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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年6月号

私の学生生活とこれから学ぶ人たちへ

医療機関との連携体制と人脈作り

長江亮

学部時代

私は大学の2年時に交通事故に遭い障害を負った。車いすを使用するようになって大学の3年次から復学したが、車いすで学生生活を送るために必要とされることはいくつかある。特に重要なことは、命の危険があるときや体調が悪いときなど、いざというときに連絡でき、すぐにだれかが助けに来てくれる体制を確保することである。私の場合は、自力で体温コントロールができず、排尿・排便管理もできない。体温コントロールができなくて体調が極度に悪いときや排尿ができないとき、自己導尿中に何かがあった場合は命に関わることになる。

私が復学後にまず確保したのは、学校及び学校近辺にある医療機関との連携・携帯電話の保有である。これによって救われたことは何度かあった。排便管理は命とは関係ないが、失禁をしてしまうと実に気まずい。このためにも医療機関との連携は必要不可欠である。

次に勉強を円滑に行うための人脈作りである。現在の大学でも建物がバリアフリーになっていないところがいくつかは必ずある。医療機関との連携体制を確保した後、まず初めに行ったのは、ボランティアサークル巡りだった。そこで、エレベーターがない校舎で教室に行くための協力者を確保した。だが、この方法はお勧めできない。なぜなら、協力者には私が必要とする時間に必ず階段の下にいてもらわなくてはいけない。いくらボランティアサークルとはいえ、責任感がない人もいるし、私の協力をすることが自分の利害と一致せず、ヘルパーのようにサービスビジネスとして協力を提供しているわけでもないからである。この点で一番効率的なのは、同じ講義を受けている人に積極的に話しかけて仲良くなることである。同じ講義を受けているため、受講生のうちだれかは必要とする時間には必ず来る。当然そこから友達の輪が広がってゆく。こうなれば階段というバリアなどあってないようなものである。それに、同じ講義を受けていることから、勉強会も共にできる。

また、サークルに所属することも重要である。私は障害を負う前はいずれのサークルにも属していなかったが、映画が好きだったこともあって、復学後は映画鑑賞サークルに所属した。これらサークル仲間は何かと力になってくれる。前に述べた緊急連絡や、建物移動のための人材確保などもサークル仲間から声をかけてもらった人もいる。結局一番大切なことは、学内で友達を作ることである。

大学院時代

私は学部と同じ大学の大学院に進んだが、大学院では少人数制になるため、教室を変えてもらうことが比較的容易にできる。私の場合、自分のアクセスしやすい教室を、あらかじめ担当の先生にお願いして教室を決めてもらった。また、排尿には時間がかかり、講義を行う校舎に障害者用のトイレがないこともある。この場合には、講義担当の先生に前もって事情を話しておくとよい。ほとんどの先生が講義開始を少し遅くしてくれる。仲間を増やすこととともに、このような事前の準備が重要なのである。その後、私は大学院を大阪に変えた。

学部と大学院の決定的な違いは、同僚が勉強や研究で忙しいことである。もちろん仲間を作ることは重要だが、学業を円滑に進行するための環境整備には、まず大学自体に働きかけてみるのがよい。試験や研究で多忙なときに、常に身近な協力者を確保できるとは限らないからである。

大阪大学の大学院入試を受け合格した後、私は学内で円滑に勉強と研究活動ができるように環境整備をお願いすることから始めた。これは自分が入学した研究科の事務に相談すれば、いろいろと検討をしてくれる。大阪大学では、学校側が私に何を提供してほしいのか要望書を出してほしいといわれた。

私はまず、椅子と机が備え付けの大教室ではアクセスできないこと、障害者用のトイレがなければ大学院生活が行えないこと、雨が降ったときにはだれかの補助が必要なこと、いざというときの連絡先を確保してほしいこと、指導教授の研究室が別キャンパスにあるため、キャンパス移動用のバスを低床バスにしてほしいこと、指導教授の研究室のある建物が車いすでアクセスできず、建物内もバリアフリーでなかったためバリアフリーにしてほしいこと、キャンパス内に坂道がたくさんあるので全部平地にしてほしいこと、などの要求書を出した。予算の関係もあり、キャンパス内改造まではやっていただけなかったが、それでもそれぞれの部署がそれぞれ工夫してくださり、何年かの時間はかかったが、前記要望はほぼ満たしていただいた。

大学における障害学生の受け入れは、決して悪くない。私は昔、ひどい扱いも多々受けてきたが、最近では、大学側が積極的に要望を聞いてくれるようになってきている。これから大学に進学しようか迷っている人には、ぜひ進学を勧めたい。大学院では皆が目標を持ち、研究に取り組んでいる。従って、いつでも協力してくれるわけではない。だが、どのような問題があっても一番大切なのは、仲間を作ることである。大学院においても、私と同じゼミの仲間はいつもいろいろと世話をしてくれた。どのような悩みでも、たとえわれわれのみが抱えていて、健常な人には分かりにくい悩みですらも仲間なら理解しようとしてくれるし、精一杯協力してくれる。そのような素晴らしい仲間を作ること、作るためにも大学進学を勧めたい。

(ながえあきら・早稲田大学高等研究所助教)