精神障害者にとって実態を把握しづらいのではないだろうか。ここから、ホームヘルプサービスなども制限されることにはなりはしないだろうか。私は、この障害程度区分をもっと精神障害者の特性を考慮したものにすることが必要ではないかと考えている。

2.住居の保障

住居の保障も必要である。社会的入院患者とされていた人々を受け入れるためにグループホームをもっと準備するとともに報酬単価を日割りから月割りに戻すことも必要であると思われる。また、一般住居に移行することを希望する精神障害者のために、部屋を借りる際の公的な保証人制度を創設することは急ぐべきである。

3.日中活動の場の保障

また、日中活動の場も保障する必要があると思われる。そこは、安心して集える場であり、ほっとできる場であり、そこでの労働や行事、遊び、語らい、サークル活動などが、社会性をつけるのではないか。現にすみれ会では、障害者がリーダーとなっているサークル活動が盛んであり、一定の効果を示している。そこは、仕事をサボっていてもいい、寝ていてもいいといったようなルーズな組織がよい。もちろん施設の利用料などは、もってのほかである。

4.医療スタッフの充実

精神科は、その他の科に比べ少ない医師数、看護師数で良しとされている(いわゆる精神科特例)。この機会にこれを見直して十分な医療スタッフを配置してほしいと思う。もっと言うと、薬代が大半を占めると思われることから精神科診察にかかわる診療報酬を上げることも考えたほうがよいのではないか。

以上、さまざまな角度から書いたが、基本は、憲法25条の生存権に沿って精神障害者の福祉制度を創設してほしいと思うのである。自立支援法の成立で私たち精神障害者にとって見るべき点は身体、知的、精神の三障害の一元化という点である。私たちはこの点を絵に描いた餅ではなく、実体のあるものにしてもらいたいのである。見直しに際して私が主張したい点はこうしたことである。

まとめ~早期受診、早期治療の勧め

私が自分の体験やすみれ会での経験から言えることは、精神病を患うことによる障害とは、個人により差はあるだろうが、ストレスに脆弱である、疲労しやすく長時間の気持ちの集中がしにくい、意思の疎通が苦手である(このことにより社会的不利益が生ずる)、気持ちの出し入れの調節が自分でなかなかできない(長時間の何コマもの講義を受講する学生さんなら、この意味はご理解いただけるのではないだろうか)といったものであろうか。

しかしこれらの不利益も、家族などの周囲や本人が気づくことによって早期に精神科で診察、治療すれば驚くほど低減させることができる。私が聞いた事実では、幻聴が発生してすぐ入院、服薬治療に入った人が今は、健常者以上の責任を任され、ストレス耐性が高くなっているということである。このような早期治療を実現するためには、精神障害者への、いや、そればかりではなく家族に対する差別や偏見をなくすことが求められているのではないだろうか。

(ほそかわうしお すみれ会常任理事)