音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年5月号

ほんの森

聴覚障害児・者支援の基本と実践

奧野英子編著

評者 野澤克哉

中央法規
〒151―0053
渋谷区代々木1―60―5
定価(本体2,800円+税)
TEL 03―3379―3865
FAX 03―5354―7437

一読してみて、これまでに聴覚障害者の教育、社会福祉、職業、精神衛生など特定分野の著書は多いが、この本はタイトルからも分かるとおり網羅している分野が大変広く、今後、聴覚障害児・者の支援にかかわる入門的な事典としての役割を果たしていける著書であると感じた。

聴覚障害は外見からは分かりにくい障害であり、社会に理解してもらう前に理解をつくるように自らや関係者が積極的に働きかけていく必要がある障害である。その働きかけを作る適切な著書であると思う。

執筆者には主に聴覚障害児・者にかかわる分野の若手の専門家や実践家が多いが、このように幅広く聴覚障害児・者の福祉にかかわる支援の手引き書はこれまでにあまり例が無く、専門の立場から見ても貴重である。

特に、第6・7章の現場の第一線で生き生きとあるいは悩みながら活動している聴覚障害当事者の具体的な報告は、現在の聴覚障害者の社会生活の状況をよく現わしており、障害が見えにくい聴覚障害者の理解に役立つ。また、それぞれの施設や団体活動の責任者の自団体の報告は比較学習にもなり貴重である。

聴覚障害者の「ろう運動」は全国手話通訳問題研究会や手話通訳者、要約筆記者など健聴者との連携で行われている特徴がコミュニケーションと情報の面からある。それをきちんと整理している編著者の奥野英子教授の慧眼に敬意を表したい。

本著はそれぞれの章、節、小見出しで纏(まと)めていて自分に関心のある箇所をすぐに見つけやすくなっており、内容の濃淡はあるが簡潔な文章中心なので読みやすい。

欲を言えば、聴覚障害者の福祉の分野では教育分野と並んでかそれ以上に「手話」は重要な課題であるが、手話についての章や節が無いのは意外であった。本著では第8章第8節のろうあ運動の中に「標準手話の普及による手話言語の認知」として手話を取り上げているが、第8章に日本手話研究所を取り上げるような方法でぜひ手話について詳細に取り上げてほしかった。改訂版で期待したい。

ともかく聴覚障害児・者支援の基本と実践について学ぶ大学、専門学校、手話講習会、手話サークル等だけでなく、聴覚障害団体も活動上の必読のテキストとして活用していただくことを強く推奨したい良書である。

(のざわかつや 東京学芸大学非常勤講師・日本聴覚障害ソーシャルワーカー協会会長)