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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年6月号

列島縦断ネットワーキング【神奈川】

旅リハ!!
旅を通じた社会参加支援プログラム

宮地秀行

旅リハとは?

「旅行に行きたい」という願望は多くの障害者がもっています。しかしまた、多くの障害者が「旅行に行くこと」を諦めてしまっているように感じます。横浜ラポールでリハ・スポーツやフィットネストレーニングに積極的に参加している人ですら、「旅行」というとその一歩が踏み出せないでいる人が少なくありません。

交通機関の利用方法や段差、トイレなど物理的な環境に不安を感じることは想像できますし、そもそもそうした旅先の情報が得にくいということも一因として考えられます。また、周囲への遠慮や引け目、障害に対する漠然とした不安といった心理的要因、さらに、周囲の冷たい視線、あるいは同情といった社会のバリアが大きな理由になっているかもしれません。

私たちはこうした種々の理由で旅行を諦めている障害者の目線に立ちながら、これらの阻害要因を解消し、障害者が自発的に旅行を楽しめるようになることを目標にしたプログラムができないか?と考えてきました。

「旅リハ」は、障害がある仲間とともに旅行を楽しむために必要な条件や手立てを考え、自信をつけていこうとするものです。障害者自身へのアプローチだけでなく、旅行に関係する社会環境側への働きかけも視野に入れながら、あくまで障害者の「自立と社会参加」を目的としたリハプログラムとして位置づけています。その点で、単なるバリアフリー旅行の手配とは一線を画しています。

「旅リハ!! in 沖縄」

「旅リハ」の目的地選択にあたっては、1.できれば航空機を使って、2.できるだけ遠くに行き、3.現地障害者との交流ができる、ことを条件として考えてきました。「航空機」という移動手段と「遠い場所」は、どちらも非日常性が高く、それだけで不安材料になりますが、だからこそ、それを体験することが大きな自信につながります。

沖縄を最初の交流目的地として選んだのは、平成18年の沖縄県リハビリテーション研究会でリハ・スポーツを紹介する機会を得たとき、「将来、沖縄でリハ・スポーツ交流会を実施したい」という声かけに関係者の皆さんが賛同してくれたことが大きな理由です。そして、独特の方言や音楽、青い空と海、ホスピタリティあふれる人々、といった付加価値が「旅リハ」の雰囲気を大いに盛り上げてくれると予想できたからです。

日程は3泊4日としました。初めてにしては長いと思われるかもしれませんが、観光地をさっさと見て回る健常者の旅行とは違い、障害者の旅には何より時間的ゆとりが必要です。沖縄までの所要時間は2時間半程ですが、長い距離の移動は健常者でも疲れるものです。しかも、初めての旅行で不安と緊張の中、空港までの移動やいろいろな手続きなどがあれば、特に初日は余裕がありません。3泊4日はせっかくの沖縄を楽しむ最低限の日程です。

参加者は脳卒中片麻痺者が主体です。参加条件は健康の自己管理ができていること。日常生活で介助が必要な場合はご家族と一緒に参加していただくこととしました(表1)。

表1

  1回目 2回目
開催時期 2007年2月上旬 2008年1月下旬
参加者数 23名(当事者14名、付添い9名) 24名(当事者15名、付添い9名)
障害 脳血管障害 23名 脳血管障害 14名、脳腫瘍 1名
平均年齢 63.6歳(最高齢72歳) 63.2歳(最高齢81歳)

スタッフは参加者数と参加者の障害状況などを考慮し、医師、看護師、理学療法士、スポーツ指導員が同行しましたが、障害や現地プログラムの内容によって柔軟に対応できることが理想です。

現地プログラム

1.「首里城本殿までの階段を昇る!」

体力的に余裕のある人には旅先でのチャレンジプログラムとして、首里城本殿までの階段を自分のペースで歩こう!という提案をしました。手すりなどなく、高い段差です。随分無茶な提案ですが、何人かがチャレンジし始めると、それまで躊躇していた人や車いすを手配していた人までもが昇り始めました。結局、我々が車いすルートを進めた人以外は全員階段を昇り切り、本殿前での記念撮影はみんな満足そうな笑顔でした。

2.「リハ・スポーツ親善大使として現地障害者とのスポーツ交流」

旅の目的の一つは現地障害者とのスポーツ交流です。横浜ラポールで日頃スポーツに親しんでいるツアー参加者に親善大使としての役割を担ってもらい、現地の障害者にスポーツの楽しさと横浜の元気を伝えようという試みです。そしてそれは、現地でお手伝いいただくリハ病院スタッフへのPRでもあります。ここでは同行するスポーツ指導員が臨時のリハ・スポーツ教室を開催し、グラウンドゴルフ、卓球、ボッチャなどを指導しました。

3.「美ら海水族館観光」

世界一の大水槽を誇る水族館です。館内には電動車いすを含む車いすのレンタルがあり、長い距離を歩くのがきつい方には手配しますが、中にはあえて車いすを使わずに歩きたいと言われる人もいます。大水槽を泳ぐジンベイザメやマンタのように、ゆったりと自分のペースで楽しむことが幸せなことであり、だからこそ、それを可能にするゆったりした時間の確保が重要なポイントといえるでしょう。

4.「ご夫婦別行動、オプショナルツアー!」

自由行動の時間では、いくつかの選択肢の中から時間の過ごし方を選んでもらいました。ある人はのんびりとホテルのラウンジでくつろぎ、ある人はプロ野球のキャンプを観戦し、ある人は国際通りに買い物に出かけました。このときご家族に対して、あえて別行動をとるように勧めたのも事実です。家族がいつも介助者では旅行が楽しいわけがなく、参加者全員に旅を楽しんでもらうための配慮です。もちろん、当事者の皆さんには我々スタッフと現地スタッフが対応しました。

買い物に出かけるご家族の表情は実に生き生きとしていました。しかし、解放されているのは実は当事者であったりもしていたようです!

この時間を一緒に過ごした人から素敵な言葉を聞くことができたのでご紹介します。

「いつも心配ばかりかけて世話になっている女房にプレゼントができて良かった」

「旅リハ」の効果

旅先で、参加者の表情が日に日に明るくなっていくのが分かりました。そして、帰路の機内では参加者同士が「次はどこへ行くか?」を楽しそうに語っていました。緊張感で引きつっていた初日の顔が嘘のようです。ある参加者からの感想です。「今まで友達と旅行に行く時は、旅先でいつも自動的に車いすに乗せられた。今回の旅行は全部自分の足で歩き通せた。それがとてもうれしくて、自信になりました」

一緒に旅を楽しむことができることに自信をもったのは、本人ばかりではありません。支えるご家族も一緒です。その後海外旅行に出かけたご夫婦、ご自身で旅行計画を立て、山陰を旅した3組のご夫婦、皆さんが少しずつマイペースの旅を楽しみ始めています。

さらに、現地で大変お世話になった病院では、交流会に参加した患者さんからの要望で、ボッチャや卓球に取り組み始めたとか…。こちらから同行したリハセンタースタッフも、日頃接することの少ない退院後の患者さんと過ごし、元気になっていく様子を見て、逆に元気をもらったようです。楽しい目標を提供できることはスタッフにとってもうれしいことです。

今後の展望

「旅リハ」はまだ試行の段階です。今後も参加条件の整備、スタッフの専門性、実施体制、プログラム内容と効果の検証など、課題はたくさんありますが、それらを整理しながらさらに発展させていきたいと考えています。

そのうえで、賛同してもらえる医療・福祉機関と連携するとともに、同様に関心をもってもらえる旅行業者とも連携し、「旅リハ」の機会を増やすことが当面の目標です。そして、このような具体的な活動の中で、社会のバリアが改善されていくことを期待しています。

(みやじひでゆき 障害者スポーツ文化センター横浜ラポール)