音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年5月号

安心して暮らすことのできる
地域社会の実現に向けた抜本的制度改正を

室津滋樹

基本的な考え方

障害者自立支援法(以下、自立支援法)の見直しにあたって必要なことは、自立支援法の何を守り、何を変えなければならないのかという議論だと思います。私たちは自立支援法が掲げている「安心して暮らすことのできる地域社会の実現」という目的をいささかも後退させてはならないと考えています。

「平成23年度までに、精神科病院入院患者5万人、入所施設入所者1万人の地域移行をすすめること、その6万人のうち3万人はグループホーム・ケアホームに、3万人は福祉ホーム・一般住宅等へ」という長年にわたって求め続けてきた「入所施設・病院から地域へ」の流れを決して、逆戻りさせることがあってはならないと考えます。

必要なことは障害者一人ひとりの暮らしが大切にされ、安心して暮らすことのできる地域社会の実現に向けた抜本的な制度の改正です。

グループホームは小規模であることが必要

自立支援法の開始とともに、グループホームの報酬は障害程度区分による入居者一人当たりの単価になりました。このことにより、ホームの入居者数に応じて運営費が入ってくることになりました。これに低すぎる報酬単価の設定が拍車をかける結果となり、大規模化する傾向が強まっています。

グループホームで大切にしなければならないことは、管理された生活ではなく、入居者が自分で、または自分たちで決める暮らしです。入浴の順番、献立をどうするかなど、自分たちのことを自分たちで話し合って決めるためには、入居者数が大きく影響します。

大規模化は、入居者と支援者のつながりを希薄なものにし、個別支援を実現してきたグループホームの良さを失わせることにつながります。また、建物の規模が大きくなれば自然な形で地域の中に存在することも難しくなり、結果として地域社会との関係も特異なものとなってしまいます。

グループホームは歴史的に見ても、障害のある人たちに入所施設などで集団・管理的な生活を強いてきたことへの反省に立って、地域の中で、障害のある人たちの個々の希望に即した生活を支える「ノーマライゼーション」の考え方から誕生したものです。大規模なグループホームはその意味で「ミニ施設化」に他ならず、グループホームの存在意義を否定することにもつながります。

入居者自身が生活の主体者となり、個々のニーズに基づいた支援を行い、地域の住民として近隣の人たちと交わりながら暮らすことを実現するためにはグループホームは小規模であることが欠かせません。4~5人の規模となるしくみを実現することが必要です。

自立支援法の見直しにあたっては、入居者数が多い方がスムーズな運営ができる現行のやり方を改め、小規模のグループホームが運営できるようにするとともに、大規模化に歯止めをかけるしくみづくりが必要だと考えます。

職員配置と人員確保

各地で「グループホームのスタッフが退職した」「スタッフを募集しても応募がない」といった事態が常態化しています。労働条件の改善が必要なことは言うまでもありませんが、労働条件だけではなく、福祉の職場は将来性がないと思われているのではないでしょうか。障害者の生活支援が、大切な仕事として社会的に認められていると思える制度になることが、働く人を確保する上で必要です。

今後、厚労省の計画通りグループホームを増やせるかどうかの最大の障壁は担い手の確保です。スタッフの待遇改善を図るには、グループホーム・ケアホームの人員配置基準と報酬額の見直しは急務です。

グループホーム・ケアホームの場合、同じ人員配置基準であっても日中活動等に比較して報酬額の単価が低く設定されています。しかし、さまざまな状況に対応して、地域での暮らしを支えるためには高い専門性が必要です。私たちの試算では、グループホームの世話人と生活支援員の報酬額では常勤職員を雇用するのは難しく、時給800円から1000円程度の非常勤スタッフで援助するということになります。

生活支援という仕事は、生活の多岐にわたる対応が必要で、そのノウハウを身に付けるのに時間がかかります。この水準の賃金で、高い専門性を必要とする人材を確保・育成していくには無理があります。グループホーム学会が実施した緊急運営実態調査でも、グループホームスタッフの68%が非常勤か嘱託職員であり、常勤職員でも3分の1以上が年収300万円以下でした。また非常勤者率が高くなることで、スタッフも入れ替わりやすく、援助のノウハウを引き継いでいける状況ではなくなります。

職員の孤立を防げるようなしくみに

グループホームの仕事は、深夜の泊まりを含み、長時間一人で対応することが多いという特徴があります。入居者に一人で向かい合うことが多くなるということからも、職員には援助に行き詰まりやすい職場でもあります。職員が長い間仕事に携われるようにしていくためには、グループホームとスタッフを支えるしくみづくりが欠かせないものと考えます。

サービス管理責任者がスタッフを支える役割を十分に果たすことができるようにするためにも、業務に専念できる報酬額にすべきです。サービス管理責任者のスキルアップのためにも研修を初回だけではなく、継続して行うようにすることも必要だと考えます。

個別支援計画に基づく支給決定を

報酬額や人員配置、夜間支援体制の有無が障害程度区分によって決まるしくみにも問題があります。入居者に提供している援助量と障害程度区分を比較したグループホーム学会の調査では、同じ障害程度区分でも援助量は10倍以上の開きがありました。つまり、障害程度区分は必要な援助量の基準としては不十分であるということです。

厚労省は障害程度区分について「障害者に対する障害福祉サービスの必要性を明らかにするため当該障害者の心身の状態を総合的に示す区分であり、市町村がサービスの種類や提供する量を決定する場合に勘案すべき事項のひとつ」としており、障害程度区分は心身の状態を示す区分であり、「障害程度区分の他、サービスの利用意向、家族等の介護者の状況、社会参加の状況など概況調査で得られる勘案事項を加味して、サービスの種類や量について、個別に支給決定する」としています。

入浴時にどの程度の援助が必要かということは障害程度区分に現れますが、その人が汗を多くかくため毎日お風呂に入るのか、入浴すると疲れてしまうので1日おきに入るのかといったことは障害程度区分では分かりません。実際の生活でどの程度の援助を必要とするかは、生活環境や暮らし方などによって大きく変わります。

ホームヘルプサービスなどは、障害程度区分以外の勘案事項を加味して個別に支給決定する必要があるとしているのに、グループホーム・ケアホームについては障害程度区分によって報酬額、人員配置や夜間支援体制の必要性を決めていることに大きな問題があります。入居者一人ひとりについて、障害程度区分のみではなく、環境、生活の仕方なども加味した個別支援計画に基づく個別支給決定を行い、それによる加算をすべきであると考えます。

地域移行がすすまない

長い間、グループホームはバックアップを入所施設に求めてきた経緯から、入所施設のない地域にはグループホームがないという分布の偏りがあります。この偏りを是正し、グループホームのない地域にグループホームを作っていくためには、その地域で、グループホームの支援を担うセンター機能をしくみとして作っていくことが必要になってきます。

施設入所者の移行希望を把握し、そのニーズに基づいて、グループホームを計画的に作っていけるようなしくみが必要です。

障害児のグループホームも必要です。

障害児を支える家族や地域の力が弱まってきており、障害児に対する虐待も増えてきていると言われています。家族が支えられない場合、入所施設ではなく、グループホームのような場が特に子どもには必要だと思います。障害児のグループホームについての検討が必要です。

まとめ

地域での暮らしが実現できるように制度の充実をはかり、文字通り、障害者の自立を支援する制度となるようにしていただきたいと思います。

(むろつしげき 日本グループホーム学会代表)