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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年5月号

1000字提言

「85人」という数字は少ないのだろうか

小山万里子

この2月、北海道での、「生ワクチン投与によりポリオ発症」報道に、またこんなことをやっているのかと、言うにいわれぬ悔しさと憤りがこみ上げてきた。3月14日、参議院での民主党島田議員の質問への福田総理の答弁は、「予防接種後副反応については、その症例報告が開始されたのが平成6年10月からであり、現時点までに報告された件数は、182件で(中略)予防接種健康被害認定審査会において生ポリオワクチン接種後に麻痺を発症したと認定された事例は、平成元年度以降80件であり、また、生ポリオワクチンを接種された者からの二次感染と認定された事例は、平成16年度以降5件である」。答弁では「極めてまれ」に発症とされたけれど、この数字はそんなに少ないのだろうか。認定患者だけで年間4~5人、二次感染が1人、毎年の新生児数を120万人として、24万人から30万人に1人、未認定や発症に気がつかない、先天性障害などとされた子どもを考えると、年に10人近く発症しているのではないか。その上、毎年1人が二次感染。国立感染症研究所によれば440万人に1人くらいマヒが出るそうだが、実情ははるかに多い。

不活化ワクチンへの切替でワクチン由来患者をゼロにした他の先進諸国をよそに、日本のみ生ワクチン投与を続けている。不活化ワクチンへの切替が提言されてから随分たち、結局、単独の不活化ワクチン製造を諦めて4種混合ワクチンにするそうだが、製造開始はまだ何年か先になるだろう。昭和35年のポリオ大流行時にソ連やカナダから超法規的措置で生ワクチンを緊急輸入し、大流行を終息させた誇るべき先例がある。これに倣って、不活性化ワクチンを輸入し、国内での4種混合の実用化を待つ、という方策をなぜ採れないのか。厚労省担当者に伺ったら、「輸入を希望するメーカーがない」「輸入承認に際して必要な治験データなどが揃わないので輸入できない」とのことだった。生ワクチンは、大流行地域には効果を発揮するが、ほぼ制圧した地域においては、被害の方が大きい。もう日本での役目は終わったのだ。また生ワクチン由来の強毒化ウイルスによる流行という大変な事態も2000年の中米諸国などの例があり、国内では免疫獲得率の低い昭和50年頃生まれの人たちが、この危険にさらされる。

ワクチンポリオ体験者は、「ポリオになるだけでもひどいのに、その上、ポストポリオ症候群発症は本当に辛い。こんなことは自分だけでたくさんだ。85人への一生の補償費用分で不活化ワクチンに切り替えられるんじゃないか」と言う。何百万分の一の確率だなんてとんでもない、発症した者にとっては100%の確率にさらされたのだ。これ以上ポリオの患者を増やしてほしくない。もうたくさんだ。

(こやままりこ ポリオの会)